第34話 薬師、副作用にやられる
「一日三回までがちょうど良さそうだな」
ライフタブレットの副作用を知ってから、騎士達を使った実験が始まった。
まずは毎日飲んでいたタイミングを調べて、少しずつ量を減らしていくと、次第に熱い視線を感じることは減っていく。
「みんなしゃきしゃきやね」
「たくさん汗をかいているからな」
それと同時に情熱の処理方法も教えたら、さらに毎日訓練に励むことになった。
ああ、健全に筋力トレーニングというものを教えたさ。
この世界では一人の行為を宗教上の理由と、医学的な面であまり良いと思われていないらしい。
だから若手騎士達が知らないのも仕方ないし、運動でしか発散する方法がなかった。
異世界の薬も容量をしっかり守らないといけないってことだな。
あのままだといつかエロ神様とか言われかねない。
「メディスン様、俺の筋肉を見てくださいよ!」
「腹筋なんてバキバキですよ!」
ただ、みんなどんどんと脳筋に近づき、気づいた時には筋トレ集団となっていた。
時間があればスクワットやレッグランジ、ご飯中に座っている時でさえ足は浮いている。
筋肉を大きくするには、かなりの時間を要するって聞いたことあるが、一週間で少しずつ変化が出ていた。
それに肉ばかり食べているから、彼らにとって良質なタンパク質になっているのだろう。
そのうちマッチョばかりの騎士団になるのも遅くないだろう。
「俺なんて筋肉すらないぞ?」
服をめくってみるが、俺にはうっすらとしか腹筋が見えない。
前まではみんな俺に似てヒョロっとしていたのにな……。
「兄さん!」
ノクスは怒りながら、俺の服を下げていく。
そんなにみっともない姿だったのだろうか。
最近は訓練場に来るたびに、ノクスが俺の騎士みたいになってきた。
いつも前を歩いて、若手騎士達が寄りつかないようにしてくれる。
それに合わせてステラも一緒にやっているから、騎士ごっこをしてるのだろう。
この年頃ってごっこ遊びが好きだからな。
「じゃあ、また肉を持ってくるよ」
「メディスンさまああああ!」
「我々の体はメディスン様に捧げております!」
「はぁ……はぁ……どんな時でもお使いください。処罰ならいくらでも受けます」
やっぱりクレイディーはネジが数本ぶっ飛んでいるようだ。
どことなく他の若手騎士達も影響されているような気がするが、騎士団長がしっかり教育し直すだろう。
訓練場で運動を終えると、俺は町に向かっていく。
行くのはいつも通りの冒険者ギルドだ。
色々な情報はギルドマスターが教えてくれるからな。
「よぉ、薬師の兄ちゃん!」
「相変わらずお元気そうですね」
「なんて言ったってあのかゆみとおさらばできたからな」
「靴もちゃんといくつか用意したぞ!」
雪痕と呼ばれるしもやけ問題が落ち着き、ついでに治療することになった白癬も改善傾向になりつつある。
冒険者達は嬉しそうに俺に足を見せてくるが、普通に考えたら人に足を見せつける行為って汚いからな。
それでも嬉しそうに話す領民を見て、やったことが間違いではなかったと感じさせられる。
「最近何か困ったことはないか?」
何もなければ良いが、暖かくなるとまた違う問題が出てくる。
この時期だと花粉症の患者がチラホラと増えてきたからな。
「あー、そろそろ魔物が目を覚ます頃だな」
帰ってきた言葉は思ったものと違っていた。
そういえば、暖かくなると魔物の活動も活発になる。
それに合わせて冒険者や騎士は魔物の討伐に向かう。
俺が次期領主として外されたのもそれが原因だ。
だって、俺は戦う
スキルに頼らなくても良い剣の腕や体力があるわけでもない。
今回は完全に邪魔者扱いになりそうだ。
「また素材と肉が集まったら呼んでくれよ!」
「ああ、兄ちゃんがいてくれたから、今年は腹を減らさずに生きられたからな」
「兄ちゃんは俺達にとったら……」
「「「会いに行ける神様だな!」」」
どうやらここでも俺はアイドルのような扱いを受けているらしい。
「ぐへへへへ」
そんなに褒められると、俺もニヤニヤとしてしまう。
俺は挨拶をして屋敷に戻ることにした。
「やっぱりあいつは神様じゃなくて悪魔じゃないか?」
「あの笑い方はいつ見ても不気味だもんな」
「まぁ、悪魔でも助かったのは事実だな」
冒険者ギルドから聞こえてくる声に俺は再び泣きそうになってきた。
異世界の薬は涙腺を弱くする副作用でもあるのだろう。
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