第45話 薬師、二つ名を手に入れる
頭上から降り注ぐ拳を必死に避ける。
昔の俺だったら、避けられずに一瞬にして粉々になっていただろう。
ノクスに会いにいくために、一緒に訓練していたのが、こんなところで役に立つとは思いもしなかった。
俺は灼酸霧弾を投げつける。
だが、オークキングは止まったままで反応がない。
「おいおい、もう耐性がついたのかよ」
魔物の学習能力は思ったよりも早かった。
臭いとわかっていても、体に被害がないことに気づいたのだろう。
オークキングは逃げることなく、そのまま俺を襲ってくる。
「メディスン様!?」
遠くからクレイディーの声が聞こえてきた。
俺がオークキングに襲われていることに気づいたのだろう。
だが、俺とクレイディーの距離は離れていた。
きっと着く頃には再びオークキングの拳が流星群のように降り注ぐだろう。
俺はここまでなのか……。
走馬灯のように流れる記憶の中で、俺は生き残る方法を考える。
今までやってきたことは薬物を使って、処刑されないように戦ってきた。
アセトアミノフェンにビタミンE剤やステロイド軟膏。
どれも家族や領民を治療して守ってきたが、俺を守る力は一つもなかった。
そもそもスキル【薬師】には戦う力はない。
「いや……俺は毒使いのメディスンだああああ!」
俺は忘れていた。
メディスンが回復薬を作れずに、毒ばかり作っていたやつだったことを……。
最大出力で毒の合成を行う。
少しでも対抗手段になれば良い。
あとはクレイディー達が助けてくれるからな。
「合成!」
ただ、出てきた毒はウニョウニョと触手を伸ばすだけの大きな塊だった。
「お前はあの時の……」
過去の記憶を思い出している時に出てきた、ウニョウニョと触手を伸ばす謎の毒物。
生きているのかわからないその毒物をメディスンは家族のように可愛がっていた。
『ウニヨオオオオオオン!』
鳴いたことに驚いたが、それを忘れるほど毒物は触手を地面に叩きつけては俺に怒っていた。
今まで合成してはすぐに分解していたし、こいつのことを無視していたからな。
知っている毒物とは異なり、普段よりも何倍も大きい毒物が俺を飲み込んでいく。
「おいおい、俺の服を溶かすなよ!」
『ウニョ?』
「敵はあっちだからな!」
ただ、毒物は俺の言っていることがわかっているようだ。
まるで謎の毒物は俺と遊びたかっただけなのか、触手から出てくる毒液で俺の服を溶かしていた。
本当にこのままだと変態扱いとなるだろう。
しかし、そんなことを気にする暇もなく、オークキングは俺達に向かってきた。
『ウニョ? ウーン……ニョオオオオオ!』
謎の毒物は敵と認識したのだろう。
向かってくるオークキングに飛びかかっていた。
『ブモォ!?』
突然襲いかかってきた黒い物体にオークキングは困惑している。
ただ、自分の皮膚が溶けていくのを感じて声を上げていた。
【製成結果】
ホスホリパーゼA2+ヒアルロニダーゼ+コラゲナーゼ+バトラコトキシン+ヴィピリオトキシン
製成物:
効果:渦巻く漆黒の塊が触れた瞬間、組織を内側から裂き砕く。細胞が弾けるように崩壊し、骨までも侵食しながら腐食が進行する。痛みが脳を蝕み、意識が薄れた頃には、すでに体は原型を留めていない。
「あいつって結構危ないやつだったんだな」
俺の魔力はほとんど残っていない。
全ての魔力を無理に合成した結果は明らかに危ないやつだったからな。
無理に毒物を合成させるのは危ないと改めて感じた。
完全に意思があって独立しているからこそ、俺は服が溶けるまでに済んだのだろう。
オークキングは最終的に何も残らず、最後は消えていった。
「メディスンさまあああああ!」
そんな俺にクレイディーは抱きついてくる。
「はぁはぁ……メディスン様を感じる」
明らかに全裸の俺に抱きついて興奮しているのがわかる。
