第20話 薬師、浄化を覚える ※一部ステラ視点

「ほらほら、兄ちゃんどんどん食べていけ!」

「あのー、なぜこんなに肉ばかり――」

「また倒れたら困るからだろ!」


 俺は山のように盛られた魔物・・の肉を口いっぱいに頬張っていく。

 いつもスープばかり飲んでいたから、急に歯ごたえのある赤み肉を食べれば口も疲れ、胃もびっくりしている。

 ただ、それよりも驚くことがあった。


「ラナは食べないのか?」

「本当に大丈夫なんですか?」

「普通のラム肉って感じだぞ」


 一般的には魔物の肉を食べることはしないらしい。

 ただ、この町では食料不足なのもあり、わずかな量だけ魔物の肉を食べていた。

 魔物の肉にも魔力があり、人間の持つ魔力と相反するため、食べすぎると魔力酔いを起こすらしい。

 そして、俺がマナタブレットの食べ過ぎで倒れたのも、急に魔力が回復したことによる魔力酔いの一種だ。

 なんとなくゲームの中でも、そんな話を聞いたことがあっても、ゲームにそんな仕様はなかったから覚えていない。


「魔力を抜き出すってやっぱり兄ちゃんは変態だな」

「それ以上言ったら薬を――」

「あれは取引だからな!」

「薬がアセトアミノフェンのように一種類だけとは言って――」

「すまない!」


 ギルドマスターは勢いよく立ち上がると土下座をしていた。

 これがジャンピング土下座というのだろうか。

 そもそもこの世界にも土下座があったことに驚きだ。


 魔物の素材から成分を抽出する際、普段であれば素材は消えていく。

 ただ、魔物の肉を使ったところ、魔力粉が抽出され、目の前にはただの肉と魔力粉があった。


【抽出結果】


 クラッシュラムの肉→ラム肉+魔力粉


 いつもならスキルで成分を抽出したら、その後は魔力を使えばいくらでも取り出せる。

 ただ、素材から得られたラム肉と魔力粉は他とは扱いが違うのか、現物がないといけないようだ。

 謎ばかりのスキルだが、魔物の肉から魔力粉を抽出したという形なんだろう。

 魔石から魔力粉をいつでも出せるのと、何が違うのか実験が必要だな。


「メディスン様が言うなら……」


 ラナは恐る恐るクラッシュラムの肉を食べていく。

 すぐに目を大きく見開いているところを見ると、普通のラム肉と変わらないようだ。


「臭みもないですし、羊の肉より食べやすいですね」

「やっぱりそうだよな。思ったよりも食べやすい気がする」


 俺自身ラム肉をあまり食べたことがない。

 癖のあるイメージだったが、そんなことすら感じないほどだ。


「よかったら他の魔物の肉も浄化・・してくれ」

「メディスン様、私達のためにもお願いします!」


 毒しか作れなかった男のスキルが、こんなところで浄化と言われるのは考え深い。

 領民や家族のためだけではなく、ここはメディスンのためにやるべきだろう。


「俺にはエネルギー供給剤があるからな」


 マナタブレットを大量に製成して口に入れる。

 すぐに吸収させるためにポリポリと噛み砕く。


「ぐへへへへ、〝いつでもどこでも社畜をプラス〟だな」


 疲れは取れないもののスキルはどれだけでも使える。

 まるで前世の社畜時代を思い出す。


「お前のご主人様、やっぱり変態だな」

「私もちょっと心配になってきました」

「それにしても社畜ってなんだ?」

「メディスン様、かなり変わっている人なんで……」

「「変態か……」」


 その後も俺は素材の抽出に加えて、魔物の肉を浄化し続けた。

 様々な成分が抽出されるため、だんだんと楽しくなる。

 ギルドマスターとラナが何かを話していたが聞こえなかった。





「へへへ、おにいしゃまからもらっちゃった」


 お兄様からもらったアメをポケットにいれて、すぐに魔法の授業に向かう。

 あまり食べすぎたらいけないと言っていたけど、お兄様はたくさん食べていたからいいよね?


