第16話 薬師、ステラの宝物をもらう
翌日、目が覚めた俺はすぐに椅子に座った。
ずっと興奮した状態が続き、全然寝られなかった。
ただ、体は休んでいるのか魔力は少しずつ回復はしている。
「メディスン様、おはようござ――」
扉を開けたラナと一度目が合うが、すぐに扉を閉められてしまった。
変な笑い方をしていたのかと思い、近くにある手鏡を見るとその姿に驚いた。
「なんか……悪い薬を使ってるやつみたいだな」
目の下にはクマができており、全体的に顔色が悪い。
ただ、異常なほどの覚醒や強い興奮が目から伝わってくる。
血走っていると言えば良いのか?
まるで薬物……いや、これ以上言うのは俺が傷ついてしまう。
簡単に言えば狂気的な目になっている。
ステラに言われた死んだ魚の目に似ているのとはまた違った感じだろう。
「おにいしゃ――」
「ステラ様、今開けたら……」
中に入ってきたステラと目が合ってしまった。
「うええぇぇぇん、オーガいりゅよおおおお」
その場でステラは震えると、大きな声をあげて泣き出してしまった。
どうやら今の俺の顔はオーガに似ているようだ。
オーガってゲームの中盤に出てくる鬼の見た目をした魔物だ。
白目が赤く染まり、不気味な顔をしている印象がある。
俺も同じようなやつに見えるのだろうか。
メディスンの記憶の中でも、本に書いてあるオーガの顔は不気味で怖かったもんな。
「俺ってそんなに怖いのか……」
「メディスン様!?」
気持ち悪いと言われるのは俺でも理解はできる。
ただ、怖いって言われると俺も悲しくなってきた。
それにメディスンが一番そう思っていたのか、段々と感情が過去のメディスンの心に引っ張られてしまう。
誰よりも人の役に立ちたいと思っていた彼にとって、傷つく言葉だったのかもしれない。
「ステラ、ごめんな。今日は少し疲れているから休むよ」
きっと寝不足なのがいけないのだろう。
体を休めれば元気になるはず。
俺は少しだけ仮眠することにした。
「はぁー、ステラに悪いことをしてしまったな」
少しだけ休むと心と体が楽になった気がする。
やはり寝不足だと過剰に物事を受け取ってしまう。
幼いステラを驚かしてしまったのは俺の責任だ。
それなのに俺が傷ついているって、兄として情けない。
「おにいしゃま?」
「うぇっ!?」
隣を見るとなぜか一緒にステラが寝ていた。
どうやら布団の中に忍び込んで、二度寝をしていたようだ。
部屋に来た時はまだ朝早かったもんな。
「これあげりゅ!」
その手には小さな石を持っている。
何かわからないものをステラは差し出してきた。
どこかで見たことある気もするが、メディスンの記憶にはない。
「これはなんだ?」
「たからもの! ステラとなかなおりしてくれりゅ?」
どうやらステラは俺と仲直りをするために、宝物を持ってきたようだ。
優しいステラに再び涙が溢れそうになる。
「あわわわ、おにいしゃま!?」
そんな俺を見てステラはあたふたとしていた。
俺だってメディスンがこんなに涙脆いことに内心あたふたとしている。
少しずつメディスンの体と頭がリンクできてくると改めて感じる。
彼が本当に望んでいたものは、簡単に手に入りそうなのに、すごく遠いところにあるのを――。
「それならステラにはこれをあげるよ」
俺はあるものから抽出したものを渡すことにした。
きっとステラにとっては嬉しいものだろう。
「これにゃに?」
見た目は白い粉のため薬と変わらない。
ジーッと見ても毒のように動くわけでもない。
ただ、ゼリーを美味しいと言っていたのを聞いて、この間から渡したいと思っていた。
「カエデの樹液から抽出したスクロースという成分だ」
カタカナ表記ばかりで忘れていたが、スクロースは記憶の中ではショ糖と呼ばれる砂糖だったはず。
一般的なのはグラニュー糖や上白糖と呼ばれている。
カエデってメープルシロップの原料になっているからな。
試しに俺も一口だけ舐めてみる。
「甘すぎるな……」
スクロース100%だと砂糖を直接舐めているのと同じだ。
砂糖が珍しいこの世界ではステラも喜ぶはず……。
申し訳ない気持ちが優先して、ステラの顔をはっきりと見ることができないや。
「おにいしゃま!」
「なっ……なんだ!?」
「あまあまだよ!」
ただ、そんなことを気にしていないステラは、俺の顔を覗き込んで嬉しそうに微笑んでいた。
その笑顔にどこか俺だけではなく、メディスンも報われたような気がした。
「ねね、ましぇきは何になるの?」
どうやらステラがくれた石は魔石らしい。
そういえば、紙には魔石を抽出した結果は載っていなかった。
ただの石にしか見えない魔石を抽出するという発想にならなかったのだろう。
それに魔物の素材すら抽出するという考えがなかったからな。
「なくなっちゃうけどいいのか?」
俺としてはせっかくステラが大事にしていたものを素材として抽出はしたくない。
抽出した成分はいつでも取り出せるが、元の媒体は消えてしまう。
「また違う魔石を――」
「ううん。おにいしゃまにちゅかってほしいの」
ステラの願いなら俺が断るのも可哀想だ。
優しい彼女なら、俺が断ることも気づいていたのかもしれない。
俺は言われた通りに魔石から成分を抽出することにした。
【抽出結果】
Fランク魔石→魔力粉
「へっ……?」
魔力粉はスライムゼリーからゼラチンを取り出すときに得た副産物だった。
魔力粉が魔石から直接抽出された。
「にゃにがでた?」
顔を覗き込むステラの目の前で、俺は魔力粉を手に取り出した。
ただ、スライムゼリーで得た魔力粉とは見た目が違った。
あの時は他と変わらない白い粉だったが、今はわずかに輝いている。
――トントン!
「メディスン様、失礼します」
ラナが扉を開けたと同時に部屋の中に風が吹き込む。
「わぁー!」
魔力粉が風に吹かれて宙に舞う。
キラキラと輝く魔力粉に俺達は目を奪われる。
俺は魔力粉を手に入れる方法を見つけた。
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【あとがき】
大きな加湿器を買ってテンション爆上げしながら、水を鍋で運んでいたんです。
ええ、そのまま転んで家が水浸しになりました。
そんなポンコツ作者に励ましのエールや★評価、レビューお待ちしております。
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