第27話 薬師、騎士に捕まる
騎士達に連れ去られる中、誰かがすぐに駆け寄ってきた。
「次は誰をたぶらかしたんですか?」
走ってきたのはメイドのラナのようだ。
食事の準備をしていたのだろう。
エプロンを着けたままやってきた。
作業中に集中していたら聞こえないからな。
「おいおい、その言い方はまるで俺が――」
「黙れ! お前は変質者だからな!」
騎士の耳は飾りだろうか。
さっきまでステラがお兄様と言っていたのに、俺がメディスンだと気づいてなさそうだ。
いくらなんでもルクシード辺境伯家の騎士なら、長男の名前ぐらいは知っていそうだが……。
いや、唯一俺の名前を呼んだのは、庭師のおじいさんだけか。
「また変質者になったんですか!?」
「そうだ! 勝手に屋敷に入ってきて、ノクス様とステラ様に接触していたからな」
「ついにノクス様に接触したんですか!?」
「やはり前から前から企んでいたのか!」
まるで元々計画していたかのような言い草だ。
ステラといい、ラナも話せば話すほど俺が勘違いされていく。
きっとノクスと関わることがなかったから、そこに対して驚いているのだろう。
表情からして喜んでいるのがすぐにわかる。
「そんなに安心してもらえたら騎士冥利に尽きます」
ただ、ラナの表情すら今は間違った方向に進んでいく。
メディスンの処刑ルートってこんな些細なことでも免れることができないのだろうか。
それに騎士冥利に尽きるとはなんだ。
騎士はルクシード辺境伯家に忠誠心を捧げるなら、俺が捕まえられているのはおかしいからな。
「それでメディスン様をどこに連れて行くんですか?」
ああ、確かに外に投げ出されるなら理解はできるが、引っ張られているのは屋敷の方だからな。
「危ない奴は檻にいれて、領主様の判断で処分します」
ここに来ても父親の一言で運命が変わるようだ。
「いくらなんでもやりすぎではないですか? 雪の病魔が流行った時に薬を作ったのもメディスン様ですし、領地の問題を解決したのもメディスン様です。皆さんが食べているお肉を提供しているのもメディスン様ですよ」
「そーだよ! おにいしゃまのゼリーはおいちいんだからね!」
「ゼリー?」
「おねつのときにたべたやちゅ」
ステラとノクスは俺が捕まったことで、自分達が喧嘩していたことを忘れたのだろう。
普通に二人で話している姿を見て、ほっとした。
ただ、俺は捕まっているからな。
「はい。雪の病魔にうなされている時に私が持ってきて、召し上がっていただいたものです」
ここぞとばかりに俺のやってきたことをラナは口を揃えて伝えていく。
この短期間で地味にコツコツと努力してきたからな。
ただ、最終的には自領に忠誠心を捧げた騎士に捕まってしまう始末。
情けないな……。
「メディスン様……? メディスン様ってあのメディスン様ですか?」
騎士達は何度も俺とラナを交互に見渡す。
それは騎士だけではなく、ここで働く使用人達も同じだ。
「ひょっとして皆さん、メディスン様だって知らなかったんですか?」
ラナの言葉にみんな頷いていた。
どうやら本当に俺のことを知らなかったようだ。
基本的に俺は本館の使用人達に避けられていたし、ゼリーを作る時にしか本館に行った記憶はないからな。
すぐに騎士達は手を放すと、その中の一人である男が地面に片膝立ちになった。
彼が俺を捕まえろと指示を出した騎士だ。
剣を鞘から取り出し、まるで忠誠心を捧げる姿勢――。
「俺は騎士なんて――」
「どんな処罰でも受けます。いっそ殺してメディスン様の実験にお使いください」
いや、単に処罰を求めていただけだった。
ルクシード辺境伯家に忠誠心が高いのは良いが、明らかに逸脱している狂信的な忠誠者だ。
若干、俺でも引くほどだし、なぜか目をキラキラとさせて剣を持っている。
「はぁはぁ……、私は出来損ないの騎士です。ルクシード辺境伯家の者に処罰されるなら……本望です!」
明らかに俺が転生する前のメディスンよりも危ない気がする。
自ら目を輝かせて、処分を望む騎士なんて普通はいないからな。
俺は必死にラナや他の使用人に助けを求めるが、誰も目を合わせようとしない。
これは俺に判断を任せるということだろうか。
「俺は別に処罰するつもりもない。むしろ我が家のためにしっかり働いてくれて感謝する」
俺は地面に落ちている鞘を拾い剣を戻す。
きっと何でも許す寛大な心を見せろってことだろう。
俺には人を殺す趣味はないからな。
「おい、クレイディーはどこに……お前ええええ、こんなところで何してるんだああああ!」
しっかりとした騎士団服を着ている男が走ってきた。
そういえば、目の前で目を輝かせている男は、なぜか頭以外は鎧を着ている。
普通は胸当て程度しか着けていない。
それに他の騎士達は普通の練習着のような物を着ていた。
「メディスン様申し訳ありません。新人騎士のクレイディーがご迷惑をおかけしました」
どうやら俺に処罰を求めたのは、見習い騎士を指導していた新人の騎士らしい。
駆けつけた騎士に頭を無理やり下げさせられているが、抵抗している。
チラッと見える瞳は、まだキラキラと輝いていた。
もうこいつはクレイディーじゃなくて、クレイジーだからな。
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