第26話 新芽の季節にて

春も終わり、そろそろ暖かくなりつつある。


地球で言えば四月から五月くらいかな、今は。


ただ、日本とは違ってカラッとしたヨーロッパ的気候なので、暖かくなったと言っても実感はあまり湧かない。


それでも、動物や植物は人間より鋭敏な感覚を持っているようで、冬眠から起きたり、新芽を出したりなどと、元気いっぱいな感じ。


非常によろしいねぇ。


そんな、暖かくも涼しい、過ごしやすい日に俺は……。


「ゲーッハッハッハァ!!!行くぜェ、アンドルーズぅ!!!」


「はいはい、分かったから……」


何故かギルドの裏の訓練場でストライダークラン『狼の牙団』の団長である大男、ジェイコブと、結構ガチめな手合わせをしている……。




何でこうなったか?


回想してみよう。




今朝の俺は、いつも通り気持ちよく起床し、トリスと食事をして、ギルドに向かった。


また、無料キャバクラを楽しみたかったからだ。


可愛い女の子と会ってお話しして、しばらく酒でも飲んじゃおうかな〜!というテンション。


いつものように、手土産兼酒のつまみを持ってギルドの戸を開いたら……。


「あいつ、誰だ?」


「あれも、ストライダーなのか?」


「ちぇっ、気に食わねえな。顔だけだ、あんなの!」


あ、あー……?


そうか、春……。


今年の春は思いの他寒く、遅れていたのだが……。


普通、春には、ミッドフォード周辺の村々から、ストライダー希望のガキ共が集まる季節……!


ストライダー希望のガキと言ったらもう、面倒で厄介だ。


こんなヤクザな稼業をやりたがるんだから、跳ねっ返りばっかりだし……。


「おい、お前!」「調子乗ってんのか!」「おいこら!」


力の差が分かるほどの実力もないから、こうして絡んでくる……。


ああ、面倒臭い。


もう今日は帰ろう。


そう思って振り返ると……。


「おはよー、ドルー!」「ん、おはよう」


シオとマーゴットが来ていた……。


いや、それだけじゃない。


ストライダークラン、『青のほうき星』の団長……。


「カトリーナ」


「パスカルさんと呼ばんか!」


元近衛女騎士の、カトリーナ・パスカル団長までいる……!


「カティ、今日はどうしたんだ?俺に会いに来てくれたのか?」


「……斬るぞ?」


「分かった、すまん。だが、本当に何の用だ?こんなガキ共いっぱいの日に……」


「ふん、貴様はこの時期には面倒を嫌ってギルドに顔を出さんから知らんのだろう?いつもこの時期は……」


「おい!ババア!俺の話を……」


おっと、俺に絡もうとしていた新人のガキがしゃしゃり出てきた。


「何だ、この小僧は……?失せろ、私は今、アンドルーズと話をしている」


「うるせぇーな!俺を無視するんじゃねえ、このブスばべぇらぁ?!」


俺が殴り飛ばした。


「あっ、がっがぎ……?」


「おいガキ、カトリーナは美しい。侮辱するな」


「あ、あ、ひ……!」


逃げて行ったガキを放っておいて、カトリーナへと向き直る。


「はぁ……、貴様という奴は……。あのな、私達高位のストライダーは、新人の教育に協力するのが当たり前なのだ!それを殴る奴がいるか?!」


「良い女に礼を払うのは、ストライダー以前に男として当たり前では?」


トリスも、奴隷だし、家族ごっこを半分強制しているようなもんだが、あれはあれで尊重してやっている。


顔もスタイルも、表立って貶したことは一度もないぞ。


況してや、カトリーナ。


流れるような金髪と、整った眉目の、華麗なる女騎士。


隻眼であるが、それすらも、その傷すらも素敵だ。


この美しさを貶すなんてあり得ない。


「あー、もう、分かった!……全く、私がこんなに冷たくしているのに、どうして貴様はこう……、私のことを好いてくるのだ?」


「そりゃカトリーナが素敵な女性だからだよ。じゃあ俺はここらで失礼させてもらう」


さて、口説いたので逃げよう。


「……カトリーナ、この手は?」


しかし捕まった。


「逃すと思うか?」


「まあ待てよカトリーナ。デートなら夜に……」


「じゃあ昼はおじさんとデートしてほしいなあ!!!」


クソデカボイスで掴みかかってくるのは、『導きの鷹』団長のウィリアム。


「俺にもつきあってもらいてえなあ?えぇ?!」


低い声を出しながら肩に手を置いてくる、ケツアゴの巨漢。


『狼の牙団』団長のジェイコブ。


うーん。


「……帰って良いか?」


「「「ダメに決まってんだろ」」」」


はぁ……。

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