第37話 作業、苦労
「やったか?!」
俺は叫んだ。
様式美だ。
「ん、やった」
が、しかし、そんなものがこの世界で通じる訳もなく、普通にマジレスを返された。
実際、フォートレスクラブは胴体に風穴が空き、倒れ伏し……、ピクリとも動かないからな。
やったか?と言えば、やったことになるだろう。
「あ、小さいのが逃げてくよ!」
シオが言った。
ソルジャークラブの退却か。
となると、本当にボスであるフォートレスクラブは死んだな。
この後はソルジャークラブが年単位の時間をかけて育ち、立派なフォートレスクラブになるのだ。
「よーし!じゃあさっさと解体して、帰るぞ!」
「「「「おー!」」」」
解体を、します。
俺は馬車から、大型のナイフを取り出した。
ナイフと言っても、握りはロングソードで、刃の長さは短剣という、歪な形のものだ。
「おっ、出た出た!『魔剣』!」
シオがそんな風に囃し立ててくる。
「えっ?!魔剣アルカ?!……小さいアルネ?」
金の匂いを嗅ぎつけてシャオリンが湧いたが……、残念。
この魔剣に価値はあんまりない。
「これは、魔剣として最も多い、『切れ味を高める』タイプのものだな。だが、そんなものでもコネのない庶民には買えない……。しかしこんな風に、折れた魔剣なら手に入る訳だ」
「あー……、武器としては役に立たないけど、解体器具としてはバッチリってことアルネ」
「そういうこと」
嘘である。
そういう設定で自作した魔剣だ。
「この魔剣なら……、ほらっ!頑丈な甲殻もスパスパ切れちゃう!」
「おおー!」
「お前らは、俺が切り分けた甲殻から、肉を穿り出して捨ててくれ。重さ的に、肉が入っていては馬車一台じゃ運べないからな」
「身は使い道がないんだべか?」
ハナコが聞いてくる。
「んー……、まあ、毒薬とか、ある種の病気の治療薬にできないこともないが……、こんなに量は要らないな。毒があるから食べられもしないし……」
「うぅ……、残念だべ」
そんな訳で、解体開始!
全員が、俺が割った甲殻から鉄のスコップで身を穿ってゆく……。
「うええ……、臭いぃ……」
ロアが涙目で抗議。
確かに、鉄錆臭さと生臭さの二重奏で、最悪の匂いだな。
「ほら、ロア。……これでマシか?」
「ありがと、にーちゃん……」
ロアの鼻に三角折りにしたハンカチでマスクをつけてやる。何もないよりはマシだろう。
「ロアー?こんなんでへばってちゃダメだよ〜?僕達ストライダーの仕事って、毎回こんなもんだからねー?」
「うへえ……、大変だよぅ……」
「でも、その分儲かるからね!今日のこの仕事は五十万リドの仕事だよ?」
「五十万リドって、どれくらい?僕まだ、オカネ?ってのよく分かんない……」
「んーとね、街の普通に働く人達の、月にもらえるお給金の五倍くらい?」
「へー、じゃあ、普通の人よりずっといっぱいオカネがもらえてるんだ。頑張んなきゃダメかぁ……」
そうして、五時間くらいかけて解体を終えて……。
「よーし、ここから少し離れて、野営だ!」
仕事は終わった……。
もちろん、帰るまでが遠足。
完全に気を抜くことはできないが、仕事を終えて戦利品を得たことは確かだ。
酒は出せないが、野営の際に少し良いものを出してやり、皆を労ってやる。
「さ、飯にしよう」
俺は、チキンスープ瓶の中身を鍋にぶち込み、水を足して煮込んだ。
最初から、味をかなり濃いめ、具を多めにしてあって、水で薄めることが前提のスープなのだ。
これに、更にパスタ……マカロニ的なものを入れて、腹に溜まるようにしてやる。
それと、昨日の猪肉。挽肉にしてから持ってきた香草類と刻んでミンチにして、使用済みの瓶に詰め直して、冷たいところで保存しておいたんだよね。
このミンチ肉を、小麦粉の生地に包んで、肉まん的なものにする。
「えっ」
はい?
「これ……、包子アルカ?ダーファ北部の郷土料理……」
あー……。
「たまたま、似たようなものを知っていただけだ」
「はぐ」
あ、食った。
「美味いか?」
「……甘みのある皮、具は肉とネギ、味付けは醤油と胡麻油。螺旋を描く絞りの入った形。肉包アルネ」
うん……。
「……あえて聞かないアル。けれど、見る人が見れば、異常であることにはすぐに気がつくネ」
「分かったよ、人前ではやらん」
「お願いするヨ、ドルー大哥。アナタがいなくなるのは、嫌アル」
うん……。
ってか、ドルー大哥はやめて?マフィアっぽいから……。
「ああ、そうだ。茶も飲むか?最近、王都では紅茶が流行っているらしくてな。伝手で手に入れたから、みんなで飲もう」
「うわー、苦い!何これー?」
「レモンの蜂蜜漬け作ってあるから、これ入れてレモンティーにするといい」
「あっ、これなら美味しいかもー!」
こうして、寛いだ俺達は、無事に街へと帰還し……。
一人頭六十万リドの金を得た。最近品薄らしく、十万上乗せされたな、ラッキーだ。
「やったあ!これだけあれば、糖蜜が三壺は買えるよー!」
「老後の為の貯金が増えたネ!」
「ん、本……」
「お肉ー!」
「米と酒ぇ!」
……あのさ、シャオリンは良いとして、君らもうちょっと考えて使いなよ?
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