第19話 薬師、初めて膝枕をされる

 後頭部に感じる硬めの枕に何度も寝返りを打つ。


「うっ……寝返りはやめてくれ……」


 さっきまで冒険者ギルドにいたのになぜ寝ているのだろうか。

 寝返りをするたびに、声が漏れ出ている気がする。

 目を開けると視線の先にはラナがいた。

 ひょっとしてラナに膝枕をされているのだろうか。

 女性に膝枕をしてもらうなんて、記憶の中では初めてだ。


「ぐへへへへ」


 やはり勝手に口元は動き、ニヤニヤと笑ってしまう。

 そんな俺を見て、ラナは笑いを堪えているようだ。

 いつものように変な笑い方になっているのだろう。

 ただ、気になるのはラナの上にも男の顔がチラチラと見えていることだ。


「俺の膝枕はそんなに良かったのか?」

「へっ!?」


 そのまま体を起こせばラナにぶつかってしまう。

 わざと・・・姿勢を変えると、目の前に何か膨らみを感じる。


「ギィヤアアアアアアア!」

 今まで出したことのない大きな声が部屋に響く。

 どうやら俺は男に膝枕をされていたようだ。

 倒れた俺の顔をラナは覗き込んでいただけだった。


「さっきから聞こえていた声って――」

「がははは、何度もコロコロしてくるから困ったぞ」


 男は大声で笑っている。

 俺は必死に頭に残っている感触を手で振り払う。

 本当は毒で頭ごと焼き払いたいぐらいだ。


「先に求めてきたのはメディスン――」

「俺は求めてない!」


 別に男性の膝枕を求めたわけでもないし、それ以上の関係になるつもりもない。

 できれば異世界に来たなら、可愛い女の子と仲良くなりたい。

 せめて男でも、こんなにゴツい人とはどう頑張っても無理だ。


「メディスン様は噂通りの冷たい人だな」

「俺は優しく……ん? 今メディスンと言ったか?」


 一瞬、ラナが話しかけたと思ったが呼んだ声は響く低音ボイスだった。

 ラナの顔を見ると、やけに視線を合わせようとしない。


「ひょっとして俺の正体バレてます?」

「ああ、ここの領主の長男であるメディスン・ルクシードだろ? さっきメイドの姉ちゃんが名前を呼んでいたからな」


 なるべく正体を隠して、名前を呼ばないようにしていた。

 それなのに男にはメディスンとバレてしまったようだ。


「メディスン様が気絶するから、つい名前を呼んでしまいました……」

「ラナは気にしなくていい」

「メディスン様の寛大な心に感謝します」


 側付きのメイドが仕えている主人の名前をずっと呼ばないのは無理がある。

 俺が倒れたタイミングで呼んでしまったのは仕方ない。

 ただ、俺がメディスンだとわかっても、男の態度は変わらない。

 俺の噂は知らないのだろうか。


「なぜ、俺に対して普通に接するんですか?」

「それは……キャー、へんたーい! って感じにの方が好みであれば――」

「いやいや、それはやめてください」


 男は低音ボイスで俺のHPを削ってくる。

 この人には俺が変態という認識しかないようだ。


「もしくは……命を軽んじる非道な領主の息子ってことか?」


 重くのしかかる空気に俺は息を呑む。

 やはり俺の噂は知っていた。

 ただ、すぐに男はニコリと微笑んだ。


「俺の知ってるのは領民のために薬を作った薬師のメディスンだ。それに噂通りの人物なら、こんな魔物の死体で倒れるはずもない」


 まだ魔物の死体は片付けていなかったのか、そのまま隣に置いてある。

 ああ、また気持ち悪くなりそうだ。


 ステラよ……。

 世の中にはお兄ちゃんより気持ち悪い存在はたくさんいるからな。


 俺は再び意識がぼーっとしそうになると、男は俺に深々と頭を下げた。


「冒険者ギルドのマスターとして感謝する」


 噂ではなく、俺自身を見て判断しているようだ。

 それだけやってきたことが評価されたのだろう。

 自然と笑みが溢れてしまう。


「それでメディスンは何を探してたんだ?」

「雪痕の治療薬を作っているんだが、材料が足りなくて――」

「雪痕!? それは俺達もあると助かる」


 冒険者は魔物と戦うために重い鎧を着ていることが多い。

 通気性が悪いのに加えて、発汗量も多いため足の環境が整っていない。

 ギルドマスターも急いで靴を脱いで、足を俺に見せてきた。

 ひょっとして――。


「それってしもやけじゃなくて白癬じゃないのか? 別名水虫とか――」

「足に虫が住んでるのか? そう思うと足がかゆいのは仕方ないな」


 白癬とは一般的に〝水虫〟や〝たむし〟と呼ばれている。

 しもやけをただのかゆみだと思っていたら、白癬だったというパターンもありそうだ。

 騎士が水虫になりやすいという話は聞いたことがあった。


 ここでギルドマスターに出会ったのも何かの運だろう。

 俺の力で治せるものは対処してあげたいからな。

 それにお金をあまりかけずに素材を集められそうだ。


「俺が白癬を治す薬も作るから――」

「魔物の素材が欲しいってことだな」


 どうやら俺が言う前に気づかれていたようだ。

 さすが冒険者ギルドのトップは他のやつとは違う。


「ぐへへへへ」

「がはははは」


「この二人って似た者同士ね……」


 ラナの言葉にギルドマスターは急に真顔になった。


「いや、俺はこんなに気持ち悪い顔をして笑わないぞ?」

「ぐふっ!?」


 ギルドマスターは残り少ない俺のHPを最後まで削り切った。


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【あとがき】


 ぐへへへへ、男性向けなのに突如現れる需要のないBLネタ。

 こういうのが作者は好きなんです| |д・)


 面白いと思ったら★評価していただけると助かります!


 どんどん★評価やレビューで応援していただけると嬉しいです。


 レビュー欲しいな| |д・)ジィー

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