第30話 チキチキ 四分割クイズ〜!

『チキチキ 四分割クイズ〜!』




 !?


 ロナータは目を見開きました。見開いたところで見えるのは暗闇ですが、それでも見開きました。


『これから皆さんにはある問題に取り組んでもらいます。しかし、問題文は四分割されており、皆さんはどれか一つしか聞くことができません。皆さんは問題の一部を聞き、全文を予想して回答してください!』


 ロナータは顎に手を当てました。


(なるほど。これはかなり難しいクイズだぞ)


 そう思っているのも束の間、

『それでは第一問!』とクイズがスタートします。




 第一問




   この日本の戦国大名は「厭離穢土欣求浄土おんりえどごんぐじょうど」のスローガ




 問題は最後まで言い終わらないうちにブツッと切れてしまいました。


『それではお答えください!』甲高い声が頭の中で響きます。


 一見、難易度が高いクイズかもしれません。しかし、ロナータにとってこれだけのヒントがあれば答えることは十分に可能でした。


 パラメータは低くても勉強ができないわけではありません。高校時代にパラメータが低くなった彼は勉強を始め、地元の大学に主席で入学するほど高い学力を有していました。これくらいの変則クイズ、屁でもありません。


「答えは、徳川家康だ!」


 答えた瞬間、暗闇が晴れて先ほどまでいたダンジョン空間が広がっていました。他の三人も一緒です。ただ、さっきと違うことは、四人とも人が一人立てるほどの台に立たされていることでした。それぞれの台には


 ロナータ「徳川家康」

 神さま「徳川家康」

 ザンテツ「武田信玄」

 ジャスミン「源頼朝」


 と書かれています。


『正解は徳川家康! 残念、全員正解とはなりませんでした』


 甲高い声が空間に響きます。




 >うわ〜惜しい!

 >けどジャスミンは難しかったね

 >ザンテツはなんで答えられなかったんだ?




 どうやら視聴者たちには四人の様子が見えていたようです。

 ロナータと神さまはジャスミンとザンテツが聞いた問題文を確かめました。


 ジャスミンは「幕府の初代将軍となったこの人物は誰でしょうか?」。問題文の一番最後のところです。


「わたし、幕府しかヒントがなかったのよ。逃げ若も流行ってるし、時代は鎌倉かなって」


 彼女の言い分には一定の理解がありました。

 問題はザンテツです。


 彼が聞いたのは「臣秀吉の死後に天下統一を果たしました。江戸」でした。


「えっと……」


 言葉を選びあぐねているロナータに、ザンテツは言いました。


「はっ、江戸幕府の初代将軍って武田信玄じゃないのか?」


 さすが、物理だけで人気配信者まで上り詰めた男です。義務教育がノックアウトしています。(ちなみに神さまが聞いた問題文は「ンを掲げ、織田信長の家臣から身を起こし、豊」)


 反省会もそこそこに、二問目が始まりました。四人の視界は再び暗闇に包まれ、耳は聞こえなくなります。




 第二問




   弧を描くこの自然現象の名前は何でしょうか?




 おそらく問題文の一番最後でしょう。これはロナータも即答とはいきませんでした。


 弧を描く自然現象はたくさんあります。例えばボールを投げた時に描かれる軌道や夜空から見える星の軌道も弧を描きます。


(あとは、どれが正解かだけど……)


 候補を絞り終えたロナータは、次にメタ的思考で回答を決めることにしました。


(さっきは形式こそ特異だったけど、問題自体は簡単だったな。多分、出題者がそこまで頭が良くないんだと思う)


 彼の頭の片隅で嬉しそうに両手をあげる「出題者」の顔が思い浮かびました。


(ということは、問題の答え自体はそこまで難しくないはず!)


『それではお答えください!』


 甲高い声が聞こえると、ロナータは言いました。


「正解は、虹だ!」


 ここは一つ賭けではありますが、果たして——

 暗闇が晴れ、四人の回答が明らかになりました。




 ロナータ「虹」(弧を描くこの自然現象の名前は何でしょうか?)

 神さま「虹」(この現象は、光が水滴や氷の結晶を通過)

 ザンテツ「ラディアント・オブリビオン」(引き起こされます。空に美しい七色の)

 ジャスミン「虹」(する際に起こる光の屈折と反射によって)




『正解は虹。ざんねん! 全員正解とはいきませんでした!』


 甲高い声が空間に響きます。




 >あ〜、あと一つ!

 >惜しい!

 >これでチャレンジはあと一回か




 正解した三人の視線は不正解した人物の回答に向けられていました。


「ザンテツ、ラディアント・オブリビオンってなに?」ジャスミンが尋ねます。

「知らないのか? サトルおじいちゃんが全盛期に使っていた技だぞ。全方位から七色の光の矢が降り注ぐんだ」


「それはボクも知ってるんだけど、何でこの回答にしたの?」


 ロナータの指摘にザンテツは口をつぐんでしまいました。


「ねえ、ザンテツ。思ったんだけど、これってクイズが出るからというより、その……、えっと……」

「貴様の知識不足が原因だな」


 言葉を選びあぐねているロナータを遮って、神さまは言い放ちました。

 ザンテツの顔はたちまちハバネロのように赤くなりました。


「ウルセェ! 俺だってなぁ、勉強してきたんだよぉ。二週間前、ボコボコにされたから、専門書も読み込んでク○ズノックだって見た。中学生の課題を一日で片付ける企画とか、選択肢が全部同じクイズとか」


(((クイズ関係ね〜)))みんな蔑んだ視線をザンテツに向けました。


「うおおおぉおお、俺だって、小学生の頃は算数のテストで満点を取ったことがあるんだぞぉぉお!」


 声を張り上げたザンテツは岩の台を力強く叩き始めました。

 彼の怒声にコメント欄は盛り上がります。




 >うわ、出たw

 >草

 >かんしゃくだ!




 ザンテツはがっくしと大きな膝を地面につけました。


「クソッ。今回の問題だって、全部読めてたら答えられたのに……」


 彼の悲しい叫びが地下空間に広がりました。それを聞いた神さまが片眉を上げます。


「では、全文読めたら解けるのだな」




   ***




 一方、こちらは出題者待機部屋、もといダンジョンの主がいる部屋です。


「さすがだよ、にいちゃん!」

「そうだろう、有名配信者たちが苦しんでやがる」


 二体の悪魔の前にある岩製のディスプレイには膝をつくザンテツの姿が映し出されていました。

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