第12話 死に損なったなんて言わないで

 運転手の顔を見てバズが思わず口を開きます。


『親父……』




 >?????

 >まさかの再会!

 >激アツすぎだろww




「お前が家を出てから五年。オレは決めてたんだ。次会った時、お前がテロリストなんてバカなことやってたら、道連れにしてでもお前を殺してやるとな」


 そう言ってバズのお父さんはアクセルを勢いよく踏みました。メーターは一気に時速100キロメートルを超え、バスは猛スピードで走り出します。


「ご乗車のお客様にお知らせいたします。このバスの行き先は『地獄』に変更となりました。お客様におかれましては、誠にご愁傷さまでございますが、何卒、お付き合いのほどよろしくお願いします」


 バスは舗装されたアスファルトの道路を横切り、ガードレールに向かって進みます。


 ここは山道。ガードレールの先は傾斜が急な崖です!


「危ない!」


 ロナータが駆け寄ってジャックとバズのお父さんを抱きかかえたとき、




   バスがガードレールを突き破りました。




 しかし、それからバスは一向に落ちません。

 空中に静止したまま微動だにしないのです。


「手間をかけさせやがって」


 理由はもちろん、神さまです。神さまであればバスを浮かせることなど造作ありません。人差し指を立てるだけでバスを浮かすことができます。


 それどころか立てた人差し指をひょいと動かすと、バスは元いた道路に戻って行きました。




 >何が起こったんだ?

 >バスが空中に浮いてたぞ!




 コメント欄はカメラに映ってない神さまの力に困惑していましたが、


「死に損なったなんて言わないでください!」という大声にすぐ注意が移りました。




   ***




「クッソ……死に損なっちまった」


 運転手はハンドルから飛び出たエアバッグに顔を埋めながらぼやきました。


「死に損なったなんて言わないでください!」


 隣で大声が聞こえる。顔を上げると、そこにはロナータが目に涙を浮かべて立っていました。


「親は、代えのきくものじゃないんです。間違いなく、子供の人生を大きく左右する。だから子供と一緒に死のうなんて思わないでください。死に損なったなんて言わないでください。親が苦しむところを見て、一番苦しむのは子供なんですよ」


 父親の頭を息子との思い出が駆け巡ります。体の弱い妻と息子を支えるために昼夜働いた日々、妻が亡くなり息子と喧嘩する日々。息子が家出して革命政治団体に入ったと聞いたとき、彼の頭には死んでも息子を止めるという思いで凝り固まっていました。


 けれども——


 運転手は隣で倒れている乗客の顔を見ました。5年ぶりに見る男の顔は、眉や鼻の形が彼女に似ていて。


「まったく、バカ息子が」




   ***




 まもなくパトカーがやってきて、バズ=ジャックと運転手は逮捕されました。幸い、乗客に怪我はありませんでした。


 ロナータは功績を認められ、後日警察署から感謝状を授与されました。


 神さまの思惑通り、彼の知名度は鰻登り。フォロワーは100倍以上に膨れ上がりました。


 これにはロナータも腰を抜かしてしまいました。


 しかし、同時に一抹の不安がよぎります。乗客を救ったのは神さまであって自分ではない。視聴者にもそのことは伝えていません。伝えたら大騒ぎになりますから、今後も公にするつもりはありません。けれども、あの事件を解決したのは自分の実力ではなく——


(ま、いっか。いざとなれば神さまにお願いすればいいし)


 ロナータは考えることを放棄しました。


 これが、後に大きな災いの種になるとも知らずに。




   ***




 話は変わりまして。


 人気者になったロナータを快く思わない人物がいました。


 第一話に出てきたパワハラ男、ザンテツです。


 本当であれば、ロナータのネガティブキャンペーンを行いたいところでしたが、彼には余裕がありませんでした。


 なぜなら、ザンテツはこのとき炎上していたからです。




 ロナータの登録者数:96→9783




——————

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引き続き、拙作をよろしくお願いいたします。

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