第6話 ふう、危ねえところだったぜ

 ジャスミンがマダムの口の中へ消えていきました。


 彼女を口に含んだマダムは有無を言わさず喉をごくりと鳴らします。


 ——頭が真っ白になった。




 >えっ……

 >マジか

 >ウソッ!

 >???




 何が起きたのか分からなかった。いや、わかっている。頭では理解している。しっかり目に焼きついている。けれども、それを言葉にしてしまうと現実になってしまいそうで、それでも彼女はもう……


「おい、何を呆けている」


 後ろで神さまの声がしました。振り向くと、神さまは腕を組み、ロナータをじっと見つめています。


「まだ死んだと決まったわけではないだろう」

「でも、でも……」


 嗚咽が漏れる。涙が溢れてくる。

 彼の感情が決壊する三秒前————




   紫電裂空しでんれっくう、マダムに紫色のいかずちが落ちた!!




 それはマダムが出していたものが静電気と思えてしまうほど、強烈で猛々しく、言語化できないほどの轟音をダンジョン内に響かせました。


 紫電が直撃したマダムはもちろん瀕死。目を回し、大きな音を立てて倒れ込みます。




 >???

 >?????

 >これは……!




 コメント欄でも一部を除いて何が起きているか分からない様子です。


 やがて——

「ふう、危ねえところだったぜ」


 マダムのお腹から声が聞こえました。




 >キタ!

 >久々だな〜

 >なになに?




 一部の視聴者は興奮した様子を見せます。


 一方、残りの視聴者とロナータは何が起きたか分からず、動けなくなったマダムを見つめていました。


 しばらくして、マダムの口から一人の女性が現れました。


 その肌は黒く、髪の毛は紫色で、耳は異様に細長く、頭からは二本の角が生えていました。けれども、彼女が身につけている衣服は(紫に変色しているが)ジャスミンが着ていたものです。


「ジャスミン……なの?」


 ロナータは目の前の女性(?)のパラメータを見ました。




  ●レベル:100

  ●体力:99

  ●魔力:100

  ●筋力:100

  ●防御力:95

  ●多才力:89

  ●速力:98

  ●魅力:87

  ●コアスキル:紫電裂空




 常軌を逸した数値です。


 何を隠そう。このジャスミンという女性は……




 人間とデーモンの間に生まれたなのです!




 本来交わることのない種族の混血。故に、その存在は異質。


 彼女は命の危機に瀕したり、感情が昂ったりするとパラメータが上昇し、デーモン化してしまうのでした。彼女はこれまで何度か配信中にデーモン化しており、一部の古参ファンからは「ダーク・ジャスミン」と呼ばれていました。


「おっ、ロナータじゃねえか!」


 ダーク・ジャスミンは体にまとわりついた粘液を紫電で蒸発させるとロナータに手を振りました。彼女ダーク・ジャスミンを見たことがないロナータは困惑した表情であたりを見回します。


「おら、ロナータってお前しかいねえだろう。それにしても久しぶりだなぁ、高校のとき以来か? あれからちょっとは背伸びたか」


 ロナータの前まできたダーク・ジャスミンは上目遣いで顔を覗き込みました。


「し、知ってるの? ボクのこと」


 ロナータは後退りしながら尋ねました。肌の色や仔細は違えど、ジャスミンが目と鼻の先にいる事実に、彼の心拍数は上昇していました。


 ドギマギする彼の様子にダーク・ジャスミンは「ヘヘッ」と笑みを浮かべました。


「そりゃ知ってるよ。なんたってあたしが————ッ」


 しかし彼女が最後まで言い切る前に、バシュッと音がして彼女は元の姿に戻ってしまいました。服も紫色から青色に戻っています。


 いつもの白い肌、金色の長髪に戻ったジャスミンは少し頬を赤らめてロナータのことを見つめました。片思いの幼馴染に至近距離から見つめられたロナータの心拍数は、本日最高値を叩き出しました。


「あの子、何か言ってた?」

「な、なにも……」


 ジャスミンは「そう」とだけ言うと、踵を返して歩き出しました。そして配信しているスマホの前まで来ると


「さあ、いろいろあったけど無事にラスボスを討伐することができました。パチパチパチ〜。それじゃ、今日はここまで。また次の配信でね!」


 と、やや強引に配信を終了させました。


 カメラの電源を切る彼女の耳が真っ赤になっていることを神さまは見逃しません。


(なかなか面白いことになってるな)


 神さまは何も言わず微笑を浮かべました。




 ロナータの登録者数:89→101




——————

読んでいただき、ありがとうございます。

もし、よろしければ星やフォローをお願いします。

さらに、お褒めの言葉をいただけると泣いて喜びます。

引き続き、拙作をよろしくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る