神さまだけど、なにか?〜最弱配信者はなぜか知らないけど神さまに気に入られたので、No1ダンジョン配信者を目指すことにしました〜
名無之権兵衛
第1話 神さまが現れたけど、なにか?
ある日、神さまが出現しました。
場所はシン・トウキョウ市の地下、シナガワ・ダンジョン。
薄暗い洞窟にピカッと眩い光が瞬き、神さまが姿を現しました。
透き通るような金色の短髪に、宝石のように蒼い瞳。五頭身の体にはシルクの布が巻かれ、誰が見ても「可愛い」と感じる男の子は紛れもなく神さまでした。
「な、なんだなんだ!?」
ダンジョン配信者のロナータは神さまの登場を目撃した唯一の人物です。彼は白い髪と翡翠の瞳、そしてクシャリと笑うと幼さも垣間見える童顔の持ち主でした。
そんな彼は一休みと称してダンジョンの中でウトウトしていました。すると目の前で閃光が走り、キュートな男の子が立っていた。誰だって「なんだなんだ」と叫びたくなるでしょう。
「おーい、ボク。どこから来たんだい?」
ロナータは自分の体を見つめる神さまに尋ねました。
笑みを湛えた彼の言葉に神さまは顔を上げました。そして、幼い顔からは想像もできないほど眉をひそめると、再び自分の体に視線を戻したのです。
ロナータの笑顔が凍りつきます。
だが、これでブチ切れるほど彼は未熟ではありません。彼はプロのダンジョン配信者。笑顔は配信者にとって基本中の基本です。
(最近はこういう子も増えてきたからな。気を取り直して……)
「迷い込んじゃったのかな〜? よかったらお兄さんと——」
「黙れ、愚物。吾は考えごとで忙しいのだ」
次の瞬間、
ロナータは神さまの頭を鷲掴みにしました。
「あのね、ボクゥ、あんま調子に乗ってると、お兄さん本気出しちゃうからね〜」
しかし、相手は神さまです。ロナータの脅しなど屁でもありません。
表情ひとつ変えずに、ロナータの手の甲をつねりました。
神さまのつねりです。トンカチを勢いよく振り下ろしたような痛みがロナータを襲います。
「アイデデデデデデデ! イッテ〜〜〜〜」
ロナータはあっという間に悲鳴をあげ、神さまから手を離してしまいました。
「身の程を弁えろ。貴様はいま、神の御前にいるのだぞ」
「なにを……」
顔を上げたロナータは目を見開きました。
なんと、神さまは空中を浮遊し、炎を巻き上げ、水を渦巻き、地面を隆起させ、雷を落とし、頭上から光を放っていたのです!
何が何だかわからない? 私もわかりません。けど、実際に起きたことなのですから、そう記すしかないでしょう。事実、これを目の前で見せられたロナータは腰を抜かし、開いた口は塞がらず、目と鼻からは汁を垂らしていました。
しかし、神さまの特筆すべき箇所はそれだけではありません。
●レベル:⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎
●体力:⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎
●魔力:⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎
●筋力:⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎
●防御力:⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎
●多才力:⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎
●速力:⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎
●魅力:⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎
●コアスキル:⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
(パラメータが、表示されない!?)
ある日を境に全ての生命体には「パラメータ」が表示されるようになりました。
パラメータは目を凝らせば誰でも見ることができます。人間はもちろん、動物やダンジョンに潜むモンスターでさえ例外ではありません。
ところが、彼の目の前にいるこの少年のパラメータは黒塗りされて見ることができません。
(何かの間違い? でも、どれだけ目を凝らしても見えないし……。
もしかして、本当に?)
