第14章 ゾシモスだけど、なにか?
第40話 レベル:?托シ撰シ?
ここは 〈世界〉の外
一つの 生命体が 〈大気圏〉に 突入しようとしていた
名は ゾシモス
外からの 異物を 拒絶する 〈壁〉を 破壊しながら———— 進む
第五層を 突破した頃 視界の すみに 数字の表記を 認めた
「何だ、これは?」
——この世界の〈定義〉です。全ての生命体には「パラメータ」と呼ばれるステータスを数値で可視化しているそうですよ。
〝サポーター〟の 回答に ゾシモスは 笑みを 浮かべた
「また
彼は すべてを 破壊する
————■■■■。
***
空から降ってきたゾシモスは集団を解析し、神さまを見つけました。
彼に問答など不要です。
認めるや否や、
神さまに急接近!
ゾシモスに反応できたのはロナータだけでした。彼は、神さまを庇うようにゾシモスに背を向けます。
ロナータの動きにゾシモスはスピードを落としました。
(否! ……関係なし!)
彼は光る目を大きく見開くと、右手に力を溜めました。圧縮したエーテルをぶつけ、一定範囲の空間を無に返す技。
ロナータが背後で力を感じた時には遅かった。
ゾシモスが腕を振り下ろそうとして————
間一髪を、ザンテツが助け出しました。
彼はロナータと神さまを抱えてゾシモスの攻撃を回避しました。ゾシモスの腕が通過した場所は強烈な閃光とともに消え失せます。それはザンテツの肩に嵌められた鎧とて同じ運命でした。
「大丈夫か、ロナータ!」ザンテツは消失した自身の鎧を凝視すると言いました。
「う、うん」
すかさずカゲマルが反撃を仕掛けますが、彼女がたどり着く前にゾシモスは左手に溜めたエーテルをぶつけます。カゲマルは直撃は避けたものの、弾き飛ばされて地面に転がりました。
「なに、この人。アンチか何か?」ジャスミンが言います。
「わからない。だが、手練れであることは間違いない。何より……」
ザンテツは目を細めて相手のパラメータを観察しました。
●レベル:?托シ撰シ?
●体力:᧿᧿
●魔力:ሐက
●筋力:釯벐退
●防御力:鐚??鐚?
●多才力:駯벘%
●速力:?暦シ?
●魅力:ᓿᗿ
●コアスキル:繝懊う繝峨?繧ッ繝ェ繝シ繝エ繧。繝シ
(パラメータが読めない。神さまと文字の表記が違う?)
ザンテツは神さまのことを見ました。神さまは驚いた表情でゾシモスのことを見つめていました。普段冷静沈着な神さまがこんな顔をするところをザンテツは見たことありません。
カゲマルの攻撃を一撃で凌いだゾシモスは集団に言いました。
「我が名はゾシモス。この〈世界〉を破壊する者だ。愚衆よ、その子供を我によこせ。この世界の〈神〉なんだろう?」
一同は目を見開き後退りしました。
(神さまのことを知ってる……?)
ロナータの頭は混乱し始めていました。神さまの存在はシン・トウキョウの一部の人しか知りません。そして、存在を知っているすべての人が漏れなく神さまに敬意を払っていました。
しかし、このゾシモスと名乗った存在は違います。
黒の絵の具を水で溶かさずに描いたような敵意。
「大人しく渡してくれたら貴様らのことは殺さないでやる」
「そんなこと言って渡すわけないだろ!」
ロナータは叫びました。ゾシモスは目を三日月状にします。口はないので本当に笑っているのかはわかりません。
「そうか……。ならば、まとめて微塵にしてやろう!」
ゾシモスは体に莫大なエネルギーを集め始めました。
「気をつけろ。何か途轍もないのが来るぞ!」
ザンテツの忠告を聞かずとも、わかりました。彼が集めるエネルギーの量は大天使・ミカエルに匹敵するか、はたまた超えてくるか。
神さまが両手を前に出したそのとき!!
クシュン!
ゾシモスが、くしゃみをしました。
すると、彼の体に溜まっていたエネルギーがふっと跡形もなく消え去ります。
「…………」
ゾシモスは何が起きたのか分からず、何度も自分の体を見回しました。しかし、いくら見回したところで失ったエネルギーは戻ってきません。
「フフ、フハハハ」
威厳を保ちたかったのでしょうか。ゾシモスは声を上げて笑うと再びエネルギーを集め始めました。先ほどのミスをカバーするかのように、エネルギーを集めるスピードは早めです。
ところが、
クシュン!
