第5章 炎上したけど、なにか?
第13話 今日でファン辞めます
「どうも皆さんこんにちは、ダンジョン・マスター、ザンテツです。今日はアサクサ・ダンジョンの低級悪魔を片付けて行きたいと思います」
群がる低級悪魔のレベルはどれも20代後半。特注のバトルアックスを振るえば簡単に片付けることができます。
>やっぱザンテツかっけえ!
>いいぞ!
>がんばれ〜
たくさんの声援が寄せられる。それは間違いなく「たくさんの声援」です。
しかし、彼の心には一つの蟠りがありました。
それはロナータです。
(クソッ、まただ!)
幻影を振り払うように、彼はバトルアックスを振り回しました。ここ最近、知名度を上げてきた無能配信者。長年ほとんどいなかったフォロワーは、例のバスジャック事件をきっかけに1万近くまで増えていました。
フォロワーが増えた要因なんて偶然です。けど、それが彼には——
(認めない。認めないぞ、俺は!)
怒りに任せてバトルアックスで低級悪魔を切り裂いていくと、
「ザンテツさん!」
若い女性がザンテツの視界に入りました。リア凸してきたのだと、彼には分かりました。
問題は、その女性に一体の低級悪魔が迫っていたということです。背後から近づく黒い影に彼女はまだ気づいていません。
「危ない!」
彼のコアスキル「チェンソー・ストライク」は、刃物をチェンソーのように回転させることができます。
回転させたバトルアックスの刃を地面に当てる。車のバーンアウトのように刃と地面が擦れて白い煙と粉塵を撒き散らす。
あとは体を宙に浮かすだけで、
ザンテツは女性のもとまで瞬間移動しました。
そして左手で女性を抱えると、右手のバトルアックスを低級悪魔に突き立てました。
低級悪魔はうめき声をあげて倒れます。
>あぶね〜
>危機一髪だな
>女の子無事?
「大丈夫でしたか?」
爽やかな笑みを浮かべるザンテツ。しかし、リア凸女子から出てきたのは……
「やめてっ!」
女性はザンテツを突き放すと、地面に倒れ込みました。
ザンテツは何が起こったのかわからず棒立ちしていました。左手だけが彼女を支えていた形で固まっています。
震える声で女性が口を開きました。
「あなた……私のお尻さわったでしょ」
「えっ?」
>???
>ザンテツ?
>嘘だよな?
「触ってませんよ」
「触ったじゃない。私のお尻をエロい手つきで!」
「だから触ってませんって」
否定を繰り返しますが、彼女は止まりません。
「触りました。近くで配信してるから会いに行こうと思って来たのに、まさか助けるふりして痴漢されるなんて思いませんでした。ずっとファンだったのに————」
「だから触ってないって言ってんだろ!」
喉を削ったような声がダンジョンに響き渡りました。
>うわ
>マジかよ
>さいて〜
>今日でファン辞めます
配信のコメントを見て背中に冷や汗が流れます。自分が何かとんでもない岐路に立たされているような。いいえ、もう別れ道を過ぎた後なのかもしれません。一歩後ろには分岐点が立っていて、一歩前には骨をも溶かす業火が滾っていて。
「ご、ごめん、ついカッとなって……」
一歩戻るために言い訳をしようと口を開きますが、リア凸女子は耳を塞いでダンジョンの出口に走っていきました。
「待ってくれ!」
追いかけようとしますが、コメント欄が視界に入ります。
>こんな人だと思いませんでした
>おつかれな〜ww
>これからはダンジョン・マスターじゃなくて変態マスターって名乗れよw
>じゃあな、おつかれ👋
「違う、違うんだ。いや、違うんです」
ザンテツはカメラに近づきます。間違えた過去を取り戻すかのように。
「俺はやってない。やってないんだ! 頼む。信じてくれ……!」
***
「ダンジョン・マスター、ザンテツ。配信中にファンの女性に猥褻行為か!?」
9月2日、MUUU所属のダンジョン配信者、ザンテツがファンの女性に猥褻な行為を行ったとされる疑惑が浮上した。ザンテツは低級悪魔討伐配信に乗じてファンの女性をダンジョン内に誘い出し、低級悪魔から助けるフリをして女性の胸や尻を触ったという。
配信のアーカイブは削除されているが、有志の切り抜きを見ると確かに触っているそぶりが確認できた。
「ずっとファンだったけど幻滅した」
「有名人でもやっていいことと悪いことあるでしょ」
ファンの間でも落胆と失望の声が広がっている。
大手芸能筋によると「ザンテツさんは配信するとアーカイブを必ず残しているのですが、今回は残していない。そのことからも行為の信憑性は高いですね」と語る。
問題の配信以降、ザンテツは表舞台に姿を見せていない。筆者は所属事務所のMUUUに質問状を送付したが、回答は得られなかった。
***
ネット記事を読み終えたロナータは眉をひそめました。スマホをローテーブルに置くと、ソファに身を沈めます。
「助けないのか?」
神さまがロナータの顔を覗き込みました。
「う〜ん。助けたいのは山々だけど、できないよ。本人の問題だし」
ザンテツのフォロワーは事件以降、減少を続け、50万近くあったフォロワーは30万を切ろうとしていました。
「ボクらにできるのは、ほとぼりが冷めるのを待つだけ——」
ピンポーン
玄関のベルが鳴りました。
扉を開けると驚いたことに、そこにはザンテツが立っていました。
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