第14話 俺とコラボしてくれ!

 扉を開けると、そこにはザンテツが立っていました。タンクトップにジーパン、マスクにサングラス、帽子という出立ちはどこか不自然に見えました。


「邪魔してもいいか?」

「う、うん、いいよ」


 ロナータとザンテツの関係は決して良好とは言えません。事実、第一話でザンテツはロナータのことを見殺しにしようとしたのです。彼がロナータを嫌っていることは事務所内でも有名な話でした。


 そんな彼が一体、どんな要件で訪ねて来たのでしょう。




「頼む! 俺とコラボしてくれ!」




 ロナータがソファに腰掛けるなりザンテツは床に膝をつき、頭を地面につけました。黄金律を意識した見事な土下座です。


 一方のロナータが驚いたことは言うまでもありません。


「ど、どうしたの? いきなり」

「知っての通り、俺は例の件以降、人気が落ちている。一度下がった人気を取り戻すにはコラボしかない。だから、こうして色んな配信者に頭を下げて回っているんだ」


 彼は続けました。


「俺は、今までお前のことを馬鹿にしてきた。目にもくれなかった。だが、最近のお前の活躍を見て認めざるを得ない。お前は間違いなく一流の配信者だ。だから、頼む。俺とコラボしてくれ!」


 ザンテツは今まで散々ロナータのことを悪く言いい、時には命の危険に晒すこともありました。しかし、立場が逆転すれば頭を下げる。


「調子いいこと言わないで」


 普通の人であれば、そんな言葉も出てしまうでしょう。

 けれどもロナータは生来のお人好しです。


「う〜ん、仕方ないなぁ」と眉を顰め、腕を組みました。


「ありがとう!」


 ザンテツはガバッと顔を上げました。


「それで、何か企画は考えてきたの?」

「あぁ。いくつか考えてきたんだ」


 そう言って彼はスケッチブックを取り出しました。


「簡単に書き出してみたんだが……」


 スケッチブックを受け取ったロナータは、中身を見て目を疑いました。


 一つ目は「ザンテツさんのいいところ100連発」。文字通り、ザンテツのいいところをコラボ相手が100個言う、というものです。


「やはり、こういう時こそ俺の素晴らしいところを発信していかないといけないと思うんだ! もし思いつかなくても大丈夫だぞ。すでに100個考えてあるから、最悪それを読み上げるだけでもいい」


 スケッチブックの次のページには、呪詛のようにザンテツのいいところが書き込まれていました。


 二つ目は「ザンテツが教えるデーモンの倒し方」。コラボ相手をデーモンと見立ててザンテツが倒し方をレクチャーするというものです。


「俺のチェンソー・ストライクは近くで見ないと刃が回転してるってわからないだろう」


(そうなんだ……)


 ロナータはこのタイミングで初めてザンテツのコアスキルについて知りました。


「こいつは配信だとあまり絵にならないんだ。だからコラボして間近で撮ることで迫力のある映像ができると思う」

「コラボ相手はどうなるの? 攻撃を直に受けるの?」


 ロナータの問いにザンテツは、

「それはほら、魔法で防いでもらってもいいし、まあ当たらないようにするさ」と親指を立てて見せました。


 三つ目は「アポなしで教室に突撃! ザンテツさんが語る熱い話」。アポイントメントなしで小中高大の教室にザンテツが突撃し、生徒たちに人生のためになる話をする、という企画です。


「ほら、俺はこう見えて色んなことを経験してるだろう。小学校ではガキ大将してたし、夜の街で全財産失ったり、異界警察にいた頃はダンジョンの初期探索で死にかけたこともある。何か一つ話せば、絶対に子供たちの心に刺さるはずだ」


「これを、アポなしで?」

「アポなしだからいいんだろう。サプライズってやつだ」


 まだまだ企画は考えられていましたが、ロナータはいったんスケッチブックを閉じました。


「どうだ、どれも人気爆発間違いなしだろう?」




「ぜんっぜんダメ!」




 大声に驚いたザンテツは尻餅をつきました。


「確かに俺だけがやったら火に油を注ぐだけかもしれない。だが、お前とコラボすれば人気企画になると思うんだ」


「ぜんぜんだよ! むしろボクも一緒に火炙りの刑にされちゃう!」


 ロナータの迫真の言葉にザンテツは少したじろぎました。


「……そうか? 三つ目の教室に突撃するやつなんかはいいと思うんだけどな?」


「アポなしで学校に侵入する時点でまず警備員がやってくるでしょう? うまく教室に入れたとして、急に知らない人が自分の半生を語り出すなんて子供たちにトラウマを植え付けるだけだよ!」


「じゃあ、何をすればいいんだ?」


 ザンテツの問いにロナータは窮しました。ロナータだって配信者として人気になり始めたのはつい最近のこと。誰かにアドバイスできるほど技量があるわけではありません。


 そのとき、

「では——」

 ロナータの隣でアイスティーを飲んでいた神さまが口を開きました。


「実際に手本を見せてやればどうだ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る