第14話 薬師、毒を見せる

「しもやけ……ここでは雪痕せっこんと呼ばれているんだっけ?」


 しもやけについてラナに確認したら、雪の病魔が終わった頃に起こりやすい皮膚病って呼ばれているらしい。

 確かに雪の病魔に罹患している時は外に出る頻度は少なかったが、治れば外にいる時間が長くなる。

 次第にしもやけができやすくなるのは仕方がないことだ。


「まずはビタミンEだけど、ナッツオイルからトコフェロールが抽出されているから特に問題はないな」


 ビタミンEはトコフェロールという化合物の総称として知られている。

 サプリメントなどで服用したり、化粧水やクリームに入っていることもある。

 そして粉状で出てくるのは変わらないようだ。


「これは雪の病魔の薬と違うんですか?」

「今回のは血行促進に使うつもり。飲み薬じゃなくてクリームとかでも別に問題ないけど、やはり直接摂取した方がいいからな」


 ただ、ビタミンEは脂溶性のため、油と一緒に摂取しないと吸収効率が悪くなる。

 それに空気に触れると酸化しやすくなるため、保存方法が難しい。


「ゼラチンもあるから、ゼラチンカプセルとかで作れないかな?」


 トコフェロールとゼラチンを一度合成してみることにした。


【製成結果】


 トコフェロール+ゼラチン

 製成物:魔力ビタミンE剤

 効果:魔力を使って抗酸化作用を高める。体内の細胞を守り、肌に潤いを与え、血液の流れを改善する。ただ、吸収には時間がかかる。


 どうやらビタミンE剤自体は完成したが、何かしら足りない部分があるのだろう。

 吸収に時間がかかるってのも、油を混ぜていないからかもしれない。


「それにしてもゼラチンって便利だな」


 試しにアセトアミノフェンを合成し、そこにゼラチンを追加するとよく見る錠剤の形になってできた。


「メディスン様、それはなんですか?」

「解熱剤を飲みやすいように錠剤にしてみた」

「確かに粉だと苦味が口いっぱいに広がりますね」

「これでわざわざゼリーを用意しなくてもいいからな」


――バン!


「ダメ! ステラはゼリーがいい!」


 突然ステラが机を叩いた。


「また食べたいのか?」

「うん!」


 キラキラした顔で俺の方を見つめてくる。

 どうやらステラはゼリーが好きなようだ。

 この世界にさっぱりしたデザートがあまりないからな。

 メディスンの記憶の中でも、スパイスや蜂蜜を使ったパンケーキやフルーツケーキに似たパンのようなものが多い。

 そもそもこの領地に砂糖が少ないのも影響しているのだろう。


「砂糖……今度美味しい物を作ってあげるからな」

「うん!」


 スキルを使えば砂糖ぐらい、簡単に抽出できそうだしな。


「それでステラの勉強は進んでいるのか?」

「ギクッ!?」


 同じ机にいたが、ステラがジーッと俺の方を見ていたのには気づいていた。

 手が止まっていたから、俺に聞こうかどうか迷っていたのだろう。


 チラッと見ると算術を学んでいるようだ。

 内容的にも小学一年生が習うような算数の内容だろう。

 それでも5歳の少女が勉強するには難しい気がする。


「1-1か……」

「これむじゅかしいの」


 理解している人であればすぐにわかるが、0って中々説明がしにくい。

 俺は近く例えとして良さそうなものを探してみたが、使えそうなものは見つからなかった。

 あったものを消すって難しいからな。


「何か消せるものって……」


 俺はすぐに自分の能力に適したものがあることに気づく。


「ぐへへへへ、ここに毒の塊があるだろ」


 合成した毒の塊を手のひらに出して見せる。

 この世界に転生して初めて作った〝毒牙の宴〟だ。

 今回も宴をしているような勢いでウニョウニョと動いている。


「おにいしゃま、きもちわりゅい……」


 純粋な瞳で気持ち悪いと言われたら、どこか寂しく感じる。

 メディスンにとったら毒って、唯一自分で努力した力になるからな。


 俺は手のひらにある毒を分解してその場で消した。


「はっ!? どこいったの!」


 ステラは俺の手を持って裏表と確認する。

 小さい子からしたらマジックに見えるのだろう。


「メディスン様、そんな力をお持ちだったんですね!」


 いや、興味を示したのはステラだけではなく、ラナも同様だった。

 二人して俺の手を見た後に顔を見合わせている。


「おにいしゃま、しゅごい!」

「メディスン様、すごいです!」


 そんな喜んでくれるならたくさん毒を出してあげよう。

 手のひらに次々と毒を掛け合わせて合成して、すぐに分解する。


「一つあったものが、消えて何も存在しなくなったことを0って言うかな?」


 このままではただの毒を使ったマジックショーになってしまう。

 説明としてはこれで十分だろう。


「おにいしゃま、わかりやしゅい!」

「メディスン様、見直しましたわ」


 二人とも理解できたなら問題ない。

 ただ、ラナに関しては教育が必要そうだ。


 その後も悲鳴と驚きの声が何度も交差するが、毒をたくさん作って感じたのは、どれもが擬似生物のように動いていた。

 ウニョウニョ動くものから、溶け出すもの、変な音まで発声するなど異世界の毒って変わっている。


 元々毒がそういうものなのか、メディスンが寂しさを紛らわすものだったのかわからない。


 ただ、少しだけでも毒に対して受け入れてもらえたような気がした。

 メディスンの努力も無駄ではなかったな。

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