第5話 幼馴染のヒロインだけど、なにか? その2

「貴様こそ……なぜ、あの女に告白しない?」

「vのぴあのvsdぽvsぱおえんゔぁ」


 言葉にならない声を出し、ロナータはその場に倒れ込みました。顔はトマトのように真っ赤になり、震えで立つことすらできません。


「図星か」


 神さまは嘆息を一つつきました。


「そそ、そんなわけないよ、な、何かの間違いだ。フェイクニュースだ!」

「それにしては、あの女が来てから貴様の頬は紅潮したままだぞ」


 ロナータは両手で頬を押し、アッチョンブリケをしました。


「さあ、白状するのだ」


 神さまはロナータのそばまで歩み寄り、好奇の眼差しで彼の顔を覗き込みました。


「あの女が好きなんだろう?」


 顔を真っ赤にしたロナータはやがて、


「彼女は、幼馴染なんだ」と打ち明けました。

「高校まで一緒で、ずっと片思いしてきたんだ。今の事務所も彼女が所属しているから入ったっていうのもあるし……」


 ロナータの話を聞いて神さまは納得したように目を細め、笑みを浮かべました。

 一歩前に踏み出し、顔をグイとロナータに近づけます。


「のう、ロナータよ。貴様らを結ばせてやろうか?」


 ロナータは目を見開きました。


「吾の能力で貴様の『魅力』を上限まで引き上げれば、あの女もイチコロだ。あっという間に発情し、貴様に擦り寄ってくるに違いない。想像してみろ、あの女が貴様を求めている姿を」


 否応なしにロナータは想像してしまいました。美少女ジャスミンが頬を赤らめ、ショルダーオフのワンピースをはだけさせて近づいてくるところを。


 彼はダンジョン配信者である前に一人の男です。気づけば胸は大きく高鳴っていました。


 しかし、

「ダメダメダメダメ!」

 ロナータは首を横に振りました。


「それじゃあズルだよ。ボクは、ボク自身の力で彼女と一緒になりたいんだ」




「なんの話してるの?」




 いつの間にか隣にジャスミンが立っていました。


「VS亞ホイナフォShpじゃ!」


 ロナータは言葉にならない奇声を上げて飛び上がります。

 一方の神さまは平然としていました。


「些事なことだ。気にする必要などない」


 神さまの言葉にジャスミンは微笑みました。


「そう。二人ともそろそろ身なりを整えといてね。配信つけるから」




   ***




「おつ〜、みんな元気〜?」




 >こん〜

 >1コメ

 >ヤッホー




 配信をつければたちまちフォロワーが集まってくる。一分も経たないうちに視聴者数は500を超えました。


「今日はアサクサ・ダンジョンに来てま〜す。これからボスを討伐しに行くよ〜」




 >頑張ってください

 >応援してます

 >今日もかわいいね




「アハハ、ありがとう。で、今日は特別にこちらの方に来てもらっていま〜す」


 カメラを向けられたロナータは引き攣った笑みを浮かべました。


「あっ、ダンジョン配信やってます、ロナータです。どうぞ、よろしく……」


 反応は十人十色でした。




 >誰?

 >同じ事務所の人?

 >この前ダーク・デーモン倒してた人だ!




「では、さっそくラスボス討伐に行きましょう!」


 ダンジョン専門家のアワハラ氏によると、アサクサ・ダンジョンのラスボスは雷と炎を操るデーモン・ドラゴン=マダム。


 10メートルを超す巨体に加え、背中に生えた翼は広げると30メートルあるボス部屋を覆い尽くすほど。青白く光る瞳には雷が走り、口からは赤い炎がチリついています。




  ●レベル:67

  ●体力:80

  ●魔力:85

  ●筋力:60

  ●防御力:70

  ●多才力:40

  ●速力:65

  ●魅力:50

  ●コアスキル:ライトニング・フレア




 一方のジャスミンは……




  ●レベル:48

  ●体力:40

  ●魔力:60

  ●筋力:30

  ●防御力:45

  ●多才力:40

  ●速力:30

  ●魅力:53

  ●コアスキル:水陣結界アクア・シールド




 マダムと比べてパラメータは低めです。

 それでも……


水陣結界アクア・シールド——参ノ陣トリオ!」


 二つの水のシールドが炎と雷を防ぎ、もう一つがマダムの頭部を包み込んだ。マダムは苦しそうに巨躯をくねらせると、口から炎のブレスを繰り出して頭部を覆っていた水を蒸発させる。


 戦況は拮抗していました。


 しかし、それはマダムとジャスミンだけを見ればの話。


 こちらにはロナータがいます。


「ヒヤァァ……」


 パラメータ中学生以下の彼はボス部屋の隅っこで膝を抱え込んでいました。幸いにも、彼の醜態はカメラの死角で行われていたため、視聴者にはバレていません。


 ですが、マダムには見られています。


 マダムは青白い眼光をロナータに向けました。


(まずい……!)


 ジャスミンが思うのも束の間、

 マダムが口を開けてロナータの方へ向かっていく。


「ロナータ、危ない!」

「へ?」


 顔を上げたロナータの目の前には、彼の背丈ほどに開いた口が。


 全てがスローモーションに感じ、

 恐怖が心の奥底まで浸透し、

 目に涙が浮かび上がって————




   ジャスミンが、ロナータの体を押した。




 横に突き飛ばされたロナータの瞳には、先ほどまで自分がいた場所に立つジャスミンの姿。彼女の顔は初めて会った時から変わらず綺麗で————




 彼女の身体がマダムの口の中へ消えていきました。

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2024年12月2日 07:15
2024年12月3日 07:15
2024年12月4日 07:15

神さまだけど、なにか?〜〜神さまに気に入られた最弱ダンジョン配信者〜〜 名無之権兵衛 @nanashino0313

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