第2話 早すぎる成長
息子が見当たらなかったので探していると、図書室のドアが開いていた。
「アーサー?」
息子の名前を呼びながら中に入ると、テーブルの上に山積みになった本が目に入った。まさかと思い近づいてみると、アーサーが本を読んでいた。背表紙には『魔法のやり方』と書かれていた。それを見た瞬間、私は何度も目を擦った。
この前まで、妖精が出てくるおとぎ話を無邪気に楽しんでいた我が子が急に魔法の本を読むなんて信じられなかった。
「何を読んでいるの? アーサー」
「魔法を学んでいるんです。マーリラお母様」
「お、お母様……?」
私は『お母様』と呼ぶように教えていないのに。夫か召使い達に注意されて直したのならまだいいが、あるいは……。
これ以上は考えるのはよそう。今は息子がどうして魔法に興味持っているのかを知らなくては。
「アーサー、どうして魔法を学びたいの?」
「学院に入って一人前の魔法使いになりたいからです」
「ま、魔法使い? 前までは妖精と友達になりたいとか言ってなかったっけ」
「子供は常に成長するものですよ。お母様」
息子は大人びた笑みを浮かべて再び本に集中した。色んな事を質問したかったが、これ以上同じ空間にいると息が詰まりそうだったので、「頑張ってね」とだけ言って部屋を出た。
――子供は常に成長するものですよ
頭の中で息子が言った言葉が反響していった。
(あなたの場合は成長しすぎよ)
私はそう思いながら廊下を歩いていった。
※
アーサーの成長ぶりは読書だけではなかった。剣術の稽古も前までは素振りだけで泣き喚いていたのが、百回以上振っても嫌な顔をせずに訓練を受けていた。
模擬試合の時は相手が青年であるにも関わらず、圧倒的に優勢をとって勝利してしまった。
この成長ぶりに夫は手を叩いて喜んでいた。
「素晴らしいぞ、アーサー! これで我が一族の名に恥じない跡取りになれる!」
「ありがとうございます。父上」
アーサーは礼儀正しく頭を下げた後、私に手を振ってきた。私は一応笑顔で応えたが、内心は息子の異常すぎる上達に恐怖を感じていた。
「うちの息子は将来大物になるぞ! 下手をすれば英雄になるかもしれないな!」
夫は一ミリも息子の違和感に気づく事なく、むしろ
私は「そうね」としか返す言葉が見つからなかった。個人的にはまだタンコブだらけで泣きながら擦り寄ってきた時の方がよかった。ドンドン私の手の届かない所まで行ってしまった気がした。
――子供は常に……。
また図書室で言った息子の言葉が脳裏を過ぎり、振り払うように稽古場を去っていった。
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