第34話 冒険者のキャンプ

さて、プルラン湖までのプチ遠征に出かけた俺達だが。


片道移動だけで丸一日が潰れる計算の遠征なので、今は野営をしている。


プロメロス川の支流の一つに陣取り、ここで一晩明かすのだ……。




「はい、じゃあ野営するぞ。ロア、火を熾すから、薪を拾ってきてくれ」


「はーい!」


「シオはロアについて行ってくれるか?単独行動は良くないからな」


「うん」


「テントは馬車を代わりに使う。足りない分は……、まあ、今日は天気もいいし外で寝るか。一応、簡易天幕だけ張るかね」


「やっておくアルよ?」


「じゃあシャオリン、任せた。ハナコは……」


「おらぁ、こういうのは何もできないべ……」


「うん……、まあ、周辺の警戒とかしておいてくれれば良いよ」


「ん、私は?」


「マーゴットって料理できたっけ?」


「できる。……けど、貴方ほど上手くは、ない」


「そっか。まあ、ちょっと手伝ってくれればそれで。俺は料理の準備と……、あ、釣りでもするか?」


「釣り……?する」


割り振りが終わり、そのまま各自が仕事をこなす。


ぶっちゃけた話、ここにいる面子はロア以外は全員抱いてるけど、そんな程度のことで仕事に手を抜いたり、逆に気合を入れ過ぎたりもしない。


彼女達はプロなのだ。


……第一、ストライダー、つまりは流民の女の貞操にそこまで価値はないからな。


マーゴットは処女だったが、シャオリンは結構経験があったし、田舎っぺっぽいハナコも少し経験が……。


シオはまあ聞いてはいないが膜はなかった。ワンチャン、運動のし過ぎで破れたのかも?そういう話は稀にあるらしいし。


マーゴットは一応王族だからかね?


とにかく、膜がないくらいでガタガタ言うほど童貞じゃないのよ、俺は。


そんな訳なので、仕事はちゃんと真面目にやる。命かかってるしね……。




「いやー、この辺の魚は釣られ慣れてないから馬鹿みたいに釣れるなー」


「慣れる……?とか、あるの?」


「あるよ。有名な釣り場とかだと、魚も学習してて、中々釣れないんだなこれが」


「へえ……、そうなんだ」


「ドルー!見て見て!猪狩ってきたよ!」


「おー、助かるわー。晩飯にするから、解体しておいてくれ」


「うん!」


夕暮れ時。


茜色に染まる空などと良く言われるが、今日の夕日はもう少し黄味がかっていて、金色のように見える。


そんな俺達は、焚き火の前でスープを煮ることに……。


川の水を煮沸したものに、賽の目切りにしてフライパンで焼き目をつけた猪肉を入れる。


そして、そこに持参した瓶詰めを……。


ん?


「……え?玻璃?!」


狐のような細目を開いて、シャオリンが驚いていた。


玻璃……、ああ、ガラスのことか。


「ガラスがどうかしたか?」


「そんな精巧な作りの玻璃、持ち歩くもんじゃないアル!!!」


んー?


「いや……、この世界、ガラスはあるだろ?」


「ん……。ガラスは、内海の向かい、南方列島からの舶来品。とても高級」


「で、でも、領主の娘とその護衛がうちに来た時は、ガラス製品を使っても何も言われなかったし……」


「彼女達は貴族、舶来品も見慣れてる」


あー……。


「何で、そんな大きな玻璃瓶なんて持ってきたアルカ?自慢?自慢アルカ?そんなに財力自慢されると、嫁ぎたくなるからやめてほしいアルヨ」


「い、いや、これは瓶詰めだから」


「……?」


あれ?


瓶詰めも……、ないんだっけ?


「ほら、空気を入れないように密閉した瓶に食材を入れて温めると、保存食になるだろ?それは分かるよな?」


「「「「何それ……?」」」」


あ、ないんだ。


「あのう、その中に入ってるの、ニンジンだべか?収穫時期、まだでねか?」


「いや、保存食って言ったじゃん。これ、去年のだよ」


「えーっ!去年の野菜、食べられるの?」


「ほら、手を出せ」


「はむ……、あ、ちゃんと食べられる……」


「……あの、ドルー大哥?ワタシ達、なんかこれ、拙いもの見せられてないアルカ?」


あー……、うん。


そうなる、か?


「まあ……、そうだな。まだこの世界にこの技術が無いんなら、普通に軍部とかに売ればかなり……」


俺は瓶詰めの中のカレー野菜水煮を大鍋に入れて煮込んでいるが……、一旦火を止めて、カレールーを取り出す。


「……それは?」


カレールーは……、別に、現行の技術で作れるからセーフだな。


「スープの素みたいな?塩とスパイスをバターと小麦粉で練って固め、乾燥させたものだ。こうして、湯に溶かすとスープができる」


「いや……、香菜(コリアンダー)と小茴香(クミン)はまだしも、小豆蔻(カルダモン)なんて天竺の高級な……」


あー、そっか。


スパイスは高級なんだったか……。


「いや、えーと、そんな高級なの使ってないよ。気のせいじゃないか?」


「……今まで話してなかったでアルネ。ワタシ、生まれは東大陸『ダーファ』が北州、ヤンジィア。生家は、ヤンジィアが太守シァミン様の御用商人、『フーライ』家が妾腹。高級品の目利きを間違える筈がないアル」


んーーー。


「商人ならさあ、気付いても口に出さない方が良いことってあると思うんだけど」


「危険を承知で忠言するのは、好いている男への親切心アル。……もう少し、財布の中身は隠した方が良いアルヨ」


ふむ。


確かに正論だな。


俺としても、可能な限りは異常さを隠しておきたくはある……。


だが、不便で苦しい生活を我慢する方がもっと嫌だ。


それに……。


「なあに、大丈夫だ。俺には領主がついてるからな」


領主に守られてるから、大丈夫なはずだ。


「……ダメそうなら、二人で『ダーファ』に逃げるアル。実家はもう頼れないけれど、伝手はあるアルネ」


「ん……、エルフの森国、来る?」


「うちの部族に来てもいいよー!」


「おらには、『アズマノクニ』への伝手なんてねえけども、畑なら耕せるべ。兄ィが逃げるならおらぁもついて行くだよ!」


うーん、みんな優しいなあ!


外から見るとヤバい男に惚れちゃった可哀想な女の子達って感じだけど。


……今更ながら、『青のほうき星』の団長たるカトリーナに嫌われている理由が分かってきたな?これ、側から見ると俺が百割悪いわ。

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