第27話 威を示す
で、このギルドに在籍している上位ストライダー共に捕まって奥へ連行され、俺は酒場の席に座らされた。
「あはははは!まあ諦めなよー、ドルー?今日くらいはさ、こうやって地域こーけん?みたいなのをやろうよ!こういうのって、大事だよー?」
シオが笑うが……。
「そんなん言ったら俺、ミスガンシア伯にめちゃくちゃ貢献してるんですが、それは……?」
という話である。
俺はぶっちゃけ、ミスガンシア伯の切り札の一つみたいなもんだぞ?
「じゃ、ギルドにも貢献しなきゃ!」
「えーーー?」
「まーまー、ここで見所がある新人は勧誘できるんだし、僕達にも利益はあるよっ!ドルーもさ、これを機に徒党(パーティ)とか組めば?」
「やだよ〜?!既に俺、ウチに弟子いるんだよ?」
「えっ、あの魔族っ子ちゃん、戦えるの?」
トリスのことね。シオはあんまり、他人の名前覚えないから……。
「護身術程度は仕込んであるよ?」
あ、これはマジ。
トリスは小柄だが、魔族らしい魔力の多さと柔軟な肉体を持つので、合気道っぽいものを教えてある。あと剣も少し教えておいた。
やっててよかった、前世の武道……!
「ん」
「おお、マーゴットか。魔導師とかいる?」
横からマーゴット。
まあ、この世界における魔導師は、地球で言う宇宙飛行士くらいハードルが高く、人数が少ないのだ。
つまりはドの付くエリートで、ストライダーなんぞになろうとする魔導師は普通じゃないのだ。
「ん、いない」
「だよなー」
「でも、見どころある子、いるよ?」
んー?
……あー、まあ、新人さんにしてはちょいとできる奴とか、ちょっぴり剣術を齧ってる奴とかもいるね。
でも、大した差じゃないだろ。
「誤差では?」
「ん。最終的には、気持ち?やってみないと、分からない……」
うん、そうだね。
ストライダーって、かなりキツイ仕事だからね。
実際にやってみないと分からんところは大きいだろうよ。
いやそんなん言ったらあらゆる仕事がそうなんだけどね?
でも特に、ストライダーは理想と現実のギャップが大きい。
まず「ストライダー」ってのが、英雄譚に出てきた英雄の通り名みたいなもんで……、意味合い的には「放浪者」とかそんなんなんだけどさ……。
その、ストライダーと呼ばれた放浪者が、仲間を集め、魔王を倒した、所謂「勇者伝説」!これに肖って、冒険者のことをストライダーと呼ぶ!みたいな習慣ができた訳よ。
それまでは、臨時傭兵とか予備狩人とか自警団とか、そんな存在だったの、ストライダーの前身は。
だから、みんな「英雄になるんだ!」と思って田舎を飛び出してくるんだけど……、今時魔王なんざいないし、やることと言ったら街道のゴブリン退治とかのもん。
おまけに、平和な世でも魔物は強いので、大怪我も死ぬことも当たり前。
そりゃ、イヤになって辞めちゃう人も多いってもんよ。
そんな訳でストライダーは、一年目での離職率五割超えのクソ職なんだよね。地球ならブラックどころじゃないぞこれ。
……だが、こんなクソ職を楽しめる奇特な奴や。
「ガハハハハ!今年もイキの良いガキ共が来たじゃねえかぁ!どれ、一丁しごいてやるかあ!」
確かな技術を持った奴。
「はぁ……、ま、お仕事だからねえ……。できる後輩君が来てくれたら助かるし、おじさんも頑張るかぁ」
貴族の出自などのコネがある奴。
「『青のほうき星』よ!我々のクランは、剣でしか生きられぬ女達の最後の砦!故に、大々的な募集はしないが……、それでも新たな仲間を歓迎しようではないか!」
……そんな奴らにとって、ストライダーは悪くない仕事らしい。
もちろん俺には向いてないなーって感じなので、気配を消して縮こまっていた。
「えへへ〜」
「ん」
しかし女がくっ付いてくるので無理だった。
「帰して……、帰して……」
「もー、諦めなよー!男らしくしろー!」「ん、演習」
ここはギルドの裏庭。
ギルド員としての規則説明もそこそこに、早速木刀でのしばき合いとなっていた。
何故か?
ストライダーになるようなカッペに、難しい規則や法律なんて分かる訳ないじゃん?
規約も、「殺しません!」「盗みません!」「犯しません!」レベルだが、これもストライダーを目指すようなカス共には守るのが難しい規約だからね!
なので、最低限上の言うことを聞くように、まずは力の差を分からせるってことだな!
まるでサル山のサル同然だが、ストライダーギルドなんて実質サル山みたいなもんなのでセーフという大胆な理論だ。
「そるるぁ!!!」
「ギャーーーッ!!!」
おーおー、ジェイコブ。
『狼の牙団』の団長が、イキの良いガキ共をボコってるわ。
本気でやったらマジで冗談抜きで死ぬのでかなり手を抜いてるが……、それでも、これでジェイコブに逆らおうって奴はいなくなるだろうな。体育会系ィ……。
「はい、集まってねー。じゃあ、弓が引ける子は、ちょっとやってもらおうかな」
ウィリアム率いる(?)、『導きの鷹』も、新人の弓の腕を見ているな。
「カーディ、新人共の腕を見てやれ!」
「ヒヒっ、はいデス!」
青のほうき星は……、うん、女だからって舐められないように、突っかかってきた舐めた男をボコってる。
総評すると……。
狼の牙団は、割と結構死傷率が高い、半分傭兵団みたいなもんなので、いつもイキの良い荒くれ者共を募集しているな。
いや本当に、戦争とか魔物氾濫とか近隣に魔窟ができただとか、そういう「事件」がなくとも、狼の牙団は年に五、六人は死ぬか大怪我で引退している。
まあ、ここは本当に、知識も技能もないが気合いだけはある奴が最後に残る場所みたいな感じだから仕方ない。
え?気合いがない奴?心折れて実家に帰るよ?
……導きの鷹は、縁故採用が殆どかな。近隣の村々の、狩人の血縁者とかで固まってる。最初からある程度の知識技能がないと採用しないらしい。
こいつらは魔獣や動物を狩るクランだからな。知識がない奴はそもそもお断りだそうだ。
それに、ストライダーは狩猟権も兼ねている面もあるから、ある程度の知見がないと無理で、狩り過ぎると領主にキレられてしまう。山林の調査なんかもやらされてるし、色々と考えることが多く、意外とバカにはできない仕事なのだ。
青のほうき星は……、そもそも、ある程度真面目にやれる実力があり、尚且つ、普通の徒党に入れない訳ありの女の子が集まるところ。
例えば、遠くから来た部族民、エルフ、異国人、元騎士……。そんな奴らの互助会みたいなもの。
普通の女の採用はしていないし、男も基本的にNGなので、普通の手段では入団できない。
ここにはいない守護者の盾も、貴族の庶子であるマクシミリアンが率いる、良いとこの子のみ入れるクラン。
あそこは、貴族の庶子や騎士の家系の子などが色々あって集まったクランで、その人員の質を以って、貴族の護衛のような普通のストライダーにはできない仕事をして稼いでいるところだ。
当然、カッペのガキはお呼びでない。
……まあ今日は、純粋にボコって身の程を教える会かな。
バカは一回ボコられないと力の差が分からないから……。
「ちょ、ちょっと待てよ!あいつはなんなんだ?!」
「そうだ!あの男はなんだよ!」
「女に囲まれてて、弱そうだぞ!」
んー……?
なんか始まったな。
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