第35話 薬師、久しぶりに両親と会う
屋敷に戻ると使用人達が外に集まっていた。
その中にはノクスやステラ……そして、俺の両親がいた。
久しぶりに見た両親の姿にグッと胸が締め付けられる。
ただ、メディスンだったらどう思ったのだろう。
俺はふとそんなことを思った。
「お前ら最近あいつに惑わされているようだな」
こんなに集まって何かあったのだろうか。
俺はバレないようにひっそりと近づくと、話し声が聞こえてきた。
あいつとは誰のことを言っているのだろうか。
ただ、ノクスやステラは露骨に嫌な顔をしていた。
いつも視線を外して、無表情のノクスがあんな表情をするとはな。
「兄さんはちゃんとした我が家の誇りです」
「おにいしゃま、しゅごいの!」
どうやら俺のことを言っていたようだ。
あんな大魔王様のような怖い顔をしている父に意見をしっかり言える二人を見て、俺は泣きそうになる。
本当に俺の涙腺は薬の副作用でやられたようだ。
あいつら本当に成長しているな。
「ぐへ――」
つい笑いそうになるが手で口を押さえる。
笑ってバレるのはめんどくさい。
「お前達は期待外れにはなるなよ」
「あなたもそこまでにしなさい。大事なお客様がいらっしゃるのよ」
教育に厳しい父とあまり教育に関わらない母。
それがここでは当たり前の光景だ。
小さい頃の記憶は残っていないが、あまり良い印象ではないのは確かだ。
ただ、メディスンはそんな両親のことを嫌ってはいなかった。
死ぬ間際まで家族と領民のことを考えていたからな。
「はわわ……メディスン様近いです」
「はぁはぁ、接触している」
「お前達静かにしろ!」
騎士団長の声が響く。
俺は若手騎士達に紛れて身を潜めていたから、隣にいるクレイディーや若手騎士達がうるさい。
静かにするように軽く足元を蹴ってみたが、嬉しそうな表情をされて戸惑った。
どうやら紛れるところを間違えたようだ。
「領主様申し訳ありません」
「いや、有名な騎士が来るから仕方ないだろう」
今日も騎士団長は謝ってばかりで大変だな。
それにしても有名な騎士とは誰のことだろう。
しばらく待っていると、馬車と隊列を組んだ騎士達がやってきた。
馬車に着いた紋章に見覚えがある。
「ルミナス公爵家のご到着です!」
馬車の前に騎士達が整列し、中から見知った男が降りてくる。
「あっ……勇者の腰巾着だ」
ルミナス公爵家は勇者となる王子と一緒にパーティーで活躍する聖騎士だ。
その人気は勇者を超え、ゲームの中で人気一位の男性キャラクターとも言われている。
「ルクシード辺境伯、お久しぶりです」
「いつもセリオス様の活躍はたくさん聞いている」
腰巾着のセリオスは両親や弟妹に握手をしていた。
俺といる時と比べものにならないぐらい、ノクスとステラの目はキラキラとしていた。
どこか見捨てられた感じで悲しくなってくる。
「この度は父が魔物討伐に参加できず申し訳ありません。我が領土も雪の病魔に侵され、参加できる騎士が半分以下となってしまいました」
「次期ルミナス公爵家のセリオス様にお越しいただけただけでも、心強く思っております。この度のご支援、本当にありがとうございます」
特に暖かくなるこの時期には、魔物討伐の協力を国に依頼していた。
この地が魔物に侵略されたら、すぐに王都まで魔物の大群が向かっていくからな。
今回はルミナス公爵家の長男であるセリオスがやってきたようだ。
両親に案内されるがままセリオス達は屋敷に向かっていく。
俺はそんな奴らの後ろ姿を眺めていた。
「やはりあのクールな切れ長の目に、スラッとした中にチラッと見える筋肉が素敵だわ」
「一瞬目が合っただけで、心が奪われた気分ですわ」
「さすが〝白氷の騎士様〟ね」
メイド達は楽しそうに話していた。
ちなみにセリオスも俺と同い年で、学園では令嬢達の視線を根こそぎ奪っていた。
ほとんどの令嬢が王子かセリオスに釘付けになっていたからな。
学園を卒業してからも、王子の騎士として常に一緒にいるのだろう。
俺が今後も関わることがない人物だ。
「あいつより断然メディスン様の方がカッコいいですよ」
「俺もメディスン様一押しです。そもそも筋肉が俺らよりも薄っぺらいのに、キャーキャー言われているのが気に食わねー」
若手騎士達は不満を漏らしているが、なぜそこまで俺が慕われているのかもいまだにわからない。
「どうせ自分よりモテないやつで、肉をくれるから俺がいいんだろ?」
「そんなことないです。俺はメディスン様を心から愛していますよ」
「いや、それはちょっと困る……」
クレイディーがグイグイと押し寄せてくるが、さすがにそれはやめてほしい。
終いには俺の手を握って、キラキラした目で見てくる。
「はぁはぁ、そのまま拒否して一発殴っていただいても構いません。鳩尾にゴツンと強いのを……」
ほらほら、違う方に誘導してくる。
俺の手を自分の腹に持ってきて何をしたいのかわからない。
「おっ、だいぶ筋肉ついてきたな」
「うっ……」
クレイディーの体は出会った時よりも逞しくなり、立派な騎士に成長しているようだ。
「おいおい、泣くなよ!」
「メディスン様に褒められて感激です」
「クレイディー邪魔だ! メディスン様、俺の腹筋も触ってくれよ!」
「メディスン様のために鍛えているんだぜ!」
他の若手騎士達は上着を脱ぎ始めると、ポーズを決め始める。
そのまま我が先だと詰め寄ってくると、ただの恐怖でしかない。
傍から見たら上裸の男達に囲まれている変わった状況だからな。
「みんなよく頑張ってるな」
「「「「メディスンさまああああああ!」」」」
とりあえずみんなを褒めておいた。
まさか俺のために鍛えているとは思いもしなかった。
将来を担う騎士達だからな。
その場で泣き始める騎士達に、本当にこの領地を任せても良いのかと心配になってくる。
ただ、腹筋を触れるたびに自分がいかに貧弱なのか思い知らされることになった。
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【あとがき】
「兄さん?」
「どうしたんだ?」
「僕って次期領主に向いている?」
実験中の俺にノクスが突然相談をしてきた。
何かに悩んでいるのだろう。
これは兄として解決するべきのようだ。
「もちろんノクスの方が、俺よりも地面と山の差ぐらいはあるぞ?」
「まぁ、兄さんみたいに笑い方気持ち悪くないし、足も遅くないもんね」
通常攻撃がクリティカルヒットで俺のHPは0になりそうだ。
「ぐへへへへ、相談してよかった」
ただ、それよりもノクスの笑い方が気になってしまった。
どこか俺の笑い方に似てないか?
ひょっとして★とレビューが足りないのか?
「みんな★★★とレビューを頼む!」
「兄さんついに頭をおかしくなったのかな?」
「グサッ!?」
俺はその場で崩れるように倒れた。
★★★とレビューでメディスンを元気づけよう。
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