それに気づいたのか再び毒物は俺に近づいてきた。
俺の感情を読み取っているのだろう。
ただ、クレイディーを溶かして、この世から存在を消したら俺が犯罪者になるからな。
「おい、おすわり!」
『ウニョ?』
どうやら俺の命令は聞いてくれるようだ。
ただ、このままこいつがいたら俺達はこの世から消えるかもしれない。
ある意味オークキングよりも厄介だ。
冒険者や若手騎士達は明らかに警戒を強めている。
「なんて甘くて香ばしい匂いなんだろう」
だが、俺はクレイディーに警戒を強めている。
今も俺を守ろうとしながら、匂いを嗅いでいるのがすぐにわかる。
「分解!」
『ウニヨオオオオオオン!』
俺はすぐに謎の毒物を分解する。
また怒って触手をジタバタしていたが仕方ないだろう。
今度は毒性が弱く、魔力を少なめに合成したやつを作ってやろう。
「おい、クレイディー……」
「なんでしょうか?」
「服を脱げ!」
「へっ!?」
抱きついていたクレイディーを無理やり剥がす。
そもそも俺を守るのに、抱きついているってどういうことだ。
ただ、クレイディーを見ると目が点になっていた。
今までこんな命令をしたことがなかったからな。
「俺の命令はなんだっけ……」
「ご褒美です!」
こいつはよくわかっているようだ。
俺はクレイディーの衣服を容赦なく剥がしていく。
耳に吐息がかかっているがそれどころではない。
なぜ服を脱がすのかって?
それは俺が全裸だからだよ!
このまま帰ったら明らかに変態だと思われる。
ノクスやステラにはまだ変態だと思われていないからな。
可愛い弟や妹に変態だと思われたら、俺の心は一瞬にして死ぬだろう。
それにクレイディーが変態だと思われても、別に元からおかしいため問題はない。
ただ、パンツを脱がすのは息を荒くして、嬉しそうな顔をしていたから、そのままにしておいた。
「お前達、こんな時に何をやってるんだよ……」
遠くから集まってきた冒険者やギルドマスターは呆れた目で俺達を見ていた。
オークの死骸に囲まれた真ん中で服を脱がしていたからな。
ただ、周囲を見渡すと誰も倒れた人はおらず、無事にオークの討伐は終わったようだ。
「皆さん無事でしたか!」
「ああ、さすが変態薬師のメディスンのおかけだな!」
「ぐへへへへ」
ふいに褒められて笑ってしまった。
俺達はなんとか町を守り切ったようだ。
誰も死んだ人がいないだけよかった。
「「「「変態薬師! 変態薬師!」」」」
ただ、変態薬師という呼び名が俺の二つ名になりそうだ。
ああ、俺は死んでもいいだろうか。
むしろここで死んでおいた方が楽だっただろう。
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【あとがき】
「中々子育てって難しいよな」
「知らない間に子ども達は成長していきますからね」
「やっぱりかっこいい姿を見せるべきか? 最近、騎士達がこぞって鍛えているらしいからな」
「鍛えてどうするんですか?」
「そりゃー、子ども達にきゃー、父様かっこいいです! 俺も父様みたいになりたい! って言われたいに決まっている」
どうやら私の夫は想像以上に何か大事なものが抜け落ちているようだ。
今も服を脱いで、鍛え抜かれた体をどうやって見せるべきなのか確認している。
「それなら★とレビューを集めてきた方が喜ぶわよ?」
「えっ……そうか? 今すぐに捕まえてくる!」
それだけ言って、夫は服を着ずにどこかへ行ってしまった。
「★とレビューを持っている人はここにいる……あっ、みなさん背後に注意してくださいね」
ぜひ、背後に危険を感じたら今すぐに★とレビューを書いてすぐに助けを求めましょう。
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