第15話 薬師、異世界の成分
「あー、気持ち悪い」
「ステラがきもちわりゅいの……?」
「違うぞ? 魔力の使いすぎだな」
あれから毒の合成と分解を繰り返していたら俺の魔力は尽きて、机に伏せていた。
中々魔力の容量が多くないメディスンの体は、このスキルを模索しながら使うとすぐに枯渇してしまう。
「しばらくはゆっくり休んだ方が良いですね」
ゲームの中では魔力と呼ばれているMPを使い切っても問題はなかった。
スキルが使えなくても剣や杖による物理攻撃ができる。
ただ、現実のこの世界ではそんなことは言ってられない。
魔力を使いすぎると吐き気や頭痛が襲ってきて身動き一つでも辛い。
MPを枯渇した状態でレベル上げをしていた俺は鬼畜なプレイヤーだっただろう。
「ステラ様、メディスン様みたいにならないように、スキルを使う時はしっかり限度を守ってくださいね」
「はーい!」
俺がステラにとって反面教師になっているのなら、嬉しい限りだ。
それに俺も自分の限界値を知ることができた。
毒の合成や分解は一定の魔力消費量があるが、魔力ビタミンE剤を製成した時のように、新しいものを合成すると魔力の消費が大きい。
これから薬剤を作るときには、ある程度の魔力量の確保と回復手段が必要となる。
「マナポーションが作れるといいけどな」
マナポーションは魔力を回復する手段の一つだ。
メディスンの力では、ライフポーションやマナポーションの作り方を聞いて実践しても作ることができなかった。
そもそも薬師のスキル持ちに俺のような抽出スキルはあっても、合成や分解はないらしい。
その代わりにあるのが調和という能力だ。
それが普通の薬師とメディスンの薬師との異なる点になる。
「さぁ、ステラ様は屋敷に戻りましょうか」
「えー」
「きっとステラ様の侍女やメイドも今頃困ってますよ」
ステラやノクスにも少なからず、侍女や執事がいる。
俺にラナだけしかいないのは、ルクシード辺境伯家のカーストが関係しているのだろう。
渋々ラナに連れて行かれて帰る姿を見送り、俺はしもやけに関する薬を考えることにした。
「ビタミンE剤はできたから、次は保湿クリームだけど、グリセリンとアピゲニンしかないんだよな……」
【抽出結果】
豚脂→グリセリン
カモミール→アピゲニン
紙の資料にはここまでの抽出結果がメモされている。
グリセリンは保湿や潤滑作用に優れ、アピゲニンは抗酸化・抗炎症作用を持つ。
本当はワセリンとなるペトロラタムを探していたが中々見つからない。
「合成もできないんだよな……」
ただ、合成はできそうな気がするのに、魔力が足りないのか何も反応がない。
そもそもアピゲニンはグリセリンのような水溶性のものに溶けにくい。
エタノールなどのアルコール溶媒で溶解した後に、グリセリンと混ぜ合わせる必要がある。
そこに魔力が大量に必要となるのだろう。
まるで不可能を可能にする合成――。
「ひょっとして調和と合成の違いってここにあるのか?」
ポーションを作るときに使う調和は似たような成分を抽出して掛け合わせる。
ただ、合成はこの世に存在していなかった成分や掛け合わせにくいものを合成した。
これがひょっとしたらメディスンがポーションを作れなかった要因なのかもしれない。
「この世界のものと現代にあるものを組み合わせたらできたりして……」
視線の先には容器に入った白い粉。
ゼラチンを作るときに分解して手に入れた魔力粉があった。
異世界の成分と言われたら、他にも異世界の成分として、エーテルエキス、マナエッセンスが存在している。
【抽出結果】
ライフポーション→エーテルエキス
マナポーション→マナエッセンス
どちらもゲームの中でもHPおよびMPを回復するアイテムだ。
ただ、エーテルエキスやマナエッセンスという素材は存在していなかった。
これらを掛け合わせると何かができるような気がする。
「だけど魔力が足りないんだよな……」
まずはどうにか魔力を回復させないと意味がない。
ひとまず体を休ませることを優先させることが一番大事になるだろう。
俺はすぐにベッドに入り眠ることにした。
「ぐへへへへへ」
だが、新しいことを思いついて笑みが止まらない。
寝た方が良いとわかってはいても、寝ることのできない俺の薄気味悪い笑い声は廊下まで響いていた。
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