5話 謎の男

 

 男たちは全員顔を布で隠していて、誰なのかわからない。



「お仙あたしの後ろに......」

鶴姉は腰に隠していた短刀を取り出して抜いた。


「かまわぬ、二人とも殺せ」

三人の内、体格の大きい一人の男がそう言った瞬間――――。



「死ね、大女!」

一人が襲いかかってきた。



 ガッ......



「――――おい」

すると鶴姉は刀を振り翳してきた男の腕を掴んで足を斬りつけた


ザシュッ


「ぐあああああああ!!」



 男はその場でのたうち回る。



「お前ら......お仙に触ったら同じ目に遭わすぞ」

 返り血を浴びて目を見開いてそう言った鶴姉は、いつもの鶴姉じゃなかった。



 あちきは恐怖のあまり腰を抜かしてしまった。

「あ、ああ......鶴姉......」



「――すまないお仙、すぐに終わらせるからな」



「ほう、その大女は手練れのようだな 油断するな」

「はい もちろんでございます」



「大女、悪く思うな 死ね......」


 更にもう一人の男が鶴姉に向かって行く。


 警戒したのか、距離をとるように刀を振る男。

さらに相手の打刀に対して鶴姉の短刀では、いくら鶴姉が長身とはいえ間合いに差がありすぎる。



ガキンッ!!



「くっ......! お仙逃げろ!! 早く!!」

鶴姉が苦戦してる。


「え......でも、鶴姉が........」

このまま逃げるなんてできるわけがない。

腰も抜かしちゃったし、何より鶴姉を一人残してなんていけない。


「あたしは大丈夫だ!お願いだ逃げてくれ......!くっ」

相手の男も鶴姉苦戦しているようだった。



「よし、そのまま大女を斬れ お仙は俺が殺る」


「や、やめろ......!!!」

鶴姉が男と交戦しながら叫ぶ。


 すると一番体格の大きい男が刀を抜いて近づいてくる。

鶴姉に負けないくらいの長身だ。

そして何やら奇妙なことを言い出した。



「――――ほう」



「お前が"あの時"の小さな娘か 美しくなったもんだ」




「え......?」




 意味がわからなかった――。

「あの......時........の?」




「ああ、すまない」



「お前は"あの時あの場所"にいなかった故、知らなんだ」





「――――お仙、お前の両親はなぜ死んだと思う?」





「え......? あちきの....」





「おとっちゃんと....おかっちゃんは........」

時が止まったようだった。いきなりそんなことを聞かれても、わからない。



 おとっちゃんとおかっちゃんは、営んでいた宿の火事で死んでしまった。

あちきはその時、たまたま近所の家に遊びに行っていて一人助かった。



 それがあちきの記憶――――。




「火事........」




「思い出したか?そうだ、お前の両親は――――」




「!!!!」



 あちきの大好きだったおとっちゃんと、おかっちゃんは――――



 殺され........た? もしかして、この男に?




「っ......!――――」




「うぉらあああああ!!!!」

ドカッ!!!



「――――!?」


 突然後ろから鶴姉の強烈な蹴りを入れられ、男は体勢を崩して刀を落とす。

「!!」



「たらたら喋ってくれてありがとうな!!」

「あとはテメェ一人だけだぞ」

 

 さっきまで鶴姉と戦っていたもう一人の男も、仰向けに倒れていた。



 しかし鶴姉も無傷ではなく、左腕から血を流して、顔も殴られた痕があった。



「つ、鶴姉....!! 血が出てる!」



「へっ、これくらいどうってことねえよ! 怪我はないか、お仙?」 


「う、うん あちきは平気だよ....!」


「よかった」

「とりあえず下がってろ 今からそいつぶっ飛ばしてやるから、二人で帰ろうな」

鶴姉は男に刀を向けた。



 

「ちっ、やってみろ大女」

男は体勢を起こた。



 今目の前で起きてるこの状況。そしてさっきの話。

この男が、おとっちゃんとおかっちゃんの死に関わってる。それだけは確信した。



「........そ、その男....」



「――――ん、どうしたお仙?」



「そ、その男があちきのおとっちゃんとおかっちゃんを殺したの!!」

「鶴姉!!あちきそいつが憎いよ......!!」



 ――――静かな風が吹く。



「......おいおっさん 今の話........本当かよ?」

鶴姉は鋭い目つきで男を睨みつける。



「......ああ? さて、どうなんだろうな」



「しらばっくれんじゃねえよ............ふざけるな 答えろ!」

鶴姉は刀を男に向けて怒鳴った。


「....................」


「......あの日、お前の両親がくだらない間違いを起こしたせいで死ぬことになった それだけだ」

男はあちきを指差しながら言う。




「――――おい!だからそれはどういう意味だって聞いてんだろが!」

「しかもなぜあたしらを狙う!」

鶴姉も訳がわからないといった口調で言い返す。でも――――




「!!」



――――その時またあちきは思い出した。




 あちきの実家の宿が焼かれて、おとっちゃんとおかっちゃんが死んじゃった前日――――。





おとっちゃんとおかっちゃんは、深刻な様子でとある話をしていたのを――――




――――あれ、この男....もしかして!




「お仙、おまえは何か思い出したようだな」




「いやあしかし、良いものが見れた」

「あの夫婦の娘がまさかここまで美しくなり、江戸で花を咲かせているとは」


「して、もうすぐあの倉地の嫁になるんだろう....?」



――――「!?」

「ちょっと待て!なぜそれを!」

倉地様のお家に嫁ぐことは、外の人間には誰にも話していないはずだった。



「ああ、知ってるさ だがそうはさせぬ」

「お前らを殺したあとに、倉地家にも消えてもらうつもりだ」

「何やらあいつは幕府から密偵のような仕事を頼まれていると聞くからな 厄介だ」



「み、密偵....!?何のこと....?」


「わけわかんないこと言ってんじゃねえぞ!!」

「話はそれだけかよ、大人しくしろ 奉行所に突き出して......」



 パンっ――――



 突然、乾いたような聞いたことのない音が響く。



「美しくなったおまえを見れたのもよかったが――――」



「俺はそれよりも"良いもの"を見たぞ――――」



「――――あの世界でな」



「!?」



男がそう言うと、鶴姉はその場に後ろから倒れた――――。




「え......? つ、鶴......姉?」





















 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る