夢と現、前世と現世
◇
がばりと身を起こしたアランサスは、勢いのままソファから転げ落ちた。
今までで一番はっきりとした前世の夢だった。
(いや、前世のことなのか、怪しい部分もあったけど……)
思考回路を整理する。ともかくも、図書室に行かなければならないと思った。昨日出逢った謎の二人組――レーテもイジュスも乙女ゲーに類似のキャラクターがいた。もちろん、アランサスたちと同様、その存在はどこかズレていたけれど。だが、ここまで重なって来るならば、きっと図書室から繋がる先に、隠しキャラもいるのだろう。
(それがどんな奴かは分からないけれど)
調べて、確かめるべきだと思った。ゲームの中では、
(そうすれば――……)
災獣によって、片足を失くす少年はもう生まれなくなる。
それに、あの『正義の味方』とはいえない二人組のことも、もう少し知れるかもしれない。
(図書室からの裏ルートは、ゲームの世界では、文字通り世界の裏事情が明かされるルートだった……)
聖女およびプレイヤーは、そこで災獣を生み出す希虹石を作っていたのが、生き残りのエルフの王だと知るのだ。はるか昔、人に一族を滅ぼされた彼は、復讐のためその魔力を石に込め、地上にばらまき、人を襲う獣を造り出していたのである。
(まさかこの現実でも、そんな設定があるとは思わないけど――)
裏ルートを辿り、隠しキャラにあった先には、なんらかの秘密が隠されているかもしれない。例えば、なぜ、いま生きているこの世が、前世の乙女ゲーと似通っているのか――その答えに繋がるなにかがあるかもしれない。
それを知ることにどんな意味があるかは、いまは分からないが。このままただ災獣を出るに任せて退治し、なんとなく乙女ゲーに似てるなぁなどと思いながら、流されるように学院生活を送っていてはいけない気がした。
それでは、今までと変わらない。言いなりは嫌だと漫然と思いながらなにもせず、伯父の掌の内で、扱いやすい第一王子としてうずくまっていたあの頃と。やる気がないわけではなかったのに、どこか受け身のまま、リュデにせっつかれて、婚約破棄と王位継承放棄に乗り出していた今までと。
(ずっと、易きに流れる心地よさに浸っていたけど……)
もう、そのままではいてはいけないと思えた。いまは災獣の問題をなんとか解明し、解決したいし、この『前世の乙女ゲーに似ている世界』という不可解の意味を知りたい。それに、そうして己が意思で進む道を選択していけば、ふわふわと決意なく漂うだけだった自分にも、なにかを成す力が備わるかもしれない。自分の決断に胸を張れる、なにかを手に入れられるかもしれない。
(――……頼りがい、身に着けたいもんな)
昨夜のアイトーンの微笑みがちらついて、勝手に気恥ずかしくなり、アランサスは独りで苦笑した。だからといって急に色々動いてみようなんて、我ながら浮ついた思考だとは思ったが。
それでも、ちょっとは前に進んだ自分になりたかった。
『俺はまた、アイトーンを助けるよ。次こそきっと守る』
その言葉を、気休めの偽りで終わらせないために。
(高い身分に胡坐をかくだけで、しまりなく生きてきちまった第一王子だし。前世の知識をまったく生かせない、ダメ転生者だけど……)
出来るところから、思いつけたとろころから、手を伸ばしていくのは、悪いことではあるまい。
カーテンの隙間から差し入る光は、柔らかくか弱い朝焼けの色。時分はまだ早朝だ。
(人が少ない方が、図書室の中を色々探しやすいよな……)
幸い、学院の図書室は早朝でも入室できる。眠気も飛んでしまっていたので、アランサスは身支度を整えだした。昨日なんとか寝室へ送り込んだアイトーンはまだ眠っているようで、起きる気配もない。わざわざ眠りを妨げるほどのことでもないので、アランサスはひとり部屋を出ると、図書室へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます