第28話 武技遊戯

「ジェイコブ……さん、が強えのは分かったよ!でも、こいつはなんなんだ!」


「そ、そうだ!何で、そっち側にいるんだよ?!」


「ジェイコブさんも、女に囲まれているだけの雑魚を殴れよっ!」


んー……。


新人のガキ共が喚き始めた。


「お、俺、知ってるぜ!ストライダーってのは、強い奴らは偉いけど、クランに入ってないような奴は雑魚でクズなんだ!親父が言ってた!」


「俺もそう聞いたぜ!そいつ、どこのクランのやつなんだよ?!」


おっと、弾劾。


「じゃあ今日は『青のほうき星』と言うことで……」


と、俺が言ったら。


「ふざけるな阿呆」


団長のカトリーナに秒で拒否られた。


カナシイ、カナシイ……。


「確かに、ドルーはクランには入っちゃいねえが、実力は確かだぞ?そもそも、雑魚なら三級にはなれねぇよ」


「そうだよねぇ?おじさんも、ドルーちゃんと山でよく会うけど、一人でかなり奥まで来てるよ?足手纏いにもならないし、料理上手いし、山に籠る時とか居てくれると助かるよねぇ」


「……遺憾だが、こいつの実力を認めるというのは同感だな。何をやらせても上手くやるし、合同での仕事の際に、こいつの薬師としての知見に救われた団員も少なくない」


ジェイコブ、ウィリアム、カトリーナ。


……うん、ストライダー達には評価されてるんだけどね?


「ふ、ふざけんな!納得できるかよ!」


「そうだっ!ストライダーなんだろ、戦士なんだろ?!何でそんな小洒落た奴が!」


「戦えるようには見えないぞ!何かで誤魔化しているんだ!」


まあ、新人に納得はされないよね。


「ククク……、俺の実力が分からん程度のヒヨッコが偉そうに」


なので俺はとりあえず、謎の実力者ムーブで全てを誤魔化そうとした。


「な、なんだとぉ?!」


「良いか?腕のいい戦士は、相手を見ただけである程度の実力は察せるんだよ。それができないってことは、お前らはまだまだ修行が足りんのだ!!!」


「う、嘘だ!どうせ、イカサマしてるに違いないっ!」


「そうだそうだ!」


「それに、お前、チェンジリングだろ?!化け物じゃねえか!」


ギャーギャー!ワーワー!馬鹿みたいに騒いでいる新人共を、俺は適当に煽りつつ、隣に座るシオとマーゴットに抱きついて強者アピールをした。




「あー、でも、僕、ドルーがちゃんと戦うところあんま見たことないや」


「ん、同感」




……んん。


シオとマーゴットが、かーなーり、余計な一言を口に出したぞ?


「……そういや、新人の頃に組んで以来か?俺も」


ジェイコブが顎をさすり、呟く。


「あー、おじさんは剣技は知らないけども、ドルーちゃんって魔獣相手だと頭使って裏をかくもんねぇ。真正面からの実力は、おじさんもちょっと知らないや」


ウィリアムが座りながら適当な発言。


「……確かにな。ここいらで、こいつの本当の実力を試しておくのも悪くない」


カトリーナがなんか言ってる。


「おいおいおい、辞めろよマジで。今日はほら、鎧も着てないしさ?武器だって剣しか……」


隣に立つシオに、長棒と木剣を押し付けられる。


あーーー……。


「やだよーーー!!!お前らそこそこ強いじゃん!!!」


「お?挑発か?」


そこそこ、という言葉に反応したらしいジェイコブが、ニヤリと口元を歪めて、ふざけるように言う。


「いや単なる事実。ストライダーも上位だとそこそこ手こずるからやりたくないんだよね……」


そして俺は、嫌々ながらも武器を構えた。


「言うじゃねえか!吐いた唾は飲み込めねぇぞ!!!」


ジェイコブが、訓練用の木製斧を構えた。


はあ……、やるか。




ジェイコブは、貴族の戦士のように、多種多様な魔技を巧みに使いこなしたりはできない。


こいつにできるのは、一つ。


「うりゃアアア!!!!」


極めて強度の高い、『剛力』のみ。


魔力によって頑丈になった肉体で、受けて、殴る。


ただそれだけのシンプルな男だ。


そしてそのシンプルさが一番の強み……。


「けど、魔力の出力は俺の方が多いんでね」


真正面。


斧の一撃……うわこれ殺す気か?本気だぞこれ。マジ?友達だよね俺?


この一撃を、俺は。


右手の長棒で、包み込むような柔らかさで、受け止めた。


「おーい、木刀とは言え、これ人死ぬぞ?ひでぇなあ、友達を殺そうだなんて」


「マジ、かよ……?!」


涼しい顔した俺がそんなに不思議か?


「……だがよ、調子くれてんなよ?!」


おっと、凄まじい蹴り上げ。


岩くらいなら砕けるんじゃない?


身を引いて避け……。


お、踏み込み。


四股を踏むような要領での踏み付けか。


ジェイコブは二メートル超えの巨漢だもんな、そんな手段もあるということかね。


もう一歩、更に退く。


その時、右手の長棒を後ろ手に、地面を突く。


「甘ぇっ!」


踏み込みからの、横薙ぎ斧一閃。


だが俺は、地面に突いた長棒で、背面棒高跳び。


大きく距離を取った。


「ひゃー、こえー」


「まだまだ行くぞォ!!!」


お、盾を構えてのぶちかまし、体当たりなー。


これ、一番怖いやつだな。


体当たりはあらゆる生命体の最強技の一つだ。


特に、大きな生き物の体当たりは、それだけで怖い。


が……、うん。


ジェイコブは技術面はそんなんでもないな。


「ほい」


「ォあ"っ?!」


体当たり最初の一歩、加速し切る前に、緩急をつけて前ステップ。


そこから、不意打ち気味に、足元に長棒を投げつける。


当然、足が絡まって倒れるジェイコブ。


そこに、俺は木剣を叩きつけた……。


「こんなもんでいい?」

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