第8話

怪しげな空気を切り裂くノックの音に、弾けたように夏瑪くんのもとから抜け出す。


見られたわけでもないのに、ドキドキと動悸が激しくなる。



キ、と一睨みで牽制してから「はい」とノックに応えた。



後ろからは「ははは、怖くねー」というなんとも気の抜ける声。


うざ。



「あ、山崎さん。お疲れさま。うちのナツメ……って……」



ドアを開けると、夏瑪くんの所属するバンド、Greatidiotグレイトイディオットの担当マネージャーの前島さんがいた。


消えかけた語尾に、前島さんの心中お察しします。



「ごめんね、山崎さん」



私に謝る前島さんは、日々マイペースな夏瑪くんに振り回されて苦労しているのだろう。


私越しに夏瑪くんへのお説教を始める。



「ナツメ!勝手に1人でうろつくな!ましてや女の子の楽屋に、おまえはぁ……」


「はぁ?挨拶しにきただけじゃん」



あれが挨拶?


ただのセクハラじゃない。



認識のズレにぞっとする。

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