第10章 メロンパン屋だけど、なにか?

第27話 結婚おめでとうございます!

 「【緊急告知】大事なお知らせがあります」


 そう題をつけられて配信予約されたページには、すでに1000人近くのフォロワーが集まっていました。ロナータ史上、最大の同時視聴者数です。




 >緊急告知ってなに?

 >結婚?

 >コラボとかかな

 >もしかして引退!?




 コメント欄は配信開始を待たずして、多くの声が寄せられていました。

 そんな中、満を持してロナータの顔が映し出されます。




 >きた!

 >きた

 >結婚おめでとうございます!




「うわっ、すごい人だね。……結婚? なんのこと? 結婚はしないよ。……うん、まあ今のところは、だけど」




 >なにその意味深発言!?

 >気になる〜

 >で、今日の告知は?




「うん、今日集まったのは他でもなくて、みんなに伝えることがあります」

 ロナータは背筋を伸ばしました。




「ボクは、来週からメロンパン屋を始めることにしました!」




 >えっ?

 >?????

 >どゆこと?

 >????

 >ん?




   ***




 ことが起きたのは二日前。


 朝の陽光が注ぎ込むロナハウス。ロナータは事務所兼リビングの隣にある寝室で気持ちよく寝ていました。


「起きろ、ロナータ!」


 神さまの大声です。部屋を鳴動させる程の大音量にロナータは「うわあああ」と言いながら飛び起きます。


「どうしたの、朝から大声なんて出して」


 寝ぼけた目を擦るロナータに、神さまは堂々と言い放ちました。




「メロンパン屋を開くぞ、ロナータ」




「えっ!?」


 ロナータの目が丸くなりました。まさに寝耳に水の話です。


「ここ最近、登録者数が伸び悩んでいるだろう。神の第一召使であるなら100万は行ってもらわないと困る。しかして、ここで起爆剤を打つぞ、ロナータ。


 メロンパン屋の開店だ!」


 ロナータは頭をかきながら寝ぼけた頭を回転させます。


「でも、メロンパン屋を開こうたって色々手続きがあるんだよ。神さまは知らないと思うけど……」

「物件と食材の手配は済ませてある」


 神さまが床に置いたには、貸店舗の賃貸契約書と食材の配達契約書でした。ロナータの目が飛び出ます。


「ちょっ、えっ、神さま、これ……」

「契約書だ。そしてこの書類は食品管理責任者の資格を取得するための講習の申込書だ。あとは貴様がこれを受けるだけでメロンパン屋は開店できるぞ」


 一体いつから?


 あまりの手際の良さにロナータは腰を抜かしてしまいました。同時にこれから自分が取り組む未知の経験に冷や汗が止まりませんでした。




   ***




 神さまの立案により、ロナータのメロンパン専門店、「ロナパン」が開店しました。期間は1週間限定。もちろんロナータは配信者を辞めるわけではありません。全てはフォロワーを増やすため。


 初日、開店時間には入り口に長蛇の列ができていました。少し前まで弱小配信者だったロナータにとって考えられない光景です。


 ロナパンは誰でも店員のロナータと触れ合えるということで、予想以上の大盛況でした。開店してからも入り口の列は途切れません。


「こんにちは。すごい人気ね」


 お昼頃にジャスミンが訪ねてきました。今日はオフなのか、ショートパンツにTシャツを身につけ、サングラスをかけています。


「まさか、こんなに人気が出るとは思わなかったよ」


 疲労の色が見える彼の顔には、どこか明るさもありました。


「でもびっくりした。ぜんぜん知らされなかったんだもん。配信見て笑っちゃった」

「事務所への連絡も直前になったからね」


「ぶっちゃけ、どうして始めたの?」

「吾のおかげだ」


 スタッフルームから神さまが出てきました。神さまを交え、ことの経緯をロナータが説明すると、ジャスミンは高らかに笑い声をあげました。


「すごい。さすが神さまね」

「吾は神だぞ。配信者一人のプロデュースなど造作もない」


 神さまは胸を張りました。


「あの、すいません」


 後ろから女性二人組に声をかけられました。


「もしかして、ダンジョン配信者のジャスミンさんですか?」

「そうよ」


「もしよかったら、ロナータさんと一緒に写真いいですか?」

「もちろん」




   ***




 それからもロナータは店を回し続け、ついに夕方、閉店しました。


「初日の勤め、ご苦労であった」


 閉店後、床にへたり込むロナータに神さまはスポーツドリンクを渡しました。


「ありがとう」ロナータはスポドリを受け取ると一口飲みました。冷たい清涼飲料水が熱った体を冷ましてくれます。


「どうだ、あながち悪くないだろう」


 尋ねられたロナータの顔は暗くありませんでした。


「うん、ファンと直接関われるっていいね」




   ***




 ロナータが作ったメロンパンのうまさはファンの間で徐々に広がり、やがては1人の有名なパン職人、ジャスティス・ビーバーの目に止まりました。

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