そのとき、神さまが動き出しました。
神さまは自身の周囲で起きていた超常現象をすべて無かったことにすると、鼻をスンスンさせ、ロナータの後方にあるテーブルへ向かいました。
「なんだ、これは?」
彼の目の前にはメロンパンが一つ置いてありました。クッキー生地に網目模様が入ったどこにでもあるようなメロンパンです。
「メロンパンだよ。よかったら食べる? ボクの自家製だけど」
「うむ、いただこう」
神さまはメロンパンをつかむと、小さくかぶりつきました。
蒼の両目が大きくなります。
「なんだこれは……。外はサクサク、中はしっとり。ほのかに感じる甘味と口溶けのよさ」
気づけば二口、三口——。
神さまは夢中でメロンパンに齧りつきました。ほっぺたにクッキー生地をつけ、口いっぱいに頬張る姿は、残業明けのサラリーマンでさえ癒してしまいそうでした。
(すごく美味そうに食べるな)
ロナータはメロンパンを食べる神さまを少し離れたところから眺めていました。
やがてメロンパンを食べ終えた神さまは手についた砂糖や粉を落とすと、一つ咳払いをしてロナータの方を向きました。
「これは……貴様が作ったのか?」
「そうだけど」
「貴様、名前をなんという?」
「ロナータ、だけど」
神さまは「うむ」と大きく頷きました。
「よし、ロナータよ。貴様を吾の記念すべき第一召使に任命しよう」
「えぇっ!?」
「喜べ。貴様はいま、最上の栄誉を手に入れたのだぞ」
「いやいや、待ってくれよ。ボクはそんな……」
ロナータが首を横に振ったそのとき、
「おーい、帰ったぞ〜」
洞窟の奥からロナータと同じダンジョン配信者のザンテツとその仲間たちが探索から帰ってきました。
「よし、少し休憩したら作戦会議だ」
ザンテツが言うと、探索隊のメンバーたちは腰を下ろし、くつろぎ始めました。ロナータは急いでカバンから水筒や食料を取り出すと彼らに配り始めます。
一連の様子を神さまは一歩離れたところから眺めていました。
「おっ? そのガキはどうした?」
神さまに気づいたザンテツは握り飯を頬張りながら指さしました。
神さまは眉を顰めると、
「吾はか——ムグッ!」
ですが、最後まで言う前にロナータが神さまの口を手で覆ってしまいました。
「いやぁ、なんかダンジョンに迷い込んでしまったらしくって。危ないかな〜と思って」
わざとらしく声を張り上げます。
一方、無理やり口を塞がれた神さまは目を釣り上げ、ロナータの手の甲をつねりました。
「イデデデデデ!」
ロナータ、本日二度目の悲鳴。
それでも彼は痛みを堪えて、神さまを少し離れたところへ連れて行きました。
「何をするのだ、第一召使」
「ここで神さまだって言うのはあんま良くない」
「なぜだ?」
ロナータは「ングググ」と悩むと、
「どうしてもだ」と言いました。彼はただなんとなくダメだと思っただけのようです。
そんな二人の様子を見ていたザンテツは鼻を鳴らしました。
「まあ、いい。そろそろ作戦会議を始めるぞ」
***
組み立て机の上にはシナガワ・ダンジョンの地図が置かれていました。
「カゲマルの探索によって、俺たちがいる第四層からダンジョンのボスがいる第五層まで二つのルートがあることがわかった」
ザンテツが地図に丸をつけていきます。
「二つのうち一つは道幅が広く、もう一つは人ひとりが通るのがやっとだ。おそらく広い方が元々あった正規ルートで、もう一つは先駆者が掘って開拓した裏道だろう。俺たちは
ザンテツは裏道に指を置いたあと、正規ルートを指差しました。
「作戦はこうだ。まず、囮役が
「はい!」急に指名されたロナータは上擦った声を上げました。
「本当か?」ザンテツの鋭い眼差しが刺さります。
「わ、わかってますよ。ザンテツさんの後をついて行けばいいんですよね」
額に汗を垂らしながら言うと、パーティのみんなが笑い出しました。ロナータだけ何が起きたかわからずキョトンとしています。
ザンテツは呆れたような顔をしました。
「違う。お前は囮役だ」
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