第7話
私の憎まれ口に密かに苛立ちを募らせていたのか、不機嫌そうな色を含ませた
「帰るわ」
そう言って立ち上がる。
男の態度に腹が立っただけで、帰らないなんて一言も言っていない。
このまま時を重ねたって、私たちは恋人ではない。
そこにあるのは、ただ、お互いの熱を共有するだけの愚かな関係。
そのままバッグを掴んで肩にかけ、男のわきを擦り抜けて階下に向かう。
履き慣れたローファーに足を突っ込んで後ろを振り返ると、不機嫌さを滲ませた以外は相変わらず何を考えているのか分からない
「気をつけて帰れよ。何かあったらすぐ連絡しろ」
まだ飽きもせずにくだらない台詞を吐き続ける男に、いい加減私の怒りも頂点に達するけれど、決してそれを見せることはしない。
代わりに不敵な笑みを口元に作ると、そっと告げる。
「さようなら。稲葉せんせ」
そのままもう振り返らず、扉を開け外に出る。
カチャリ、またひとつ世界と私とを隔てる音がした――……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます