第36話 攻撃の魔法

朝。


見張り番を三交代して、一人六時間は合計で寝れたかな?という感覚。


100%バッチリなコンディションではないが、ストライダーはコンディションを落とさないように身体を上手く休める術を知っている。


いや、寧ろ、それを知らなきゃストライダーとして認められない。


俺は朝飯に、瓶詰めのコーンスープと、昨日の猪肉の炒め物と野菜を挟んだ自家製酵母パンを仲間達に食わせてから、指示をした。


「朝のうちにプルラン湖に着いて、午後からはフォートレスクラブを狩るぞ。フォートレスクラブは、子供であるソルジャークラブを十数匹放って護衛させている。そいつらを相手するのが俺たちの役目だ」


「「「「はーい!」」」」


「フォートレスクラブは、マーゴットに電撃の魔法で仕留めてもらう」


「ん、任せて」


「よし、じゃあ移動するぞ!」




で、すんなりと。


二時間ほど歩いたところで、プルラン湖へ辿り着いた。


三日月湖……つまり、その名の通り三日月のような形をした湖。


川のカーブしたところが何らかの理由でそのまま堰き止められて、本流と離れて分岐し、湖になった、と。


そんなこのプルラン湖は、毒の湖。


近くの金属地層から溶けた金属が水と混ざり合い、赤みがかった色合いになっている。


匂いも、鉄錆臭い。


「あー、言っておくが、あの水は毒だからな?飲むのはもちろん、触れるなよ?近付き過ぎるのも良くない」


「いやあ……、おらぁみたいな間抜けでも、流石に分かるべよ」


「うん、ヤバい匂いしてるもんね。どう考えても毒だよ」


ハナコとシオはそう言って笑う。


理解しているなら問題ないな。


そして、そんな鉄錆の水を、ジュルジュルと啜っているデカい蟹が……。


「おっ、出たぞ。構えろ!」


フォートレスクラブだ!


見た目は、巨大化したガザミ。鋏を振り上げると、五メートルは超えるんじゃなかろうか?


こんな錆水を飲んでいる癖に、身体の甲殻装甲は黒光りの超合金風。体内で精製してるってことか?魔法の力をそこに使っている訳だ。


『キシャアアア!!!!』


フォートレスクラブが吠える!……蟹って吠えるもんなの?まあ良いや、とにかく吠える!


すると、周囲で水を飲んだり、苔を食ったりしている、一メートル程度の大きさの小さな蟹達が集まる……。


これが、フォートレスクラブが従えている、ソルジャークラブだ。


一メートルちょいの蟹だからって、舐めること勿れ。


ちゃんとした魔物だから、魔力を使って身体能力を底上げし、異様な速さでシャカシャカと近寄ってくる!


「やーーーっ!!!」


シオが、担いでいる特大の剣を振り下ろす。


轟、と。凄まじい風切り音。


風を切るというか、風が潰されて悲鳴を上げているかのよう。


そんなシオの魔技、『剛力』は、研ぎ澄まされており、ヒグマでもまともにこの剣戟を受ければ、頭蓋ごと脊椎の半ばまで砕かれる、とんでもない一撃だった。


『ギュギッ?!』


「うっわ!硬ったぁ……!」


だが、ソルジャークラブは、それを受け切る。


無論、無傷とは言わない。


受けるために頭上に掲げた鋏は切断され、斬撃を受けた胴体は歪み、切り口からクリーム色の体液が溢れている……。


だが少なくとも、シオの全力の一撃を、あと一発は受けられるであろう余裕があることは、見て分かることだった。


『ギイッ!』『ギュギィ……!』『ギィ!』


「わっ、わぁ!」


……モンスターは動物と比べて非常に賢いもの。


このように要注意存在であるシオは即座に囲まれて、力を溜めての全力の一撃を再び放つことのないよう、釘付けにされてしまった。


「うあー!」


ハナコも同じだ。


ハナコの人外的な膂力から繰り出される金棒の一撃は、シオに一歩劣るとは言え、上手くやれば二、三回の攻撃でソルジャークラブを叩き殺しうる。


なのでハナコも、複数体のソルジャークラブに取りつかれていた。


「やあっ!」「エイヤー!」


ロアとシャオリンは、二人でマーゴットの護衛。


戦力的には、二人ともまだまだ半人前だしな。


なら、二人で一人前だろうという判断だ。


ロアは大型のグレイブを振り回し、シャオリンは青龍刀を二本操る。


そして俺は……。


「ほら、よっと!」


『ギイッ?!!』


ソルジャークラブの頭から伸びる目玉を、正確に叩き潰す!


こうすることにより、ソルジャークラブは視覚を失い、戦えなくなる訳だ。


殺さなくても、無力化するのは容易いな。


俺、シオ、ハナコで五体ずつくらいソルジャークラブを引きつけて、ロアとシャオリンが五体くらい相手にしつつもマーゴットを守り……。


焦れて近づいてきた、大ボスのフォートレスクラブに……。


「やれっ!マーゴット!」


‎「『חֲדִירָה(貫く) רַעַם(雷)』!!!」


マーゴットの雷が放たれた……。


放電、放射される電撃のように拡散することはなく、一本の光の矢、光線となって飛来した雷光は。


フォートレスクラブの胴体に、ヒトの頭くらいの大きさの穴を空ける。


それだけではなく、傷口からの通電で、内部はズタズタに引き裂かれ焼き切られ……。


『フ、シュォ……オ……オオ……』


とんでもないダメージを、フォートレスクラブに与えていた……。


これが、「魔法」……。


この世界で使われる、神秘の業である。

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