第4章 推理の始まり
「でも、それじゃあ、あの俳句はどうなるの?」
「そこです」
私はきっぱりと言った。
「あの俳句は、寄贈した本の中から出てきました。本の書名でちょっとした暗号を作るような人ですから、あの俳句にも何か、意味があるのだと思います」
図書室の外には日暮れが近づき、空は赤らみ始めていた。私は電線に乗って騒ぐカラスの声をなんとなく聞きながら思考を練った。
「意味?」先生はゆるゆると問い返す。
「何か暗号になっているということ?」
「それは、まだわかりません。考えるにはあまりにも情報がたりないので。でも、きっと何かあるはずです。私の勘がそう言っています。そこでなのですが。先生、心苦しいでしょうが話していただけませんか?ご主人とのなれそめから・・・別れまでを」
「な、なれそめ?どうして」彼女は戸惑って目を白黒させた。
「何か関係があるかもしれませんから。お願いします、ことり先生。私は」
真実が知りたいです。そう言おうとして、言えなかった。言葉が出てこなかった。なぜなら、私にとって「真実」という言葉は、とても苦いものだったから。
「・・・いいわ。でも、どうしてそんなに一生懸命になってくれるの?」
先生はふう、と息を吐いて、静かに訊いた。
「私、小学校のとき探偵団を作って推理のまねごとをしていたじゃないですか」
「そんなこともあったわね」懐かしそうに先生は言った。私は目を伏せた。
「中学生のはじめに、あることというか、事件があって、探偵団は解散し、私もあれほど大好きだった推理をやめていました。何のことか分からないかもしれませんが、私は気づいたんです。この世には、名探偵なんて要らないって」
母の横顔が目に浮かぶ。私の母は作家だった。日常の謎を専門に書く推理小説家。今はもう、彼女の新作を拝めることはない。
「でも、やっぱり私は推理するのが好きなんです。謎めいた状況が、暗号がどうしようもなく好きで、理由を知りたくなってしまう。もうほとんど病気ですよ。だからこれは、ただの自己満足です」私の言葉を聞いた先生は優しくうなずいてくれた。
「一夜限りの探偵団復活ってことね」
「復活したメンバーは、一人ですけど」
私は先生と顔を見合わせて吹き出した。一瞬だけど、昔に戻ったような感じがした。
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