 モグモグとしながら、いつも騎士達が使う屋内訓練場に向かった。

 勉強は嫌いだけど、魔法の授業は楽しいから、私も好き。

 今度はお兄様にも見てもらおう。


「ステラ、遅いぞ」


 訓練場に着くと、すでにノクスと先生がいた。

 最近のノクスはいつも怒っていて嫌いだ。

 前は一緒に授業をサボっていたのに、今は別の人になっちゃった。


「ステラ様、魔法の授業を始めますね」

「はーい」


 怒られるとやる気がなくなっちゃうな。

 お兄様と遊んでた方が良かった。


「今日は基本魔法のおさらいをします」


 先生は呪文を唱えると、手から小さな火を出した。

 初級魔法のファイヤーボールだ。

 兄のスキルは〝魔法騎士〟、私のスキルは〝賢者〟。

 ノクスも魔法を使えるけど、私の方が魔法は得意だもん。


 ノクスの方をチラッと見てニヤリと笑う。


「ぐへへへへ、まけにゃいもん!」


 ついついお兄様と同じ笑い方になってしまった。

 いつも気持ち悪いって言ってるけど、ちょっとだけしか気持ち悪くない。

 お兄様のコロコロ変わる顔を見てて、楽しんでいるのは内緒だよ。

 

 手には私よりも大きな炎が浮かび上がる。

 これでノクスや先生も驚くはず。


「おい、何やってるんだ!」

「ステラ様、今すぐに魔法を消してください!」


 なぜか二人して私を怒ってくる。

 そんなに私の魔法はダメなのかな……。

 落ち込むと同時に炎も萎んでいく。


「魔力を使いすぎたら、話しにくくなるって言われただろ!」

「あまりにも強いスキルには代償があるんです。ステラ様は言語能力の低下……すなわち賢者として必要な呪文すら唱えられなくなります」


 私のスキル〝賢者〟は魔力がなくなることで、魔力の器が成長する。

 ただ、他のスキルとは違う魅力的な能力なだけ、その代償として言葉が上手く話せなくなる。

 そのうち何も発せなくなると先生は言っていた。


 今話せなくなるとお兄様と話せないから嫌だな……。


「ステラ様、何か話してみてください。あれだけ魔法を放ったら魔力が尽きてくると思います」

「んー、いちゅもとかわりゃないよ? しゅてら、げんき!」


 本当にいつもと変わりない。

 普段なら頭もクラクラするけど、もう少し魔法を使えそうな気がする。


 ひょっとして――。


「あっ、おにいしゃまのくしゅりかな?」


 私はお兄様が作ったアメをポケットから取り出す。

 たしかにこれを食べてから、魔力が増えた気がする。


「そんな毒物を食べるな!」


 ノクスは私の手を払った。

 大好きなお兄様がせっかく作ってくれたお薬なのに……。


「あんなやつに会うなと言っただろ!」


 今までノクスのことはめんどくさいやつとしか思わなかった。


「もう……のくしゅのばか!」

「おい、魔法の授業中だろ! どこにいくんだ!」

「のくしゅ、なんてしらにゃい!」


 でも今日から嫌いになった。

 ノクスは私の腕を掴むが、勢いよく振り切る。

 私にはメディスンお兄様がいるんだもん!


 またお兄様に会いたくなったから、急いで離れの屋敷に向かう。


「ノクス様、この薬調べてもいいですか?」

「ああ、僕には関係ないからね。あいつは僕のこともステラのことも嫌いなんだ」


 チラッと振り返ると、先生とノクスが何かを話していた。

 やっぱり私のこと好きじゃないんだね……。


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【あとがき】


「ねね、おにいしゃま?」

「どうしたんだ?」

「しゅてらのことしゅき?」


 実験中の俺にステラが自分のことを好きなのか聞いてきた。

 チラッと見ては視線を泳がす。

 何か不安を感じているのだろうか。


「もちろん好きに決まってる」

「ほんと?」

「あたりまえだろ。俺の大事な妹だぞ」

「ぐへへへへ」

 

 最近ステラの笑い方が俺に似てきた気がする。

 ひょっとして★とレビューが足りないのか?


「みんな★★★とレビューを頼む!」

「おにいしゃま? それじゃあだめだよ?」

「そうなのか?」

「おほちしゃまとれびゅーちょーだい!」


 ステラはニコニコした顔でお願いをしてきた。


「「ぐへへへへ」」


 その姿に俺もついついニヤニヤしてしまう。




 今回はステラの話し方に着目しました。

 ただの舌足らずだと思ったかな?

 マナタブレットも意味があるんです笑



 あー、★とレビューまだかなー?| |д・)チラチラ

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