第29話 金木犀の騎士

「なるほど、次は私だな」


おーっとぉ?


カトリーナが出てきた。


なんで????


「ヤダーッ!!!」


俺は駄々をこねた。


全力で駄々をこねた。


「デートをしてくれる約束だっただろう?久しぶりに、滾ってきたぞ……!」


しかし、カトリーナからは逃げられない!


ってか、何で興奮してんの?


マジでやめてよ。


ジェイコブは単なる脳筋だが、カトリーナは洒落にならん。


ミッドフォードのストライダーギルドで一番戦いたくない相手はぶっちぎりでこいつだ。次点でマクシミリアン。


何故か?


貴族出身でクソ強いからだ。


この世界、貴族はめちゃくちゃ戦闘能力が高いのだ。


生まれついての戦士の血統、どこの国でも貴族の根源は戦士階級。その上、ご家庭の秘伝の魔技とか、良い武器とかも持っている。


本当に相手をしたくない、勘弁してほしい。


「問答は無用。行くぞ……!」


「っぶね!」


魔技、『剛力』……。


流石に、ジェイコブのそれには出力は劣るが、滑らかさは段違いだ。


ジェイコブのは、全身から常時バチバチに魔力を発散して機械的なハイパワーを実現しているが、カトリーナの剛力は緩急と剛柔を使い分けて生物的な円滑さを持っている。


相手にするなら、こっちの方が断然怖い。


「はっ!」


うお速ぇ!


一息で木剣の突き、三度!沖田総司も真っ青だな!


一発目は長棒で弾き、二発目は左手の木剣で逸らして、三発目は体捌きで避けた。


狙った場所は、頭、胸、腹のぶち殺しコース!殺す気満々、超怖い!


「これを凌ぐか!」


ニィ、と。


口元を歪めて笑うカトリーナ。


女の顔じゃないよそれ。怖過ぎる。


「嫌だなー!貴族強えもん!」


俺は文句を言いながら長棒を回した。


『剛力』を使っての長棒回しは、早過ぎて目に捉えられない。


「ホラ、モノマネ!」


俺も木剣で突きを三度。


しかし、回転している長棒の向こうから、長棒にぶつからないように放った。


「曲芸か?!」


「次は口からトランプ出そうか!」


長棒を振り上げて、振り下ろす。


盾で受けられたので、手首の返しで長棒の反対側を下から叩きつける。


それは木剣で弾かれたので……おっと、割り込みの盾殴り。戦場のシールドバッシュ、一番怖いやつ。


極近距離のパンチを、身体の捻りを利用し木剣の柄頭で殴って逸らす。ついでに、懐に入ってきたので、長棒を投げ捨ててカトリーナの後頭部に手を添えて引っ張り、ジャンプして顔面に膝を……。


いや、手を掴まれて投げ飛ばされた。組み打ちも強いんだよなあ、騎士って。嫌になるよ。


俺は、あらかじめ計算して投げておいた長棒を、受け身を取りながらも掴み取って構え直す。


「やるな!」


「そちらこそ!」


はい、長棒の回転、剣での突き。


受けられたので、剣を手放して長棒で弾き、剣を回転させて攻撃。


弾かれた。足元に落ちた剣の柄頭を、足の甲で掬い上げるようにして、突き。


避けられた。剣を空中で掴み取り、相手の剣を弾き、長棒で下、下上、右上下と連打。


……これも凌ぐか。では、今度は長棒の方を、振り下ろした地点にブッ刺す。そして、突き立てた長棒に下段回し蹴りを入れて、回転させてフェイント。同時に、別方向から剣で斬りかかる。


これもダメ?!嘘でしょ、対応力が高過ぎる。


ご覧の通り、俺は実力を誤魔化す為に、初見殺しの塊みたいなオモシロ我流剣技を使っているのだが……、初見で何でも対応できちゃう、カトリーナみたいな本物の達人が相手だと、マジで何にもできなくなっちゃうのよね。


「はああっ!」


「うおおわああ?!!!」


そして、カトリーナの剣技!


一番苦手な、ミスの少ない、真っ当に「積み上げてきた人間」の剣技だ!綻ぶことも、崩れることもない正統な剣術には、俺の奇剣は滅法弱い!


何度か攻防、だが俺はじわじわ押される……。


そしてその最後に俺は、回転する長棒を頭上に持っていき、木剣での切り付け、長棒での遠心力を利用した回転叩きつけ、全身での回転を使った木剣と長棒両方の叩きつけを続け様に放つが……。


「うおお!……受けるのこれ?!」


結構強めにやって、木盾を破ろうと思ったんだが……、木盾で全部受けられた。


ありゃ、盾に『徹し』をしているな?


魔技の一つで、物体に魔力を通して強化する高等技術だ。


フルプレート着て、鎧や武器に『徹し』をした騎兵がこのガルニア王国の最強部隊らしいが、アイツらはマジで、攻城兵器のバリスタや煮えた油が詰まった投石器の弾とかをバシバシ弾き返しながら、戦列組んだ歩兵や城壁をバカスカ薙ぎ倒しつつ制圧前進してくるらしい。マジで怖過ぎる。


そんな騎士の生まれであるこのカトリーナも、バカみたいに頑丈だった。


「やるな、アンドルーズ!正直舐めていた、非礼を詫びよう!」


「舐めるんならベッドの上でよろしく!」


「これはどうだ!オオオオオッ!!!」


うげ……!


魔技の中でも最高レベルの技術……、『弾き』だ!


言わば、空間そのものに『徹し』をする……、行ってしまえば「飛ぶ斬撃」!半分魔法みたいな、必殺技だよこれ?!


しゃあねえ、こうなったらこっそり魔法を……!




「疾ィッ!!!!」




……お?


青のほうき星の副長、カエデが、腰の刀を振り抜いた形で止まっていた。


……おいおい、この子も『弾き』ができるのか?!


カトリーナの『弾き』を、居合い抜きの『弾き』で相殺しやがった!


こんな田舎に、なんでこのレベルの戦士がおるんじゃ!!!!


おかしいよね?おかしいよな!!!


「ハあぁ……。はっ?!あ、アノ、その、カテリーナサン?!あんまり、その、ダメデスよっ?!これ以上ハ、殺し合いニなっちゃいマス?!!!」


ワタワタと慌て始めるカエデだが、さっきまでガチで戦士の顔だったぞ……。


怖いよぅ……。


「……ふむ、確かにそうだ。悪かったな、アンドルーズ」


お、素直に剣を引いたカトリーナ。


流石に、副団長からストップがかかれば止まるか。


「本当に悪いと思っているのなら、俺と一晩……」


「すまん、まだ続けたかったか?死ぬまでやるか?うん?」


ンモー、つれないなー。


やっぱり貴族だし、身持ちが固いのかね?


「もー満足したでしょ?帰るからね俺!帰る!」


「じゃあ次は僕とやろっか!」


あーーー!!!

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