第2話 神さまが現れたけど、なにか? その2

「違う。お前は囮役だ」




「へ?」


 鼓動が激しくなる。


「で、でも、このダンジョンのボスって」

「デーモンだ」


 ロナータはブンブンと首を横に振りました。


「む、無理ですよ。ボク、デーモンと戦ったことないんです。それに……」


「グチグチグチグチうるせえなぁ!」


 怒鳴り声と共にザンテツが顔を近づけました。


「俺はテメェみてぇなザコとコラボする気なんてなかったんだよ。それでも連れてきてやったんだぞ。ザコはザコなりに役に立て」


 彼のパラメータが否応なしにロナータの目に映ります。




  ●レベル:58

  ●体力:70

  ●魔力:20

  ●筋力:80

  ●防御力:60

  ●多才力:30

  ●速力:50

  ●魅力:40

  ●コアスキル:チェンソー・ストライク




 全身から冷や汗が噴き出します。


「で、でも、もし、死んだりしたら……」


 言いながら他のメンバーの顔色を伺います。けれども、みんな蔑んだ視線を向けたり、目を合わせないように俯いたりしていました。


 ザンテツが薄笑いを浮かべました。


「いいじゃねえか。俺の50万に認知してもらえるんだぞ。フォロワーゼロの底辺配信者にとっては本望だろう」


 パーティーの何人かがクスクスと笑い声を上げました。


 それにロナータは「ハハハ」と同調することしかできませんでした。


 一連の様子を神さまは一歩離れたところから眺めていました。




   ***




 自分の体を見る。




  ●レベル:15

  ●体力:12

  ●魔力:9

  ●筋力:10

  ●防御力:11

  ●多才力:8

  ●速力:13

  ●魅力:14

 ……




 何度見ても落胆してしまう。


 本来なら年齢とともに上がるはずのレベルは、いつからか全く上がらなくなってしまいました。


 彼のパラメータは中学生レベル。いや、それ以下かもしれません。


「はぁ……」


 ため息をつくロナータの横を神さまが歩いていました。


「何故あのとき反論しなかったのだ」

「できるわけないだろう。あっちはフォロワー50万の人気配信者。こっちは七人。勝負になるわけ……」


(そうだ、フォロワーがゼロってわけじゃない……)


 しかし、一年以上活動して七人です。実力はもとい、配信者としての才能も彼には……。


「フォロワーというのは貴様らにとってそんな重要なのか?」

「そうだよ。ボクらの世界ではフォロワーの数が多いほど強いんだ。ボクがどれだけ白を白と言ったところで、アイツらが黒と言えば黒になる。それに実力だって……」


 ロナータは再び自分の体を見ました。




  ●レベル:15……




 三度目のため息をつく彼の隣で神さまは言いました。


「貴様のコアスキルは悪くないと思うのだがな……」




   ***




 二人はやがて大きな空間へと出ました。シナガワ・ダンジョンのボスが潜んでいる第五層です。ダンジョンのボス、デーモンは体長二メートルほどのモンスターで、物理攻撃を使ってきます。筋力10のロナータでは100回殴ったところでかすり傷一つつけられません。


(見つかったら逃げる。見つかったら逃げる)


 ロナータは何度も自分に言い聞かせました。幸い、この空間には切り立った岩が乱立しています。いざとなれば、これらを使ってうまく逃げることはできそうです。


 けど、すぐそばに現れたら————?




   コフーーーーッ




 岩越しに大きな呼吸音が聞こえる。

 そして見える。




   五メートルの体躯、

   漆黒の鱗、

   巨大な翼。




 その姿は攻略wikiにあるデーモンの姿とはかけ離れていました。

 心臓が負のベクトルを向く。顔面が蒼白になる。


 次の瞬間、彼は岩場に隠れ、口元を手で覆っていました。


(……う、嘘だろ!)


 一目見ただけで分かった。

 あれはただのデーモンではない。




 上位種、ダーク・デーモンだ!



 ダーク・デーモンは下位種と違い、魔力探知を使ってきます。いくら岩場に隠れたところで見つかるのは時間の問題です。


 ロナータの脳を数々の思い出が現れては過ぎて行きました。心臓は破裂しそうで、涙が頬を伝います。


 ところが、

「Grrrrrrrr......」

 ダーク・デーモンは唸り声を上げながらロナータから遠ざかっていきました。


(た、助かったぁ……)


 ロナータは安堵のため息をつきました。すると、彼の辞書がダーク・デーモンの特性を引用します。


(そうか。ダーク・デーモンは魔力が高い相手を優先的に襲うから————)


 胸がざわめく。


(まって、そっちは……!)




   ***




「皆さんこんにちは。ダンジョンマスター・ザンテツです。今回もシナガワ・ダンジョンを攻略しに来ています」


 配信を開始すればたちまち視聴者は集まりコメントし始める。




 >1コメ〜

 >こんにちは〜

 >配信乙で〜す




「前回は第四層まで行きましたが、今回はいよいよラスボスということで、デーモンの討伐を行なっていこうと思います。コラボするのは前回に引き続きこちらの方々です」


 カメラの視点が動いて五人の仲間が顔を見せる。

 どれもフォロワー10万人以上の大物配信者たちだ。

 視聴者のボルテージが上がる。




 >おぉ、すげぇ!

 >カゲマルさんだ〜

 >ジャスミンちゃんもいるのね❤️




「彼らと一緒に最後の難関、デーモンの討伐を行なっていきます。大変な戦いになると思いますが、皆さんの応援が力です。ぜひともッ—————————————————————————————————————————————————————————ナ——————————————————————————————————————————————ニッ———————————————!?———————————————






 ダーク・デーモン=サタン。

  ●レベル:69

  ●体力:85

  ●魔力:15

  ●筋力:85

  ●防御力:90

  ●多才力:30

  ●速力:60

  ●魅力:40

  ●コアスキル:スチール・クロウ






 突如、画面に現れた黒い巨影。

 影は配信者たちを次々と蹂躙していく。


「ぎゃあああぁぁ」

「ぐああぁぁああぁ」


 配信画面は土煙で何も見えなくなり、誰ともわからない悲鳴だけが聞こえる。




 >だいじょうぶですか〜?

 >画面見えないんだけど……

 >画面見えてないで〜す




 コメント欄も混乱を隠せない。

 やがて、土煙が晴れた画面を見た視聴者は…………




 >え?

 >?????

 >嘘だろ

 >ドッキリ?

 >???????

 >配信事故じゃんwww

 >ドッキリだよね?

 >?????

 >草

 >生きてる?

 >大丈夫ですか?

 >死んだ?ww




 カオスと化した。

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