第40話 裏路地の人々
さて、誰だろうか……?
そう思って振り返る。
……本当に誰だこいつ?
まあ、身なりからして、チンピラであることは分かるが。
「あっしは、ジェノバ・ファミリーの『ノーフェイス』ってモンでさ。先生に脚の骨を繋いでもらったことがありやす」
「ごめん覚えていない」
俺はオーガニックに即答した。
本当に覚えていないので……。
「いやいや!先生はもう、スラムの住人を山ほど診てくださってますでしょ?忘れて当然でさ!……あっしも、顔をよく変えますからね」
まあ、そうだな。
詐欺師っぽい感じだし、容姿や服装を変えるタイプの奴なんだろう。
そうじゃなくても覚えていないと思うが。
ただ一応、来院者のカルテは残してあるので、それを見て称号は可能ではある。
「今、お暇ですか?よろしければ、うちの店で呑んで行ってくだせえ!もちろん、先生にはちゃんと、薄めてない酒を出しますぜ!」
えぇ……。
普段は薄めた酒を客に出してるってこと?水割りとかではなく?
品質面怖いから行きたくねーなそりゃ。
「アラ?先生アルネ!」
んん、今度は大陸風の訛り言葉が背後から。
シャオリン……じゃねえな。
誰だこいつ?
シャオリンと似たような、アジア風の細目の女だが……、なんか、こう……、ケバい。
何そのエグいスリットのチャイナ服?チャイナ服って、本場の人は着てないらしいぞ?
後その、何かの動物の毛皮を使ったふわふわマフラー何?
ちっちゃい丸メガネ何?胡散臭えよもうマジで。
マジでこう……、こんな格好して表を歩く人、いるんだー?って感じ。本当にビビるね。
「先生、どうしたアルカ?こんなところまで……?ワタシに会いに来てくれたアル?」
そう言って、しなを作って俺に抱きついてくる女。
「誰だお前」
「ランパンのフェイロン、アルヨ?ウチの子分、何度も助けられたアル」
「嘘つけ!女の名が『飛龍』な訳ねーだろ?!」
あ。
「……ふむ。やっぱり、大陸の言葉、知ってるアルネ?あ、ホントはミンシャ言うアル」
んー。
まあ、知られたところで……。
え?そういや今、ランパンって言った?
ランパン……、藍幇?
それは……、青幇的な……?
こいつもやっぱりチンピラかよ。まあ、見た目がそうなのは……、そうなんだが……。
「ウチで呑んでくといいネ。毛唐の巣より、こっちのが良いお酒あるアルヨ〜?」
「はいはい、後でな」
俺があしらおうとした、その次の瞬間。
「やは、こん〜にちは〜」
刀を腰に帯び、着流を着た、気の抜けたヒョロ長い男が。
「オウ、先生!来てたんだな、匂いで分かったぜ!」
狼の耳と尻尾を生やした、ムキムキの大男が。
更に、背後から現れた。
「……今度は何だ?」
「百目鬼組の〜、タカオミですぅ〜。組の者が〜、世話になったと〜……、お礼をしたくてぇ〜」
「オイオイ!忘れちまったのかよ?フロストバイン団のイヴァンだよ!さあ、ウチに来な!歓迎するぜ!」
うーん……。
「お前ら全員、カタギじゃないでしょ?」
「「「「はい」」」」
はいじゃないが。
「ヤダよめんどくせー!そういう権力闘争みたいなの、他所でやってくれよ〜!」
いやホント、切実に。
「えぇ……?でも、あっしらのファミリーのモンを、端金で治療してくださるんですよね?」
「そりゃ仕事だからな?金さえ払えば、娼婦でもチンピラでも、物乞いでも診るよ俺は。で、払わないんなら王侯貴族も診ねぇ」
「ははあ……、そりゃ、ご立派な信念で」
「任侠者の考え方では〜?」
「まあそれで助かってるんだから文句ないアルけど」
「にしたって、あんな端金でよくもまあ……」
端金っつっても、本当の貧民には払えない額だぞ?
まあ日本円で、診察のみで五千円くらい。
風邪薬出すなら一万くらいで、盲腸手術なら十万くらい……?
そりゃ、この世界の相場からすると安いし、医者なのに腰が低い方だよ俺は。
この世界の医者は、外科医は散髪屋と兼ねているし、内科医はエリートだからめちゃくちゃ偉そうだし治療費がバカ高い。
それと比べると、俺は聖人に見えるかもな。
「……でも別に、お前らが怖い訳でも、お前らに味方したい訳でもないんだよ。敢えて言うならば、金を払えば誰でも治療する奴だと評価される為……、メンツの為にやってんのよ」
「「「「あーなるほど」」」」
メンツの話だと言うと、イヤに理解度が高まるチンピラ共。ヤダなー、こいつら。
「で、あれば……、こちらにもメンツがあるアルヨ。侮辱には侮辱を、恩には恩を。それが、『裏』の掟アル」
「そう言われても、関わりたくないしなぁ……。と言うか、俺は領主側の……公権力側の存在だぞ?」
「領主様となら、ウチもある程度仲良くやらせてもらっているアル」
ウッソだろお前。
……いや、ミスガンシア伯ならやりかねない。
そういう裏組織とか暗部とか、結構持ってるからなあの人……。
一応、地方長官とは言え将官ではないからそこまで大きな武力や実行力はないんだよな、確か。
新興貴族の派閥だから、無駄に兵力を抱えると中央に要らぬ疑いを向けられる。
だから代わりに、子飼いのスパイに暗殺者、手下の冒険者や、魔法使いの食客を三人も招いていて……、とにかく、兵隊以外の戦力をたくさん持っているんだよ。
だからこいつらも、上手い具合にその戦力の一部として飼われているんだろうな。
もちろんこいつらだってアホじゃないから、いい感じに命令に逆らったり出し抜いたりはしているだろうけども。
でも結局、手腕の話をすると、ミスガンシア伯の手の上ってことになるだろうよ。あの人は半端じゃないからな。
うわー、めんどくせー……。
「あー、後で!後でな!俺、これから『鉤爪』と会うから!」
そう言って断り、俺は逃げた……。
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