第25話 現代最強の男、デネキスII世

「闇より出でて闇より黒く、




   全ての暗黒の根源たる私が来たぞ!」




 暗闇が晴れて視界が回復すると、五人の前に一人の男が現れました。


 金髪のオールバック、紺色の警察制服に身を包んだ若年男性は、口元を引き攣らせながら眉間に皺を寄せていました。


 驚くべきは、彼のパラメータです。




  ●レベル:85

  ●体力:70

  ●魔力:99

  ●筋力:65

  ●防御力:85

  ●多才力:70

  ●速力:80

  ●魅力:80

  ●コアスキル:闇の崩壊ダーク・クラッシュ




 サトルを凌ぐほどのパラメータの持ち主は世界中探しても片手で数えるほどしかいません。その一人が今、五人の目の前にいるのです。


 ザンテツとカゲマルはゆっくりと唾を飲み込みました。一方、男は白い歯を見せます。


「フハハハハ、恐怖に慄いているようだな。驚くがよい、私の名は————」

「デネキス!」


 ロナータの声にデネキスと呼ばれた男は目を見開きました。


「おぉ、ロナータではないか」


 スタスタと彼の元へ近づいてきます。


「お前、まだ配信者をしていたのか?」

「……そうだよ」と言うロナータの顔をデネキスはじっと見つめます。


「レベルは15。高校卒業のころとちっとも変わっていないではないか。その貧弱なパラメータで配信者としてやっていけると思っているのか?」


 厳しい一言に場は静まり返ります。周囲に構わずデネキスは制服の内ポケットから辞書くらい分厚い冊子を取り出しました。四季報(会社情報がまとめられた情報誌)です。


「お前にはもっと合っている職がたくさんあるはずだ。これなんかどうだ? 大手ITコンサルは新卒で月40万もらえるらしい。中小企業の役職レベルだぞ。それにお前が得意な料理でも成功すれば十分な地位に立つことができるはずだ」


 彼は四季報をめくりながら会社ごとに細かく説明を始めました。


(((意外と面倒見がいいやつなのかもしれない)))


 ザンテツと神さまとカゲマルはそう思いました。


 ややあってロナータは四季報をめくるデネキスの手を止めました。


「ありがとう、デネキス。でも、ボクはダンジョン配信者になりたいんだ」


 彼の真っ直ぐな瞳にデネキスは「フッ」と微笑を浮かべました。


「自分のやりたいことをやる。素晴らしいことだ。私はいつだって君の意思を尊重しよう。ここ最近はフォロワーも増えているようだしな。だが、気をつけろ。人生とは宇宙旅行のようなものだ。上もあれば下もある。お前と同じくらいの配信者が一番不祥事を起こしやすいからな」


 自分の思い通りにならないからと言って根に持つことはない。神さまとザンテツとカゲマルは

(((見た目に反していいやつだ)))と思いました。


「ねえ、私のことは忘れたの?」


 デネキスに声をかけるのはジャスミンです。彼女を見てデネキスはのけぞるようなリアクションをしました。


「おぉ、ジャスミンか。二人は同じ事務所だったのだな」

「あなたの方こそ、元気そうね」


 二人が仲良く会話してる間、ザンテツはロナータに尋ねました。


「おい、ロナータ。誰なんだ、あの悪人ヅラお巡りは」

「デネキスだよ。ボクとジャスミンと中高同期でよく三人で遊んでたんだ」


 ロナータの紹介にカゲマルは膝を叩きました。


「それで? 今日は何しに来たの?」


 話がひと段落したのか、ジャスミンが本題に入ります。


「仕事だ! 先日の天使襲来の件について事情聴取しに来た!」


 彼の言葉に神さまを除く四人は身構えました。神さまの存在はまだ行政機関には知られていません。もし彼に知られたら……


 だが、四人が思考する暇もなくデネキスは神さまの存在に気づきます。


「ロナータ、この子供は?」

「あ、えとーっ、その子は……」


「吾は神だ」


 対策を打つ暇もなく神さまカミングアウト。四人が頭を抱える中、デネキスは神さまのことをじっと見つめました。


「ふむ、なるほど。確かに神だな」

「……ずいぶん、あっさり信じるんだね」

「人外の相手は何度もしてきたからな。なんとなくわかる」


 ジャスミンや他の人も神さまの存在をあっさりと信じていました。デネキスといい、もしかするとみんな、神さまに寛容なのかもしれません。


「貴様、なかなかに面白いやつだな」


 神さまはジト目でデネキスのことを見据えました。


「吾の召使にならないか?」


 差し出された神さまの手にデネキスは笑みを浮かべました。


「それは恐悦至極。ぜひ賜りましょう」


 神さまの手を握り返します。


「また召使を増やしてる……」


 困った声を出すのはロナータです。


「よいではないか。吾の勝手だ」神さまは唯我独尊に返します。


 二人のやりとりを見ていたデネキスは「フッ」と笑みを浮かべました。




「では、私はこれにて失礼しよう。さらばだ、皆の衆!」




 声高々に手を振ると、デネキスは自身の影の中に沈んでいき、影ともども消えてしまいました。


 嵐のように来て、嵐のように去っていった現代最強の男、デネキスII世。


「あいつ、ろくに調べもせず帰って行ったな」


 ややあって発せられたザンテツの呟きに、みんな無言で頷きました。




   ***




 翌日、デネキスは異界警察長官に報告書を提出しました。


 報告書を一瞥した長官は眉を顰めます。


「親父ギャグ大会をやっていた?」

「ええ。この日、MUUUでは親父ギャグ大会をやっており、親父ギャグが好きな天使はそれに釣られてやってきたのです」


 長官は報告書のページをめくりました。そこには色鉛筆でプリンター用紙に直書きした「親父ギャグ大会」のチラシが挟んでありました。


 長官は胸を張って上司の指示を待つ次期勇者を見やると、ため息をつきました。


「わかった。この報告書は受理しよう」

「ありがたき幸せ!」


「デネキス」


 部屋を出て行こうとするデネキスを、中年の長官は呼び止めます。


「今回だけだからな」


 その言葉にデネキスはうっすら笑みを浮かべると、

「失礼します」と言って長官室を後にしました。




 ロナータの登録者数:10765→10702

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