第21話 薬師、妹の異変に気づく
「しばらくはちゃんとした食事が食べられますね」
「他の人達もしっかりと食べているのか?」
「メディスン様ほどではないですが、食料不足なのは変わりませんね」
「できればステラとノクスにも行き渡るようにしてくれ」
ギルドマスターからはいくつか素材を分けてもらい、抽出できる成分だけはストックしてきた。
そのおかけでできそうな薬もしもやけや白癬以外にも様々なものに応用できそうだ。
それに魔物の肉もいくつかもらってきた。
元々食の細い俺はそこまで食べなくても良いが、成長期である弟妹には少しでも良いものを食べてもらいたい。
「では私は調理場の方に持っていきます」
ラナはそのまま本館とここの屋敷にある調理場に肉を片付けにいく。
「俺も薬を作ろ……ステラ?」
部屋に入ると、いつも俺が座っている椅子に小さく丸まってるステラがいた。
その体はどこか震えているような気がした。
「おにいしゃま!」
俺だとわかると、すぐに駆け寄り飛び込んできた。
突然の行動に戸惑いを隠せないが、何かあったのだろうか。
「どうしたんだ?」
「おにいしゃまはしゅてらのことしゅき?」
「えっ……?」
やっぱりいつもと様子がおかしい。
好きって聞いてくることもなければ、こんなにベタベタとすることはあまり見られなかった。
どちらかといえば気持ち悪いって露骨に嫌な顔をすることばかり。
「やっぱおにいしゃまも――」
「いやいや、俺はステラのこと好きだぞ! 急に言われたからびっくりしただけだ」
「そうなの?」
顔を上げたステラの顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。
俺が来るまでずっと泣いていたのだろう。
ステラは俺と居た時に魔法の授業があるからと、部屋を後にしていた。
町に行っていた数時間の間に何があったのだろうか。
「しゅてら、おにいしゃまがいるからいい」
強く抱きしめてくるステラに内心は嬉しい気持ちになっていたが、それよりも心配が勝っている。
今まで元気なステラしか見たことがないのに、ここまで落ち込んでいるのは初めてだ。
――ガチャ!
「メディスン様……えっ……やっぱり変態!?」
「おい、また勘違いするな!」
どこから見ても俺から抱きついているわけではない。
それに妹だから多少抱きついていても問題はないはずだ。
「らにゃはしゅてらのことしゅき?」
「私ですか? もちろん好きですよ」
今度はラナの方に行ってしまった。
変態だと言われるのは嫌だが、簡単に離れられるとそれはそれで悲しくなる。
「そういえば、そろそろお食事の時間ではありませんか?」
「いりゃない!」
そろそろ夕食の時間に近づいている。
俺達は冒険者ギルドで食べてきたから問題ないが、ステラはずっとここに居た。
ひょっとしたら昼飯から何も食べていないかもしれない。
――ぐぅー
その証拠にお腹の音が鳴っている。
「ステラ一緒に帰るぞ」
「あっちにいきたくないもん!」
心配だから一緒に本館の方に帰ろうとしたが、手を振り払われてしまった。
俺はラナと顔を見合わせる。
これは子どもの時にある、〝まだ帰りたくないもん〟ってやつだろうか。
ただ、そうであれば〝あっちにいきたくない〟という発言はしないはず。
「なら一緒に食べるか?」
「いいのー?」
何か理由があればそのうち話してくれるだろう。
今は自分で話したくなるのを待つしかない。
それに時間が解決してくれるかもしれない。
「この屋敷の調理場も料理はできるよな?」
「はい。最近はメディスン様の料理をここで作っておりましたので」
雪の病魔が流行っていた時は、あまり近くに寄らないために本館で食事の準備をしていた。
だが、ここ最近はこの屋敷で食事の準備をしている。
その関係もあって材料が少ないのだろう。
「よし、気分転換に一緒に料理をするぞ!」
「ぐへへへへ」
俺はステラを抱えて調理場に向かっていく。
嫌なことは楽しいことをして、少しでも忘れたほうが良いからな。
それにしても何か不気味な笑い声がしたけど、気のせいだろうか。
ステラの顔を見ても、ニコニコとしているから気のせいか……。
「だんだんと兄妹に似てきましたね。あっ、メディスン様、そちら調理場ではなく、倉庫ですー!」
どうやら俺はこの離れの屋敷に何があるのかも、わかってはいないようだ。
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