第46話 親心
うーん、やっぱり天ぷらはナスだよな。
子供の頃はちくわ天か海老天に限る!と思っていたんだが、成人してからはナスの旨さに気付いてもうダメ。
個人的には、舞茸の天ぷらもおすすめできちゃう。舞茸天は塩で食うのがいい。抹茶塩だとなお良し。
かぼちゃ、芋辺りも甘くてうんまい。塩もいいが、この辺りは大根おろしと生姜を入れたつゆで食うのが好み。
もちろん、魚介や鶏肉の天ぷらも美味いんだが、歳食ってくると野菜の旨さに気付いて愕然としちゃうのよ。何でだろうね?ピーマンとか子供の頃は嫌いだったのに、大人になってからは生ピーマン齧りつつ酒!とかやれちゃうようになるの。
他にも……、アイスクリームの天ぷらも良くてよ〜、昔新宿の天ぷら屋でネタ半分に頼んだんだが、いやバカにしてて損したわ。ありゃうまい。
後はかき揚げか?揚げた人参と玉ねぎの甘みは、下手なスイーツよりよほど官能的。
そんな話をしながら俺は、飯盒で炊いた銀シャリをどんぶりに盛る。
米……、うめえ!!!
天丼も美味いが、天ぷら定食もアリなんだぞ。
こうやってほら、半熟卵の天ぷらを飯の上で割ってよお……。
鶏もも肉の天ぷらを一口齧って、半熟卵と天つゆの染みた飯を掻っ込む!
かあ〜!うめえなあ〜!
朝はパンだが、昼は米だよ米!今は夜だがね。
どうやら、転生しても味覚は変わらんらしく、米が美味いのよ、もう。
「……さく。うん、美味しい、ね」
「「ローザリンデ様!毒味を!」」
「ローレンス、ルーライア。あのね、ドルーは、殺すつもりなら、もう殺してると思うよ。それに……」
「「そ、それに?」」
「ドルーになら、殺されたっていい。ドルーに救われた命なんだもの……」
ローザがなんか言っているが無視。
俺は味噌汁を啜る。具はわかめと豆腐。
味噌汁はなぁ、やっぱり、サブで出てくる時はわかめと豆腐がド安定。細切りの大根や、玉ねぎなんかも美味いことはお伝えしておきたい。
でも、夜食の時とかは、焦げ目をつけたぶつ切りのネギに、ごま油を垂らしたりするぞ。そうそう、根深汁ってやつ。
まあでも究極的には、豚汁が一番うめぇや。
豚汁によぉ、バターちょいと溶かして、七味振ったら、もうそれだけでちょっとしたおかずだよ。
マジでこれでご飯が食えるからね。うどん入れてもよし。
付け合わせは漬物かなー。
俺はたくあんとかより、浅漬けの方が好きかな?
白菜ときゅうりは鉄板として、トマトや蕪なんかも良いぞ。
この世界に来てからはピクルス作りに挑戦し始めたんだが、いややっぱ良いね。面白いし、奥が深い。
「そうか。領地は開拓地でいいか?」
ふざけてんのか、ミスガンシア伯。
「そういや最近、東大陸との伝手が手に入ってなあ!東での生活も悪くなさそうだなーーーッ!!!」
とりあえず、脅しておく。
「ふん、領地くらい与えねば、報いることにも、この地に縛ることにもならんわ。政治をしたくないのであれば、代官を雇い入れれば良かろうに」
「領地持ちって言えば貴族みてえなもんだろうがよ」
「戯け。お主も知っておるだろうが、土地持ちにも様々な者が居る。お主には、大々的な名を与えるが、立場は単なる田舎地主にするということだ。ただ、一等良い土地を与えようと言っている」
「いやです」
「……そう言えば、近くの村娘やストライダーの女達にギルドの娘と、相当に浮名を流しているそうではないか。村の一つでも持てば、畑持ちの土地持ちとして、子らは末長く食うに困らんだろうな?」
お、流石は貴族。
ちょっと痛いところを突いてきたな。
そうなんだよなー、この世界の女の子は、魔力の効果で若さが持続するし、ギンギンに鍛えているストライダー女なんかは平気で六十歳くらいまで二、三十歳程度の身体で生きられるが……。
それはそれとして、最終的にどうすんだ?ってのはあるんだよな。
歳をとって、働くのも辛くなってきたストライダー女の友人達。
遠い街からここに訳ありで逃げ込んできた、行き場のないような女の子達。
ストライダーとして、身体が動かなくなるまで、死ぬまで戦えと言うのか?
