第17話 薬師、世界を変える
「メディスン様! ちゃんと掃除してくださいね!」
「普通はメイドがやってくれるんじゃないのか?」
「自分で汚したら、自分で片付けましょう!」
「はい……」
飛び散った魔力粉をホウキで集めながら捨てていく。
キラキラと輝いて綺麗だったのは一瞬だけだった。
あとの処理は粒子が細かいため、思ったよりも掃除が大変だ。
「ステラは大丈夫だったか?」
「一緒に寝ていた時間もわずかなので大丈夫だと思います」
ステラは俺に魔石を見せるために、早朝から遊びに来ていた。
なんでも昨日見せた毒のマジックのお礼に自分の宝物を見せたかったらしい。
そんな宝物をもらって良かったのかといまだに罪悪感に襲われる。
ちなみにステラはラナに呼ばれて朝食に連れて行かれた。
早朝からステラがいないと、本館ではメイド達がバタバタしていたらしい。
偶然朝食を取りに行ったラナがそれを知ったようだ。
俺もステラに誘われたが、一緒に食べることは両親に禁じられている。
だから、俺は一人でコソコソと食事を食べるしかない。
「魔力粉の使い道はありそうですか?」
「んー、俺の思っているように使えそうであれば、ポーションみたいなのができそうな気がするんだけどね」
「本当ですか! ついてにメディスン様がポーションを……」
メディスンがポーションを作るのに苦労していたのを、俺よりも一番ラナが知っている。
早速、朝起きてから実験しようとしていたことを試すことにした。
今回はこの世界と元の世界にある成分との合成だ。
ただ、どうやって作用するのかもわからない。
「合成!」
【合成結果】
マナエッセンス+ゼラチン
製成物:
効果:魔力の生成に働きかけ、魔力を回復させる。
「おー、本当に完成した」
手のひらには青色のソフトキャンディのようなものが完成した。
ただ、プニプニしておりタブレットよりグミに近いような気がする。
一度食べてみるが、味は特に苦味もなく食感のみを味わう感じに近い。
「口が寂しい時に良さそうだな」
「メディスン様、そんなに寂しかったんですね」
「いや、そんなことは――」
気づいた時にはなぜかラナに抱きしめられていた。
何か変な勘違いをしているような気がする。
――ガチャ!
「おにいしゃ……まあああああ!」
タイミングよくステラが帰ってきた。
口に食べかすが付いているがそんなの気にならないのだろう。
勢いよく俺に抱きついてきた。
いや、顔をわずかに動かしているのは、口が汚れたことに気づいて拭いているのだろう。
ご飯を食べてから、すぐに戻ってきたようだ。
「二人とも離してくれ……」
あまりにも強く抱きしめてくるから苦しくなってきたのもあり、二人を引き剥がす。
なぜかお互いに顔を見合わせているの。
「おにいしゃま、にこにこしてる」
「笑ってますね」
どうやら自然に笑っていたようだ。
「ぐへへへへへ」
少し恥ずかしくなり誤魔化すように笑った。
「おにいしゃま……きもちわりゅいよ?」
「やはり笑ってはいけませんね」
なぜか笑うと俺は嫌われるようだ。
「おにいしゃま、それにゃに?」
落ち込んでいる俺とは異なり、ステラは俺の手に持っているものが気になっているようだ。
「マナタブレットって魔力を回復するやつだよ」
「まにゃたぶれりぇと?」
ステラに一粒渡すと、口の中でもぐもぐとしていた。
ただ、味がなくて食べにくいのか戸惑ったような表情をしている。
「メディスン様……」
「もうハグはいいからな!」
ラナは突然何をするかわからないからな。
少し警戒をして離れる。
これでも一応思春期真っ只中の男子の体だからな。
それにラナって見た目は可愛らしい。
中身が成人していても、必死に耐えるのは苦行のようなものだ。
「あのー、魔力を回復するってマナポーションと同じじゃないですか?」
「「はっ!?」」
ラナに言われて気がついた。
単純にマナエッセンスを合成できたことに喜んでいたが、粗雑ではあるもののマナポーションに似たものを作ることができていた。
「そうか……やっと俺もポーションが……」
どれだけメディスンが実験していても、できなかったことがやっとできた。
ずっとポーションを作るのを夢見ていたからな。
「ふふふ、おにいしゃまなきむちだね」
「今日は大変な1日ですね」
「ななな、泣いてないからな!」
目から涙が溢れないように天井を見るが、頬をスーッと一筋の涙がこぼれ落ちる。
さっきから落ち込んだり泣いたりと色々あった。
ただ、頑張っていた彼を少しだけ理解できたような気がした。
そして報われて良かったと心の中から思った。
「ねーねー、ましぇきはちゅかえたの?」
そういえば、魔石から出た魔力粉を使っていなかった。
「せっかくステラからもらった宝物も使わないとね」
魔力粉がこの世界のものであれば、同じように掛け合わせることで何かができるだろう。
ゼラチンがグミのように固まる作用があると想定して、まずはマナエッセンスと魔力粉を合成し、その後ゼラチンを加えることにした。
【合成結果】
(マナエッセンス+魔力粉)+ゼラチン
製成物:初級マナタブレット
効果:魔力の生成に働きかけ、魔力を回復させる。少しだけ魔力の器を広げる。
見た目はまるで口臭予防のお菓子のようにも見える。
今度はグミよりもタブレットの形になっている。
おそるおそる口に入れると、さっき食べた粗雑なマナタブレットとは全く異なっていた。
噛んだ瞬間に広がる刺激的な甘みが、疲れた頭に刺激を与える。
「まるでエナジードリンクだな」
どれだけ社畜のように働いて眠たくても、シャキッと目が覚めた時の感覚に似ている。
それに魔力の器が広がる効果付きだ。
魔力の器はゲームの中でMPの最大値に例えられていた。
最大値が増えれば増えるほど、スキルに影響を与える。
魔力の器が大きくなるってことだ。
俺の場合は抽出や合成の際に魔力を必要とする。
それに回数や難易度で使う魔力量が異なる。
それを考えると俺にとっても、すごい品物になるってことだ。
「ぐへへへへ、ステラのおかげだよー!」
今度は俺がステラを抱きしめる。
ステラが魔石をくれなければ気付かなかっただろう。
このマナタブレットがあるだけで世界が変わっていく気がする。
「おにいしゃま……きもちわりゅい」
やっぱり俺の笑い方はステラから好かれることはないようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます