第8章 現代最強の男だけど、なにか?
第24話 かつては世界を救った英雄
ここはアカサカ、MUUUオフィス。
天使の来訪から数日が経ったダンジョン配信事務所は活気に包まれていました。
色とりどりのクッションが置かれた談話スペースではロナータ、神さま、ザンテツ、ジャスミン、カゲマルの五人がボードゲームをやっています。
そこにMUUU代表取締役のサトルが現れました。かつては世界を救った英雄も、今や64歳。
●レベル:78
●体力:40
●魔力:85
●筋力:30
●防御力:35
●多才力:90
●速力:20
●魅力:70
●コアスキル:
パラメータも最盛期に比べれば半分近く落ちました。
「やあやあ皆の衆、今日もファンから笑顔とお金をもらってるかい? んん? 何やってんの、君たち。サボり? 不祥事? 週刊誌?」
サトルは五人がやってるボードゲームを見ました。
「物騒なこと言わないでください。『ダンジョン配信者人生ゲーム』です。広報企画部が開発してるのをテストプレイさせてもらってるんです」
ロナータが答えました。彼はサトルを師匠のように慕っています。
「MUUU所属の配信者のパラメータを元にゲームが進行して、最終的に登録者数が一番多い人が勝ちっていうルールです」ジャスミンが補足を入れる。
サトルは目尻の皺を深くして頷きました。
「MUUU所属配信者のファン層をターゲットにするんだね。素晴らしい。マネーの香りがプンプンするよ」
「『稼ぐなら、
ロナータの渾身の親父ギャグに、辺りはシーンと静まり返りました。天使には大ウケでも人間にとっては…………、やめましょう。これ以上は彼の心が持ちません。
「ところで、急なんだが」と、サトルが話題を変えます。
「今日、異界警察が来るらしいぞ」
神さまを除く四人が目を丸くしました。
「異界警察? どうして」
ザンテツの言葉にサトルは明後日の方を向きます。
「さあて、なんだったかのぉ。とりあえず、対応は任せるぞ。ワシは用事がある」
「用事って?」ジャスミンが聞きます。
「ちょいと
なんとものんびりした用事にカゲマルはジトッとした視線を向けました。
「じゃあな、あとは頼んだぞ」
面倒な仕事を押し付けて去ろうとする社長を所属配信者が野放しにするはずがありません。
「行かせるか!」
ザンテツとジャスミン、そしてカゲマルが立ち上がりました。
「ジャスミン、水で囲め。カゲマルは入り口を封鎖しろ」
ザンテツはダンジョンボスを攻略するかのごとく的確な指示を送ります。ジャスミンは「
「公的機関の対応をするのが、あなたの役割でしょう!」
身動きが取れなくなったサトルを捕えようとザンテツが飛びかかったそのとき、
「ホッホッホッホッ」
サトルは軽快な笑い声と共に、体から強烈な閃光を放ちました。オフィスにいた全員が目をつむり、開けた時にはサトルの姿はどこにもありませんでした。
「まだまだじゃの〜」
空間に響く声にザンテツは「クソッ」と歯軋りしました。現役を退いても実力は健在です。
そんな一連の騒動を、神さまは離れた場所から微笑んで眺めていました。
***
「それよりロナータよ、異界警察とはなんだ?」
ボードゲームでザンテツが登録者数5億8900万というバグった数値を叩き出して勝利した頃、神さまがロナータに尋ねました。
「その名の通り異界に関する警察だよ」
ロナータは自分の登録者数カード(合計20万人分)を仕分けながら言いました。
「悪魔や天使などの異界に関わる出来事を調査するんだ。僕らがダンジョンで自由に探索できるのも、異界警察が初期探索をしてくれるからなんだよ」
そこまで言ったところで「あっ」と彼は何かに気づきます。
「もしかして、今日の異界警察が来る用事って————」
突如、あたりが闇に包まれました。
配信者全員は瞬時に思考を切り替えます。かろうじて近くの人が見えるだけでも僥倖か。
(天使か!)
ザンテツの脳裏に先日の天使襲来の件がよぎりました。なすすべなく奴らの術にハマってしまった自分。まだまだだと思う反面、ここで挽回しなければと己を鼓舞させます。
「ジャスミン、周囲に水の陣を張れ。カゲマルは俺と一緒に警戒だ。ロナータは陣の中心にいろ」
「わ、わかった、けど……」
そのとき、周囲から六つの人影が現れました。
神経を研ぎ澄ませていたザンテツとカゲマルは影に向かって——ザンテツはバトルアックスを、カゲマルはクナイを繰り出しました。
しかし影に実体はなく、二人の攻撃は空を切ります。
「フフフフフ、フハハハハハ」
暗闇を覆い尽くすような声が響きました。
「何者だ!」ザンテツが叫びます。
「闇より出でて闇より黒く、
全ての暗黒の根源たる私が来たぞ!」
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