第5話
「な……、」
なんで?とか、何しに?とか、何が言いたいのか分からないまま開いた口は、目の前の男に塞がれる。
「しぃー、ってば」
自分の唇に人差し指を立てていたその男は、あろうことか今度は親指で私の下唇を押さえた。
少しでも身動ぎすれば触れそうなほど詰められた距離に、動きも、視線でさえも拘束される。
ていうかこれ、絶対、しぃー、の仕草じゃないでしょ。
仮にもアイドルの肌に、気安く触れるなんて。
ぐ、と指先に力を込められ、中途半端に唇が開く。
自慢じゃないけど、ステージに立つものとしてケアを欠かさない唇は荒れひとつないふわふわを維持している。
そこに容赦なく指を滑らせ蹂躙していく。
(……リップが)
どうせ今からメイクも全部落とすけど、不自然に落ちたリップを誰かに見られでもしたら。
ここは関係者しかいないバックステージとはいえ、あらぬ誤解を招きかねない。
アイドルのスキャンダルなんて御法度。
私には、この男が何を考えて私に構うのか分からない。
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