第43話 薄月の君
そんな訳で、王都へと向かうことになった。
『王都ジオリア』に、だ。
護衛に、「青のほうき星」の女の子達を呼べないかなー、と一瞬思ったが、まあ普通に厄介事案件な訳で、巻き込むのもなーって思ったんで呼ばなかった。
多分、シオとかマーゴットとかは、普通に死地にも着いてきてくれそうな感はあるけれど、政治的な意味での死地に連れ込んでも意味ないし。というか、そっち方面で役立つ奴は、それこそ『守護者の盾』の連中くらいだろう。
それに、ミスガンシア伯も、何処の馬の骨かもわからん野卑な女冒険者を連れ歩くなんて、許しちゃくれないだろうしな。
いや、もちろん、ミスガンシア伯は見た目に反して……反してないか?まあとにかく紳士的だから、そんなことを面と向かっては言わんとも。
ただ、貴族ってのは、「他人にどう見られるか?」を考えなきゃならない。実際は良い人だから〜とか、人は見た目ではなく中身で〜とか、そんなんは意味ないってことね。
身分や見た目なんて関係ない!みんな平等!みたいなことをこの世界で言ったら普通に不敬罪で首が飛ぶので、転生してくる人は気をつけような!
そんな訳で、王都までの移動には、屈強な兵隊さん達が着いてくることに。
ミスガンシア伯と、その相談役の爺さん魔導師、ミスガンシア伯の息子の三人と移動だ。
「……何でこいついるん?」
「わあ、まるで要らないもの扱い。面白い、ね?」
……なんか知らんが、ミスガンシア伯の娘、ローザリンデが着いてきた。
なんで?
「あのね、ドルー?私ね、暇だったの」
「知らねーーーよ!じゃあ家で大人しくしてろよ?!旅なんかしたらまた体調崩すでしょ〜ッ?!!」
「でも、ドルーがいるから、すぐに治してもらえるね」
「……あ?そういう事かよ、ミスガンシア伯!」
俺は、前の馬車にいるであろうミスガンシア伯を罵った。どうせ距離的に聞こえないだろうからと、大きめの声で。
これは多分、ミスガンシア伯の「親心」というやつだ。
幼い頃から病気で、ずっと家の中に篭らざるをえなかったローザリンデ。
それが、手術である程度持ち直し、外を出歩けるようになったが……、虚弱体質故、長期の移動は難しい。王都観光など以ての外だ。
だがこうして、俺が移動中ずっと側にいるならば、話は違う。
俺がローザリンデの体調を診てやりながらならば、王都にも行けるし、何があっても大体問題はない。
それを、ミスガンシア伯も分かっているから、ついでと言わんばかりに娘を連れてきた訳だ。
あのいかつい顔とつっけどんな態度からは中々分からないが、ローザリンデのことを溺愛しているからなあのおじさん……。
よく考えてみれば、長男も他の娘も居るのに、病気がちで子供も産めないような娘を生かしているんだもんな。貴族でも……、いや、貴族だからこそ、そういうのは「家の恥」とか言って消し去るのがこの世界の普通だ。
それを踏まえて考えると、こんな子を大切に生かしてやり、異端の医学に頼って、多大なリスクと金を払ってまで身体を治すってのは……、相当愛しているんだろうな、という感じ。
ローザリンデは確か、病気で亡くなった、ミスガンシア伯最愛の第三夫人の子供だからな。めちゃくちゃ美人な不思議ちゃんだったらしい。……まあ、似てるってことだろうな、その第三夫人に。
「お父様にお願いしたらね、いいよ〜って。お父様、優しいね?」
そんな訳で、道中は、ローザリンデの介護をすることが決定した。
許さん……、殺してやるぞミスガンシア伯……!(できない)
で、道中。
俺は、ゼファーに帆馬車を牽かせている。
ゼファーというのは、俺の前世の愛車を名を冠する、立派な黒馬だ。
いや、魔法で生み出した使い魔だから正確には馬ではないんですけれども、とにかく馬。
俺はその帆馬車の御者席に座って、ゼファーを操っている……。
その御者席の隣に、押し付けられたローザリンデ。
で、馬車の両脇を馬二頭が歩っててぇ。
この二頭にはそれぞれ、ローザリンデの護衛である若い双子の剣士、ローレンスとルーライアが乗っている感じ。
これは多分、ローザリンデになんかやったら、こいつらがなんかやってくる感じのアレだと思います。
しかもそれが、もちろん暴力を振るおうってんならぶっ殺しにくるが、セクハラとかだと「なんか良さげな報告」をミスガンシア伯にするんだよねこいつら。
こいつらも、ローザリンデを俺とくっつけようとしている感がある。
別に、ローザリンデを抱くことも優しくすることもできるが、結婚は嫌だわ。責任が生まれるからな。
妻がいると嬉しい、愛しい、楽しい。それは分かるが、俺は責任を果たすことへの嫌さ加減の方が喜びより気になるのだ。
何故そんなに責任から逃げたがるのか?と言えば、俺自身が、「責任は果たされるべきだ」と考えているからだろうな。
「何言ってんだこいつ?」感が強いが、まあ聞いてほしい。
責任は、果たされるべきだ。
各々が、持つ力、手にした幸福、富。それを手に入れるための代償、相応しいだけの「責任」を、皆が支払うべきだ。
美味いものを食うには、たくさんの金を。
良い家族を維持するには、たくさんの労働を。
高い立場を得るためには、たくさんの努力を。
全ての人間が、そうするべきだ。
そういう、道徳感とも言えぬ、義務感がある。
だが、それはそれとして。
「節税」はできるはずだ。
美味いものを食うには、たくさんの金を。しかし、クーポン券や株主優待、知り合いに安く食わせてもらうのでも良いし、上手くやれる。
良い家族を維持するには、たくさんの労働を。しかし、お手伝いさんや乳母を雇って家事負担などを軽減したり、実家を頼って子供の面倒をみてもらうのも良い、上手くやれる。
高い立場を得るためには、たくさんの努力を。しかし、上の立場の人にコネを作って引き上げてもらったり、金で立場を買っても良い、上手くやれる。
俺は、上手くやっているのだ。
家族が欲しい、愛する妻も恋人も。だから、奴隷を買って教育して、そうなるようにした。
良い仕事をやりたい。だから、領主や貴族を抱き込んでコネでいい思いをしている。
苦労せずにいい生活がしたい。だから、世界を変えられるような魔法の腕をコソコソ隠して、自分だけ幸せになっている。
つまり、結婚がダメなのは、決定的な責任となるからだ。逃れる方法がないからだ。上手くやる方法がないからだ。
……実際、上手くいかなかったしな。前世では。
……逆に言えば、ローザリンデ。
貴族として正式に除籍され、うちの居候になります!とかならば、全然俺は受け入れるつもりだ。
貴族の立場のまま嫁入りしてきて、ミスガンシア伯との政治的なあれこれがめんどくさい感じのアレになるのが、嫌なのだ。
個人的には、ローザリンデのことは好きなんだがな……。
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