第47話 魔法と美食
「……ところで、天ぷらどう?」
「おいしい、よ?」
「フリッターだろう?悪くはない。揚げ物の割には軽く、タレもラディッシュが効いていて清涼感があるな。合わせるならば白ワイン……南部アルビオン州の辛口、三年熟成モノと言ったところか」
「ふーん、じゃあ女の子達に出しても良さそうだな」
「……平民の女に振る舞う料理の味見を、私にさせるでないわ!」
「いや、俺が食いたいからって理由がメインだから、別にそこは意図的に不敬やってる訳じゃないぞ。あ、最後にアイス揚げるぞアイス!」
俺は、ローザリンデとミスガンシア伯の二人と、一緒に飯を食っていた。
「……って言うか、ミスガンシア伯はなんで来たんです?お抱えの料理人とかいらっしゃらない?」
「……貴様の方が、料理の味は旨い」
えぇ……?
俺別に、プロとかじゃないんだがな。
そりゃまあ、学生時代は高校から大学までずっと居酒屋でバイトしてたが……。
「野菜や肉の、モノが違う。何をやった?甘味、旨味、柔らかさ……、全てが尋常なものではないぞ」
あ、素材の問題か。
「庭で作ったんすよ」
庭(庭園の術)でな。
……品種改良された肉や野菜、新鮮な海の幸、うま味調味料に砂糖や香辛料。
確かに、その点で言えば俺の方が上か。
でも、この世界の料理人も、ちゃんと腕はいいんだがな。
もちろん、衛生管理があんまり……という最大の弱点はあるのだが、それでも料理の腕そのものはやっぱりプロのもの。ミスガンシア伯の料理長には、特に洋食では俺も敵わない。
「……ところで、それは?」
「アイスっすよ」
「アイスとは?」
「氷菓子……で通じます?」
「……ほう、氷菓子。北方近くの、氷室がある地域でしか口にできない、氷菓子か」
あーもう、また始まったよ。
俺はとりあえず、ずんだの妖精になって対抗する。
「なんすかーーーッ!!!」
そうやって動画配信サイトでなんでもやらされる哀れな合成音声のような声を捻り出していたら、もう完成。
アイスの揚げ物、黒蜜をかけていただこう。
……うーん、美味い。
バニラのアイスにサクサクの衣、黒蜜のソース。
アイスは、口溶けを重視し、油の匂いに負けないように香り高く、甘さは控えめにしたもの。
そこに、甘みの強い黒蜜ソースを絡めて、アイスが熱で溶けた部分と、サクサクの衣を共にスプーンに乗せると……ああ、最高だな。
好き嫌いがなくてよかった、甘いものも酒も珍味も、俺はなんでも楽しめる……。
「……魔法か?」
難しい顔をしたミスガンシア伯が問いかけてくる。
「今この場で魔法は使っていないですね。アイス天ぷらは、純粋な技術でやりました」
「馬鹿な、氷を油に潜らせては、溶けてしまうはずだ」
「この氷菓子は油分を多く含んでいて、溶けにくいんですよ。それを更に、限界まで冷たくして、冷たいうちに素早く衣をつけただけのこと」
「……どのようにして、限界まで冷たくした?」
「さあ?それより、早く食べないと溶けちゃいますよ?……んー、美味い!」
……ん?
「これ、とっても美味しい……!」
おや、ローザリンデはどうやら、甘いものが好きなようだな。
まあ知っていたが。
というより、女で甘いものが嫌いな奴をこの世界で見たことがない。
いやもう、男でも甘いものは好きで当然だ。
娯楽があまりない世界だからな、甘いものを食べるのも、十分に娯楽の一つだよ。
モンスターがいるのに苦労して城壁から出て外を歩き回り、近くの森の果樹から果物を集めることも、「甘い果実を食べたいから」だしな。
甘いものを食べるために、命懸けで城壁の外にも向かう。そんな人がいるくらいには、「甘い物」はこの世界では魅力的な物なんだよね。
というか、そんなことは人類の歴史で証明されてるしね。
甘いもの、酒、カフェイン、タバコ。依存性があるし、口にしなくても生きていく上では全く問題ない。でも、人々はそれを求めちゃうんだよね……。
しかし、ローザリンデ。
甘いものばかりを与えては、糖尿とかになりそうな感がある。痩せててもなるのだ、糖尿病は。
それは気をつけて、甘いものを食べる前には肉や野菜を食わせなくてはならない。
今回は、かぼちゃの天ぷらと、海老天二本、茄子の天ぷら、玉ねぎのかき揚げを食わせて、その上で、小さい焼きおにぎりも一つ食わせた。
遅れてきた成長期なのか、最近はよく食べるようになった……。
主治医として嬉しい限りだな。
いや、医者としての仕事はちゃんとやってるんで……。治療の最中とかに、患者が女だからって喜ぶとかはないです……。
そりゃ心情的には女の方がいいが、実際にメス入れてる時は単なる肉の塊としか思えなくなるからさ……。
まあ、とにかく。
ローザリンデは俺が年単位で診てきた患者でもある訳で。
ここまで回復したのは、普通に、医者として喜ばしいよ。
そんな訳で、大福サイズのバニラアイスをもう一つ揚げてやり、ローザリンデに与える。
「わあい」
虚弱だ何だとは言っていたが、この調子だと、出産にも耐えられるような身体を作れるんじゃなかろうか?
そんなことを考えながら、俺はアイスを齧る。
「……知ってはいた。知っているつもりでは、な。だが、まさかここまでとは」
「あ、あらかじめ言っておきますけど、俺は戦争協力とかはしないんで」
「何故だ?棒と剣を使う『奇矯の剣技』は、ストライダーギルドでも名高いはず。その上で魔法も扱うならば、将軍にすることもやぶさかではないぞ?」
「この力は、人を救う為にある……ッ!!!」
「そうか、で?」
「どこまでやっていいか分かんないんすよね。あんまり変なことをやると、『強過ぎるから王家で召使えるね!』とか、『変だから異端扱いでぶっ殺すね!』とか、なるでしょう?変な奴を変な奴のまま受け入れて、利益を得ようと試行錯誤できる貴族は、俺が知る上では貴方しかいない」
そういうことなんだよね。
この国の王家も、そんなアテにならんし。
隣国に逃げたら、外国人扱いで酷い扱いは決定されてるし。
というか、俺はチェンジリング……まあ、地球で言えばユダヤ人みたいな感じか?有能だが別人種で扱いに困り、特定の地では酷く差別される!みたいな……。
そんな訳だから、俺を上手く使ってくれる唯一の貴族であるミスガンシア伯から離れることは、まず無理なんだよね。
さて、王家ねえ……。
どうなるんかねえ……?
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魔法チートで異世界スローライフ 〜修行なしで魔法を使えるってよく考えたらチートだよな?〜 飴と無知@ハードオン @HARD_ON
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