第33話 遭遇、戦闘

「シャオリンはマーゴットを守ってやれ!ハナコは馬車を!」


「ハイヨー」「あいよ!」


シャオリンはすらりと、二本の青龍刀を抜き放つ。赤い飾り紐が柄頭についた、『大陸』の刀剣だ。


ハナコは大金棒。木材に鉄板を貼り付けたものではなく、総鉄の大金棒。重さは100kgは優に超えている。


「シオとロアは、そのまま前衛で抑えてろ!」


「うん!」「はーい!」


シオはいつもの鉄大剣、ロアはグレイブ。


で、俺は……。


「俺は、もう一体の相手をする」


『キシャアアア!!!』


右手に長棒、左手にショートソード。


いつもの装備で、俺は構える。


番か、このムカデは。


いや、虫にそんな文化はないか。ただ、二匹いるだけだろう。理由はない。


そんなことより……。


「こいつ硬いんだよなー……」


『シャアアッ!!!』


愚痴りながらも……、飛びかかってくる上半身を躱し、ついでに頭の節の部分を斬りつける!


……が、一センチほどしか斬れない。


「うほー、鉄かよ?硬えなあ……」


ショートソード、『徹し』で魔力を通し強化しているけれど、それでもちょっと刃が欠けちゃった。幸い、芯が延びてはいないようだが……、後で研がなきゃな。


『シャッ!』


「うお」


ムカデの癖に、イレギュラーな動作。


上半身を振り回して、遠心力を利用したぶん殴り。


やっぱり、サイズがデカい分、脳も増量してるってことだろうよ。頭が良い。


それを俺は、長棒で弾きほんの少し時間を稼ぎ、その瞬間に素早く身を引いた。


身を引く、同時に身体を捻り、その力を解放するように、長棒で頭を叩く。


『シャアア!!!』


「うーん、怯まないんだよなあ」


虫系、痛覚がないから、叩いても嫌がらないんだよな。頭を殴っても、そうそう怯まない。


仮に腰を入れて強く殴ったとしても、そのまま差し違えるように突っ込んでくるから、こっちがやられちまう。


だからこうして、腰が引けてるというか……、良く言えばヒットアンドアウェイ戦法をやらざるを得ない。


それに、頭を潰せば殺せるんだけど、身体の方はしばらく死なないで暴れ回るんだよね。


殺す前に、せめて胴体にある程度ダメージを与えて、殺すと同時に、死後暴れないようにしておきたい。


「そんな訳でホイ!」


胴体……、と言って良いのか、腹節を叩いて、キチンの装甲を歪める。


割るのではなく、歪めるのだ。


虫系だから痛みを感じずに怯まない!とは言ったが、物理的に肉体が機能不全になれば、当然、動きは鈍るからね。宇宙船石村を思い出せ……!


『シャッ!シャッ!シャアッ!!!』


賢いムカデ君は、俺が素早いと分かってきたらしく、大振りの攻撃は控えてコンパクトな噛みつき連打を放ってくる。偉いねえ。


まあ所詮はフェイントも何もないモンスターらしい攻撃。当たる訳ないんだけど。


こんな感じで、余裕なので、横目でシオとロアの方を見ると……。


「うりゃあああ!!!」「おらーーーっ!!!」


『ギシャアアア!!!』


うわ、甲殻の上から武器をガンガン振り下ろして、無理矢理殴り殺してるよぉ……。


やっぱ蛮族だねあの子ら。怖〜……。


そんな訳で、あっちの方はもう虫の息。虫だけに。


もう死ぬんじゃない?いや、死んでるわアレ。


何にも考えずにガンガン殴ってるからもう死んでるけど、生命力がバカ強いから、死骸がビチビチ暴れ回ってる感じ。


その死骸もまた、ガンガンぶん殴ってるんだけど。アレ多分、動かなくなるまで殴るつもりだろうな……。


「ドルー!手こずってるー?!手伝おっかー?!」


お?


何それ?煽り?


「いや、もう終わるよ」


俺は仕込みが済んだので……、もう一度、最初に斬り込みを入れたところに、ショートソードを叩き込む。


『シャアアッ!!!』


また、一センチほど、刃が食い込んだ。


突進を避けて、もう一度。


更に一センチ。


『シャ、アア!!』


もう一度……、一、二、そして三。


流石に、死にそうであることは理解しているのだろうか?それは分からないが、暴れ回る大ムカデは、しかし身体が動かない。


あらかじめ、甲殻を歪ませてあるからだ。


今はもう、突進くらいしかできないみたいだ。


そして……、頭が飛ぶ。斬り飛ばされる。


「終わったぞー」


「あ!ダメだってドルー!虫は死んでも動くよっ!!!」


シオが言うが……。


「動かないんだな、それが」


「……あれー?」


死んだ大ムカデは、ギチギチと音を立てるのみで、殆ど動けずに、大人しく横たえた……。


「えっと、何やったの?」


「ほれ、節のところ見てみろ」


「これは……、形が歪んでる!戦いながら、大ムカデの身体を壊してたの?!」


「そういうこと」


「はー……、すっごいね、ドルーは……」


感心するシオ。


「とりあえず、移動するぞ」


「え?虫の甲殻、売れるよ?」


「虫系は死んだ時にフェロモンを出すからなあ……。ターゲットじゃない場合は、早くその場を離れた方がいい」


「あー、良くわかんないけど、ムカデの仲間が来そうってこと?それは、うん、分かるよ。じゃ、早く先に進もうか」




こんな感じで、遭遇戦をこなしながらも、更に先へ。


大変だが、上手くやれば四日で五十万円の仕事だ。


キツさは当然、受け入れなきゃな。

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