第44話 薬師、冒険者を救出する

「なぁ、本当にあそこに行くのか?」

「言い始めたのはメディスン様ですよ?」

「さすがにオークキングとオークジェネラルがあんなに凶暴だと知らなかったぞ?」


 各々町の中から隠れて冒険者達の戦いを眺める。

 オークの上位種は、オークより少し強いぐらいだと思っていた。

 ゲームの中でもほんの少し強くなったぐらいの認識だったからな。

 感覚的にはレベル10ぐらいの差だ。

 あれだけ簡単にオークが倒せていたなら、オークの上位種もいけると思うだろう。

 しかし、実際間近で見たらオークとは別物だとすぐにわかった。


「拳一撃で地割れができてるぞ……」


 拳一撃が重く、オークとは全く別物のように感じる。

 オークの上位種は体格からして違っていた。

 普通のオークより少し背丈が高いぐらいだが、肉体が圧倒的に異なっていた。

 オークがぽっちゃりなら、オークの上位種はボディビルダーのようにマッチョだ。

 その力は計り知れず、一度殴られたら即死する勢いだろう。


「メディスン様の命令だったら、命をかけてどれくらい強いのか殴られてきますよ。むしろ今すぐに行って――」

「おい、さすがにバレるだろ!」


 立ち上がったクレイディーの服を引っ張り、すぐに座らせる。

 そんなところにいくらなんでも、若手騎士達を送り込むことはできない。

 冒険者達ですら、牽制しながら町に入れないようにするので精一杯のようだ。

 オークが町に入っていくのは、仕方ない状況だろう。


「ふふふ、メディスン様が私を掴みました。まるで私を縄で縛って監禁――」

「あー、今すぐに殴れてこい! どんどんいけ!」


 そんなに殴られたいのなら、一度自分との強さを比較した方が良いだろう。

 ただ、クレイディーは本当に命令だと思ったのか、嬉しそうにニコニコして俺を見ている。


「メディスン様、ぜひ私の活躍を見ていてください」


 そう言ってクレイディーは一瞬でオークジェネラルに近づいた。


――ズドーン!


 あれ?

 あいつ本当に若手騎士なのか?

 吹き飛ばされるオークジェネラルの姿に、冒険者達も目をパチパチとさせていた。

 誰も予想をしていなかっただろう。

 オークの上位種が簡単に吹き飛ぶことを……。


 オークを一瞬で倒したところを見て、俺が思っている以上に実力はあると思っていた。

 ただ、クレイディーがあんなに強いとは誰も思わない。


「メディスン教の実力を今こそ見せる時だ!」

「「「「イエッサアアァァァ!」」」」


 クレイディーの合図で次々と若手騎士達はオークの上位種に立ち向かっていく。

 オークの上位種も抵抗するが、明らかに力の差は歴然だ。

 中には剣を置いて、力比べをして遊んでいるやつもいる。


「まさかライフタブレットと筋トレのセットトレーニングで強靭な肉体でも手に入れたのか?」


 体力がつくことは知っていたが、あそこまで変化があるとは思わなかった。

 もはや体力がつくレベルではないだろう。


 それでもさすがオークの上位種。

 若手騎士達も少しずつ力負けして、ケガをする者も出てきた。


「メディスン様以外に私に傷をつけられると思うなよオオオオオオオ!」


 処罰が好きなクレイディーはドMかと思っていたが、どうやら俺だけに対してドMらしい。

 やっぱりあいつ頭のネジが外れているし、身の危険を感じるほど怖い。

 しかも、一瞬で忘れたがメディスン教ってなんだよ。


 その間に俺は近くにいた冒険者に状況を確認する。


「皆さん大丈夫ですか?」

「メディスン様!?」

「今の状況を教えてください」

「回復薬が底をつき、さっきまではオークの上位種を町に入れないようにするのに必死でした」

「ははは、あいつら思ったより強いよな……」


 若手騎士達を見ると、みんな嬉しそうに手を振っていた。

 ああ、またあいつらオークの睾丸を持って嬉しそうにしている。

 その姿を見て冒険者も足を閉じていた。

 俺もさっきまでは同じ気持ちだったぞ。


 冒険者達に次々と回復タブレットを渡すと、ボロボロになった傷が癒えていく。


「本当にすごい回復薬だな」

「ただの回復タブレットですよ。あっ、よかったらこれをオーク達に投げてもらっていいですか?」


 オークの上位種ならオークよりも嗅覚が発達しているだろう。

 灼酸霧弾を渡して使い方を説明する。

 若手騎士達を援護するように、投げつけるとすぐに反応していた。


『ブモオオオオ!』


 やはりオークの上位種でも刺激臭には弱いようだ。

 逃げて行こうとするオークの上位種に向かって、若手騎士や冒険者はすぐに切りかかる。

 戦いに背を向けたやつはすぐにやられるからな。


「ふぅー、これでどうにかなった――」

『ブモオオオオ!』


 力を抜いた瞬間、背後からオークの雄叫びが聞こえてきた。

 チラッと振り返るとニヤリと笑うオークキングが立っていた。


 ああ、戦いの最中に背を向けていたやつは俺だったのか……。

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