第11話
ドアを閉めて、鍵を回す。
喧騒が途切れると、なんだか無性に腹立たしさが募った。
やつに躙られた唇と首筋を壁に取りつけられた鏡で確認すれば、そこには何の痕跡もない。
肌にはもちろんのこと、唇だって至近距離でよくよく観察しなければ変化を感じとることはできない。
ほ、と胸を撫で下ろしながらも、心にわだかまった苛立ちはなかなか消えてはくれない。
「自由すぎるのよ」
晴れない苛立ちを目先の不満にすり替えて、ティアラを模したカチューシャを外す。
ついでにイヤリングも外せば、それだけで魔法が解けたような気分になる。
アイドルだってただの人。
所詮は魔法で輝いているように見えるだけ。
ステージを降りれば魔法は解けてしまうのに、24時間365日気は抜けない。
夏瑪くんは、今、私以上に世間の注目を集めているはずなのに、何の鎖にも縛られない自由さを失わない。
それは、決して私が手にできないもの。
部屋の奥に仕切られたパーテンションの中で衣装を脱げば、最後の魔法もあっけなく解けて消えた。
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