第31話 「冒険」という仕事

朝、冒険ギルドに五人の女が集まっている。


胸の薄い褐色肌の部族民、シオ。


白肌白髪の物静かなエルフ、マーゴット。


これに加えて……。


「お、ドルー大哥!来たアルヨ!」


膨らんだシルエットの、クリーム色をしたズボンと、太極拳の拳法服のような上着を着た、中華風の女……、シャオリン。


「ドルー兄ィ、おはようさん。おらぁ、兄ィと会うの久しぶりだぁ」


身長220cmはある、角の生えた大女、ハナコ。


「ドルーにーちゃん、おはよっ!」


小さめのシオ、と言った感じの部族民の女の子、ロア。


本日はこいつらと、狩りに行くのだ……。




「よし、準備は良いな?」


そして引率は俺である。


何故か?


こいつらに人を率いる才能はねえ!!!


なので、外様の俺がリーダーをやるのだった。


「「「「はーい!」」」」


「シャオリン、馬車は?」


「『青のほうき星』の共用馬車を一台借りたアルヨー」


そうそう、クランのメリットとしては、こういう風にクランの共用財産である馬車を借りれたりするところもある訳だな。


ただ、本来なら馬車は鬼のように高いので、下っ端は借りられない。これは単に、俺に弁済の能力があることと、シオとマーゴットが組織でも上の実力を持っており、信頼されているからだ。


「よし、馬車ありならフォートレスクラブの甲殻を全部回収できるな。青のほうき星への礼金を考えても、一人頭五十万は超えるな」


「五十万リド!良い話アルネ!」


シャオリン……、こいつは金にがめついからなあ……。


こうして金になる話を振ると、即座に着いてくるもん。なんかちょっと心配だよ俺。


「あのう……」


ん?


「どうした、ハナコ?」


「おら達、これから、でっけえ蟹を叩きに行くんだべ?なして、こんだけ人数呼んだんだべか?」


ふむ。


「今回狩るフォートレスクラブは、マーゴットの魔法を何度か直撃させれば簡単に倒せる……。それは間違いじゃない。だが、奴らは群れるし、兵隊であるソルジャークラブを何十匹も配置しているんだ」


「はえー……、つまり、ちっこい蟹がでけえ蟹を守っているってことだべか?それが何十匹もいるなら……、確かに、マァ姉ェを守るのに、数がいるべなあ」


「それに奴らは頑丈だからな……。多分、ハナコ以外は『剛力』を使わなきゃ、歯が立たないんじゃないか?消耗が激しいだろうから、念の為に多めに人数を揃えた訳だな」


「うん、分かっただよ。おらぁ、お兄ィの為に頑張るだ!」


「ああ、頼むよ。……それで、出発するが、忘れ物はないか?」


「グレイブとー、屑布とー、水筒!後干し肉!」


ロアが腰の物入れを開きながら言う。


良い子だね〜!


……食材や余分な水とか、雑貨とかそういうのは俺が持って行きます、はい。




じゃあ出発。


いつもの門衛のおっさんに挨拶をして、馬車で街の外へ。


俺は、普通に飼っている自分の馬に乗って行く。


全身黒い毛色の、大型の馬だ。


足が太く、ここにいる鬼人種のハナコが乗ってもびくともしないような、がっしりした巨馬である。


「あー……、そういや、ドルーの家って馬居たよね……」


「ん、馬。名前は?」


「ゼファーってんだ」


名前の由来?


昔の愛車がゼファーだったので……。


「……西風を司る、古い神の名前?とても、速い子なの?」


「ああ、速いぞ」


当たり前だろ。


この馬は、俺が作った人工生命体。


生半可な馬じゃ追いつけない、とんでもない速さで走るぞ。


それこそ、バイクの方のゼファー並みのスピードでな!


なお、振動のことは考えてなかったので、全速で走ると乗っている人が吹っ飛ばされる模様。


魔力で肉体を強化してしがみつけば大丈夫なんだが、まあヤバいよね。


「……魔力が、普通の生き物と、違う?」


あ、バレた。


流石は魔導師、流石に隠せないか。


「黙っといてな?」


「うん……。後で、教えて?」


そんな感じで、移動移動。


シャオリンは馬車に乗り、馬車を操作。


シオとロアは歩き。


マーゴットは、シャオリンの隣に座っている。


ハナコは巨体だし、体重も重いので、馬車には乗れない。よって歩き。


だが俺は別に歩いても良いので、疲れた子がいたら乗せてやろうかなーみたいな感覚。まあこいつら、ストライダーだけあってフィジカルが強いので問題なさそうだが。


「はえー、でっかい馬だー!馬って、めっちゃ高いんだよね?こんな立派なのを持ってるなんて、にーちゃんはやっぱりすげえや!シオねーちゃんは、良い男捕まえたなあ……」


ロアが言う。


ロアはシオの妹分で、ギラの部族からシオを追ってこの街に来たらしい。


十三歳の子供だが、『剛体』と『剛力』はある程度体得しているので、その辺の兵士よりかは強い。


それに、シオからすると、俺という大戦力が控えている安全な戦場で、経験を積ませてやろうという意図もあるんじゃなかろうか?


部族民、戦闘民族ともなると、殺し合って負けるのが悪い!みたいなスタンスであるのは確かなのだが、それはそれとして情もある。


シオはもうそろそろ一人前って年頃だが、ロアなんて、成人の儀を終えたばかりの子供なのだ。


同族の子供を無意味に殺すことはしないだろう。


……まあ、障害児を間引いたりはするらしいけど、それはまた別の話。


「ふふーん!いいでしょー?ロアも、もうちょっとしたら良い男を見つけるんだよー?」


「うーん……、あんまりいないなー。『青のほうき星』の団長さんが男だったら、僕絶対夜這いしてるのに!」


「いやぁ、男だったら、片目を失ったくらいで貴族を辞めたりはしないんじゃないかなあ……?」


「あ、そっかあ。女の貴族は、顔に傷あるとダメなんだっけ……」


シオとロアは、そうやって会話をしながら歩いている。


しかし、武器の近くに手を置いてあり、いつでも戦えるようにしてあるな。流石プロだ、違うなあ……。


「ふんふんふーん……」


一方で、ハナコは鼻歌なんか歌っちゃって、完全に余裕モード。


まあ鬼人はいきなり車に撥ねられても死なないくらいに頑健な肉体を持つからセーフかね?


ふむ、暇だから日常会話でもするか……。

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