第4章 バスジャック犯だけど、なにか?
第10話 生姜焼きは、シチューはどうした?
ロナータの家、通称・ロナハウス。
「神さま、昼ご飯できたよ〜」
ロナータに呼ばれた神さまは浮き足たって食卓へ向かいました。神さまがロナハウスに居候しているのは一にも二にもご飯のためです。彼の料理の腕は神さまが認める超一級品です。
しかし、食卓に並べられたものに神さまは目を丸くしました。
「……なんだ、これは?」
「チョコチップスティックだよ」
ローテーブルの上には10本で100円のチョコチップが混ぜられた棒状のパンが三本だけ置かれていました。
「見ればわかる。どういうつもりか、と問うている。生姜焼きは、シチューはどうした?」
「金欠なんだよ。この前ズッコがうちに来て予想以上に平らげていったからね」
そう言ってロナータはワカメスープが入ったマグカップを神さまの前に置くと、自分のワカメスープに口をつけながらパンを一本とりました。
「貴様、もしやこの貧乏パンで神をもてなそうというのか」
「仕方ないだろう。ないものはないんだから。神さまが来る前から僕の家計は火の車だったんだよ」
神さまの言葉にムッとしたロナータは言い返します。
「神さまこそ、お金とか創れたりしないの? 神さまなんだからさ」
「できるぞ」
神さまは即答すると、ローテーブルの何もないところに手を伸ばしました。神さまの手から光が放出され、その光が収まると——
何ということでしょう。ローテーブルの上に札束の山が出現しました!
「なんだぁ、できるんじゃん」
見たことない量のゲンナマにロナータは興奮します。
「それなら早くお願いしておけば……」
しかし、札束の一つを手に取って彼の言葉は止まりました。
なんと札束に描かれていたのは諭吉でも栄一でもなく
「くま◯ン」だったのです。
ロナータは思わず吹き出しました。
「えっ、ど、どうしてくま◯ン?」
「当たり前だろう。偽札を作ることは犯罪だからな」
「いや、確かにそうだけど……」
「それにこの国の造幣技術は高度だ。吾でも再現するのはちと骨が折れる。ここはやはり配信の一つでもした方が楽だろう」
***
ということで、神さまとロナータはダンジョンに向かうためバスに乗りました。
本当は歩いて行きたいところですが、今日配信するダンジョンはネリマ・ダンジョン。ロナハウスから徒歩だと最低六時間はかかります。他に行けるレベルのダンジョンもありませんから、交通費の支出は避けられませんでした。
二人を乗せたバスはやがて山道を進み始めました。このバスの終点に今回ロナータが配信を行うネリマ・ダンジョンがあります。
バスにはロナータと神さま含めて10人ほどの乗客がいました。老人は本を読み、サラリーマンはスマホをいじり、女子高生は友達同士でおしゃべりをし、それぞれが思い思いに車内を過ごしていました。
「はぁ……どうしよっかな」
この後、ダンジョン配信をすることをSNSに投稿したロナータはため息をつきました。それもそのはず。ロナータのパラメータは中学生以下です。低級悪魔に追いかけ回される未来が想像できます。
「案ずるな。今回は吾も力を貸そう」
と神さまは言いますが、果たしてどれだけ信用できるか。これまで神さまがロナータのパラメータを操作したのは第一話だけです。
「ちゃんと頼むよ」
そのとき、近くでコソコソ話が聞こえてきました。
『いい感じの人数だな。よし、ここで決行しよう』
「ほ、本当にやるのかい、バズ?」
『なんだよ。ビビってんのか、ジャック?』
「ビビってないよ。でも、
ロナータは目を見開きました。神さまの方を見ると、神さまも聞こえていたようで、黙って頷きます。
声の主に視線を移しました。そこには男が
と思えば次の瞬間!
男は立ち上がり、右手をポケットから出した。
その右手に
パァン!
盛大な発砲音が車内に響きました。
老人は顔を上げ、サラリーマンはのけぞり、女子高生たちは悲鳴を上げました。
しかし、何より驚いていたのは撃った張本人でした。
「うわぁあひゃ〜〜〜〜〜ッ、びっくりした〜〜〜」
黒の短髪でほっそりとした男は発砲音に腰を抜かし、ヘナヘナと座席に座り込みました。
『バカやろう!』
男とは
『なにビビってんだよ、早くなんか言え!』
「は、はいぃ!」
声に促されて男は立ち上がると、
「皆さん、初めまして。バスジャックの『ジャック』と申します! 初めてのバスジャックで緊張しておりますが、何卒よろしくお願いします!」
と丁寧に自己紹介を始めました。
『なに真面目に自己紹介してんだよ。あぁ、もう。とにかく運転席に行け。運転手に銃を突きつけろ!』
「わ、わかったよ……」
ジャックは揺れる車内で千鳥足になりながら運転席に行くと、
「て、手を上げろ」と運転手に銃を突きつけました。
『バカやろう、それじゃ事故っちまうだろう。ちゃんと練習したセリフを言え』
「おい……、エチケット袋をよこせ」
『なんでだよ!』
「だって、君の体が乗り物に弱いから……」
『それは、ごめん!』
ジャックは運転手からエチケット袋を受け取ると、ことを済ませ始めました。
(なんか、おかしなバスジャック犯だな)
ロナータがそんなことを思ってると、
「おい」と神さまが話しかけてきました。
「いいことを思いついた。ロナータよ、アレを止めるぞ」
「ん?」
ロナータの頭に疑問符が浮かびました。
「バスジャック犯を止める様子を配信するのだ。そうすれば、貴様は間違いなく人気者になれるぞ」
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