第15章 ダンジョン専門家のアワハラさんだけど、なにか?

第41話 アワハラさん

 ある日のMUUU事務所。


 ロナータ、神さま、ザンテツ、ジャスミンの四人が次のダンジョン攻略の打ち合わせをしていました。場所はイケブクロ・ダンジョン。最近発見されたばかりのダンジョンで異界警察の初期探索が終わったばかりのダンジョンです。難易度はAランク(シナガワ・ダンジョンとかAランクだぞ!)ですが、できたばかりのダンジョンということもあって視聴数が取れることは間違いありません。


「アワハラさんの話によると全部で五層あるらしい。だから構造としては標準的なダンジョンだな」

「つまり、服を脱がせたり、クイズをさせたりといったギミックはなさそう、ということね」


 ジャスミンの脳裏には一体の悪魔がいるのでしょう。彼女はその悪魔に苦手意識を持っていました。


「まあ、そうだな。ただ、アワハラさんの情報によると第三層の下級悪魔が魔法を使ってくるんだそうだ」

「下級悪魔が魔法を?」


「あぁ。アワハラさんが言うには使う魔法は火と水と雷だそうだ。火と水は何とかなりそうだが、問題は雷だな」

「アワハラさんは何か言ってるの?」


「雷魔法の詳細は……あぁオプション料金か」

「雷を放つだけならまだしも、高速で移動されると厄介ね。ロナータ、何かいい考えはある?」


 尋ねられたロナータはおもむろに立ち上がり、


 そして叫びました。




   「アワハラさんって、だれ〜〜〜!?」




 彼の雄叫びはMUUUのオフィスにこだまし、その場にいた人たち全員がロナータのことを見ました。


「どうした、ロナータ。急に」ザンテツが口を開きます。

「いや、みんなアワハラさんアワハラさんて言うけど、誰なの、アワハラさんって?」


「そりゃあ、お前……」


 ザンテツは少し考え込むと顔を上げました。


「アワハラさんはアワハラさんだろ」

「ぜんぜん説得力がない!」

「ダンジョンの専門家よ」


 横からジャスミンが補足を入れました。


「ダンジョンについてあらゆることを知っていて、わたしたち配信者に情報を提供してくれるの。知ってるでしょ」

「いや、知ってるんだけど」


 ロナータは表情を歪めました。


「どうして、そんなダンジョンのことについて知ってるの? イケブクロ・ダンジョンなんて、一昨日異界警察の初期探索が終わったばっかじゃないか」

「それはお前、アワハラさんは異界警察のトップだからな」

「そうなの?」


 ザンテツの言葉にロナータは目を丸くしました。


「あぁ。異界警察のトップだから、ダンジョンに関することは何でも知ってるんだ、と俺は聞いたことがあるぞ」

「あら、わたしは別の話を聞いたことがあるわ」


 ジャスミンが声を上げます。


「あの人は超大金持ちで、自らのお金で雇った超精鋭部隊を異界警察とは別に動かして情報を得ているって」

「なんだか、情報が錯綜している気がする……。そもそも、二人は会ったことがあるの?」


 ロナータの質問に二人は口を揃って「会ったことがある」と答えました。


「どんな人だった?」

「とてもいい人だったぜ」

「背が高くてイケメンだったわ。女の子なら一度は振り向くんじゃないかしら」


 三人(と神さま)がワイワイ話しているところにMUUU社長のサトルがやってきました。


「なんだい、君たち。雑談? 文春砲ほしい?」

「藪から棒にやめてください。社長はアワハラさんに会ったことありますか?」


 ロナータの問いにサトルは目を見開きます。


「アワハラか、あの人はシャイだからな。ワシも数えるほどしか会ったことないぞ。なんだ、アワハラがどうかしたか?」

「ロナータが会ったことない、と急に騒ぎ出したんですよ」


「ボクのことをおもちゃ買ってくれない子供みたいに言わないでよ」

「いや、貴様はいま十分子供っぽいぞ」


 神さまの思わぬツッコミに「え〜」と言うロナータを見て、サトルは白い口髭を撫でました。


「ふうむ、なら会ってみるか」

「本当ですか!?」


 ロナータの目が輝きます。


「メールで連絡はできるからな。ただ、さっきも言ったがシャイなヤツだからな。会えなくても文句を言うなよ」




   ***




 こうしてロナータは二日後の13時にシナガワのバックスターという喫茶店でアワハラと待ち合わせることになりました。同席者はザンテツ、ジャスミン、そして神さまです。ザンテツがアワハラの連絡先を知ってるので、緊急連絡先に。ジャスミンと神さまは面白そうだからついてきました。


 約束の時間が近づくにつれてロナータは手鏡で自分の身なりをチェックし始めました。


「そんなに緊張する?」ジャスミンがからかいます。

「だって、これから重要な人に会うんだよ。そりゃ緊張するよ」


 ロナータは白の前髪一本に至るまで丁寧にセットしていました。それを見たザンテツは豪快に笑います。


「別に悪い人じゃない。多少の無礼があったところで許してくれるさ」

「でも……」


 ロナータが言いかけたところでザンテツのスマホからバイブ音がします。


「噂をすればアワハラさんからメールだ」


 スマホを見たザンテツは言いました。


「仕事が立て込んでいて少し遅れるそうだ」

「そうなのか……」


 ロナータは面食らったかのように髪の毛をいじるのをやめました。


「忙しい人だからね、仕方ないわ」


 ジャスミンがフォローを入れるものの、そこから30分。アワハラは姿を見せません。


「ねえ、あまりにも遅すぎない?」

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