間話 最後の唐揚げだけど、なにか?
第9話 三本勝負で決めようではないか
ある日の夕ご飯。
神さまはほっぺたを膨らませてロナータ謹製の唐揚げを食べていました。
噛むたびには溢れる肉汁、サクサクの衣、プリプリの鶏肉。まさに「肉こそ正義」! 唐揚げというのは、なんと罪深い食べ物なのでしょう。
二つの箸が唐揚げの前で触れ合いました。
神さまは顔を上げます。もう一つの箸の持ち主はロナータでした。二人の前に唐揚げは一つだけ……。
「よし、ロナータよ。吾は寛大だ」
神さまは唐揚げを食べたい欲求を抑えながら口を開きました。
「もう一個、唐揚げを揚げろ。さすればこの問題は解決する」
「無理だよ。これ以上、鶏肉を使うと月末の食事がスティックパン1本になっちゃう」
「鶏肉一個でか? 吾らの家計はそれほどに切迫しているというのか……」
ロナータは重々しく頷きました。
「それに、油とか片付けちゃったから、また用意するのめんどくさいし」
「貴様、それが本音だな?」
ロナータは重々しく頷きました。
沈黙。
二人は再び唐揚げを見つめました。しかし、どれだけ見つめても唐揚げは一つのままです。
「神さまこそ、この唐揚げを複製することはできないの?」
「質量保存の法則を知らないのか。それでは唐揚げが半分になってしまうだろう」
そう。二人の脳内に半分こする、という妥協案はありません。唐揚げは、あの大きさで口の中を占領されることに至福を感じるのです。
「仕方ない」
神さまはややあって言いました。
「ここは、三本勝負で決めようではないか」
ロナータも賛同し、最後の唐揚げを賭けた三本勝負が始まりました。
***
第一試合はけん玉対決。
「こう見えて、小学生の頃は得意だったんだぞ」と意気込むのはロナータです。
「もしもし かめよ かめさんよ〜」
小気味よいリズムで玉を大皿と小皿に乗せていきます。
50回ほど続けたところで、最後に彼は玉をとめけんに差し込んで腕を高らかに上げました。
「どんなもんだい!」
得意げに笑みを浮かべるロナータに神さまはやれやれと首を振りました。
「これで得意げとは、片腹痛い」
けん玉を受け取った神さまは、次々と大技を成功させていきます。
バタフライ、ジャグリング、カカシ……。
重力場を操ることで繰り出されるスゴ技は、もはや私の描写能力を超えていました。ロナータは口をアングリ開けたまま眺めることしかできません。
勝敗は火を見るより明らかでした。
***
「さっきは不正があった気がする……」
第二試合前、ロナータはぼやきました。
「結果を受け入れることも、民主主義の大切な役割だぞ、ロナータ」あと一勝すれば唐揚げの神さまは上機嫌でした。
続いての第二試合は、
早口対決。
「配信者は意外と滑舌もいいんだよ」
そう言うロナータは難しい早口言葉をスラスラと述べました。
「この竹垣に竹立てかけたのは竹立てかけたかったから竹立てかけた(みんなも挑戦してみよう!)」
一度も噛むことなく3回繰り返したロナータは再びドヤッと神さまのことを見ました。
「所詮は人間だな、ロナータよ」
神さまは勝利を確信したようです。ロナータの脳裏にけん玉の出来事がよぎりました。
「貴様が、そのフレーズを繰り返すのに要した時間は4.93秒。吾はそれよりも早く、それでいて一度も噛まずに陳じてみせよう」
神さまは大きく息を吸いました。
そして————
「この竹がギッ……!」
舌を噛みました。
神さまは普段ゆっくり話しています。ゆえに、早口言葉をしたことがありませんでした。人生初めての早口言葉。誰だって噛んでしまうものです。それも相手より早く言ってやろうと思えば、舌を思いっきし噛んでしまうことも。
「…………ッ」
珍しく、神さまは悶え苦しみました。
その隣で、ロナータはガッツポーズしていました。
***
「能力に頼るのはやめだ。最後は運に勝敗を委ねるとしよう」
そう言って神さまが提案したのは、
じゃんけん。シンプル・イズ・ザ・ベストです。
「こんなの面白みがないよ。もっと楽しいやつにしない?」
「うるさい。もうすぐ2000文字を超える。こんな日常回を2話にも分けていたら、読者が離れてしまうぞ」
「じゃあ、いくよ」
ロナータは構えました。
見合って……。
ロナータ「最初は……」
神さま「じゃんけん……」
二人の言葉は止まりました。まさかシンプルの中にもコンプレックスがあったとは。
ローカル・ルール!
「シン・トウキョウでは昔から『最初はグー』が主流だったよ」
ロナータの主張はこうです。
「よかろう、吾は寛大だ」
では、改めて。見合ってー。
「「最初はグー、じゃんけん————!」」
ロナータ:チョキ
神さま:チョキ
「「あいこで————」」
ロナータ:パー
神さま:パー
ここでロナータに妙案が浮かびます。
(待てよ。そもそもの目的は唐揚げを食べること。ってことは……)
ロナータは「ブツ」の位置を確認しました。例のブツはローテーブルの中央、手を伸ばせば届く距離にありました。
しかし、考えていることは神さまも一緒のようでした。
(いま、ここで唐揚げを取りに行けば、試合に負けても勝負に勝てる! 吾はプライドを捨てでも、あの美味なる唐揚げを食べたい!)
「「あ〜いこ〜で〜」」
体勢を低くする。千載一遇のチャンスを逃してはならない。
全ては唐揚げのために!
「「ショッ!」」
掛け声とともに、
ロナータと神さまは唐揚げに手を伸ばしました。
——————
Winner:神さま
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