それはあまりにも可哀想だ。
ガキの一匹や二匹でも孕ませてやって、お手伝いさんにしてやった方が良いんじゃないのか?と、割と悩んでいるのは確か。
産ませるとなると、集団生活は必須だしな。
え?あ、ほら……、ストライダー女達には、親戚とか福祉とか、頼れるものが何にもないからさ……。
普通、この世界での子育ては、家族親戚みんなでやるもの。
身体が動かなくなった年寄りや、上の子供の仕事として、子守りがある感じ。
婚姻も貞操も、庶民レベルでは曖昧だし、村でできた子供は親が分からなくても村の子供として育てられる〜、みたいな?
なんかね〜、このくらいの時代背景で、令和日本の貞操観念持ち出しちゃダメっぽいのよね。
ほら……、ハーレムも原義的には、戦乱の時代の未亡人などを保護するための制度でした、みたいな話だよ。
男側の遺言で、「まだ若い妻を信頼できる男の新しい妻にしてほしい」なんてのが普通にある世の中だ。
それは、寝取らせ趣味とかではなく、保険も福祉もまるでないから、愛する妻を信頼できる身近な友人に託して、友人のものにしてもらおう!って発想が出てくる時代なのよここ。
そもそも、貞操観念ってもんが、キリスト教の仕業みたいなところあるからな……。あ、その辺の話をすると、この世界は、教会はあるけど多神教だし、キリスト教の教えとは全然違う感じの宗教観だな。
……とにかく、友人であるストライダー女達は、最終的には俺が飼ってやって、救済してやりたい気持ちはある。
そして、そういうような、行き遅れ女達を救済します!みたいな形であると、俺に不利な要素はまるでない。令和日本だと最低の所業でも、この世界のこの時代だと篤志家扱いだ。俺は自由を失わず、逆らえない女達を侍らせられる。「責任」はない。
しかしそこまでやるには、相当稼がなきゃならない……。
土地をもらえたら、その辺の問題が一瞬で全て解決するし、有力貴族の直臣の立場は、単なるストライダー女達は何も逆らえなくなるくらいの権力でもある……。
いや本当に、流石だよミスガンシア伯。
交渉相手の最も欲しいものを与えられるとは、やはり貴族だな。貴族の鑑だ。
「じゃあせめて、その『開拓地』とやらが完成してから言ってくれんかねえ?」
「村を作れば引き受けるのだな?」
「そうは言ってない。村ができても、そこはきっと、都市よりは不便だろ?開拓した当事者との折衝も面倒だ」
「ふむ……、なるほど。まあ、私も問題が山積みであることは認識している。だが、空手形ではなく、公文書として、この先いずれ封土を与えることを確約しよう。そうでなければ、家格的に、ローザリンデは与えられん」
ああ、もう。
面倒だ、本当に。
こういうしがらみが嫌だから、本気こいての成り上がり!とかはやらなかったんだがなあ……。
けどこれでも、ミスガンシアという過ごしやすい土地を捨てる理由にはまだならない。
他の土地のストライダーは、もっと扱いが酷いからな……。
他の土地に行くとなると、人権を手放して、本気で魔法を使ってガチで成り上がり一級ストライダーになり、どこぞかの貴族の食客にでもなって長年仕えて忠義を示し、その貴族の次の世代の子供を支えて、その子供が大人になる頃には……?って感じでバカみたいにめんどくさい。
それが分かっているから、ミスガンシア伯もこうやって刺してくるんだよなあ……。
ああ本当に、難しい。
社会人は辛いよ。
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