ゾシモスがくしゃみをすると、あっという間にエネルギーはなくなってしまいました。
「……なっ」
ゾシモスは何度もエネルギーを溜めようと試みました。しかし、彼がエネルギーを溜めるたびに、彼はくしゃみをしてエネルギーを霧散させてしまいます。
ゾシモスの表情は見なくてもわかりました。
自転車に乗れていたはずが、ある日乗れなくなってしまったのと同じ心持ちです。
彼の心に浮かんだのは、困惑、焦燥、怒り……。
「クッ……、ならば!」
ゾシモスは拳を強く握りしめると、神さまに向けて振り上げます。
ですが、
クシュン!
くしゃみをしたことで体の力が抜け、彼は地面に転がりました。
(どういうことだ……。体に力を入れようとするとくしゃみで力が抜けてしまう! 我の体に一体なにが……)
顔を上げた彼の視界には神さまがいました。神さまの顔に驚きの表情は消え、いつも通りの沈着な表情に戻っています。
(あいつか? あいつが俺を嵌めたのか?)
何とか立ち上がろうともがくゾシモスの姿を神さま含む一同は遠く離れたところから見ていました。
「大丈夫かな?」ロナータが言います。
「わからない。だが油断は禁物だ」ザンテツはバトルアックスを握り直しました。
ザンテツの言葉を聞いたロナータは一歩前に出ました。
「ボク、ちょっと様子を見てくるよ」
他の四人が驚いたのは言うまでもありません。
「バカ! 何言ってるんだ。死にたいのか?」ザンテツが正論を言います。
「でも、あの人苦しそうだし……」
ロナータの
「じゃあ、ちょと行ってくるね」
そう言ってロナータはゾシモスの元へ向かっていきました。
「大丈夫なのか、神さま」
「わからん」
ザンテツの問いに神さまは首を横に振ります。そしてジャスミンの耳元で囁きました。
「ジャスミンよ、もし危うくなったらあいつを守ってやってくれ」
「もちろんよ」
彼女もいつになく険しい表情で応えました。
***
ゾシモスに近づいたロナータは一瞬、怖気づきました。
黒い体はボディスーツではなく彼の皮膚そのもので、ところどころから突起のようなものが出ていました。
明らかに人外の様相。
それでもなぜか、ロナータの心は天使が襲来した時よりも落ち着いていました。きっと彼の
目の前の存在は脅威ではない、と。
「あの、大丈夫ですか?」
ロナータは膝をつき、手を差し出しました。慈悲とも呼べる彼の行動に、侵略者は邪悪な笑みを浮かべます。
(バカめ。それが貴様の遺言だ!)
ゾシモスは右手にエーテルを溜めて放とうとしました。幾多もの〈世界〉を破滅へと導いた攻撃を。
ですが、
クシュン!
またしても、くしゃみが彼から力を奪い取ります。
「く……そ……ぅ。くそぉぉおぉおおぉぅ!」
ゾシモスは思わず声に出して悲痛の叫びを上げました。ロナータや他の人たちが見てるなんてお構いなしに拳を地面に叩きつけるさまは、第一志望に受からなかった浪人生のようでした。
やがてゾシモスは何とか立ち上がると、ロナータたちを指差しました。
「今日のところは、引いてやる。……だ、だが、我は再びお前たちの前に現れ、今度こそ、……今度こそ、蹂躙せしめるだろう。覚えておけ!」
捨て台詞を吐いた彼は、夜空に向かって飛び立とうとしました。
が、またしてもくしゃみで力が抜けてしまいます。飛び立ったのも束の間、彼は地面に転がりました。
もう一度、飛び立ちますが結果は同じ。彼は飛び立っては落ちて、飛び立っては落ちる。まるでカエルのような動作でその場を離れていきました。
「あっ、ちょっと!」
ロナータがゾシモスを追いかけようとするのを、神さまは止めました。
「やめておけ、きっとアレだ……酔っ払いだ」
「酔っ払い?」
「あぁ。昔、酔うとパラメータが不規則になる奴がいた。その類だろう」
そういうと、神さまはロナータの腰のあたりを抱き締めました。
「それより、吾は疲れた。ロナータ、吾を担げ」
ロナータの服に顔を押し付けながら発せられた言葉に、彼は笑みを浮かべました。
「はいはい。仰せのままに」
神さまをおんぶしたロナータはザンテツたちと別れ、帰路につきました。神さまは彼の背中の上で規則正しく寝息を立てています。
「ねえ、神さま」
誰もいない夜道を進みながらロナータは呟きます。
「本当は、ボクたちを助けてくれたんだろう」
その言葉に答える者は誰もいません。けれども、ロナータはまるで答えを聞いたかのような笑みを浮かべると、
「ありがとう」と呟きました。
ロナータの登録者数:36710→36724
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さらに、お褒めの言葉をいただけると泣いて喜びます。
引き続き、拙作をよろしくお願いいたします。
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