第9話

「だからまずは澤田さんに……、あーもう、途中で消えるやつがあるか?」



どうやら私の担当マネージャーに挨拶している間に、勝手にこの部屋に入り込んでいたらしい。


というか、どうしてここに?



「あの、今日はどうして……?」


「ナツメが急に見学に行きたいって言い出してね……」



私の疑問に、前島さんは顔に疲れを滲ませて口を開く。



「挨拶だけじゃん?俺は生の現場の空気を感じたかったのに」


「仕事が入ってるんだから無理に決まってるだろ?これでも最大限に調整したんだぞ」



とんだわがままじゃない。


生の現場とか、こじつけて。



「とにかく、もう行くぞ。10分の約束だ」


「分かってるよ」



しぶしぶ、といった様子だけど、一応満足はしたのか素直に前島さんの言葉に従っている。



「山崎さん、お騒がせしました。差し入れさせていただいたので、澤田さんに確認してください」


「こちらこそ、わざわざありがとうございます」



慌ただしく2人を見送っていると、去り際にとんでもなく妖艶な笑みを浮かべてやつは言った。



「またな、胡桃くるみ

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