第20話 狩りの後の
ウィリアムの仕留めた熊型の魔獣……名前はマーダーベアとか言うらしいが、それを運ぶ手伝いをした。
だいぶ重かったが、二人で背負ってきたわ。
バラして肉と使える臓器、それと皮だけだったからまだ持てる量だったな。でも討伐の証拠ってことで、頭骨はそのまま。
ギルドの職員の一人……確かミレディの兄貴だったか?こいつが獲物の解体とか評価とかをしているらしい。頭骨はその際に必要なのだとか。
まだ若いが目利きは確かだと評判だ。少なくとも、獲物を過小評価されてぼったくられるなんてことはない。
で……、今。
時間的には夕暮れ。
この時間帯は、依頼を終えたストライダー共がゾロゾロと帰ってきて、酒場で飯を食う頃……。
「おおっ、またすげぇのを仕留めてきたな」
「アンドルーズがやったのか?」
「いや、ウィリアムじゃないか?アンドルーズはもっと手頃なのをやるだろ」
「でもこの前、バーゲスト狩ってたじゃねえか」
「ありゃまた女の都合だろぉ?女の子にモテモテのアンドルーズ様だぜ?」
「あーあ!金持ちで顔も良くて腕も立つとか、本当にムカつくなあいつ!」
ご覧の通り、飲んだくれてるストライダー共がクダを巻いているな。
「すまん、本当にすまん。金持ちで顔も良くて腕も立って学もあって女にモテて気が利いて本当にすまん」
俺が誠心誠意謝りながら、野次馬を押し退けてカウンターに進むと……。
「さりげなく追加しやがったぞあいつ……?!」
「やめとけ、皮肉言って打ちのめせるような相手じゃねえよあれは」
「こまった、ちょって勝てない……」
野次を受けつつ進むと……。
「お帰りなさいませにゃ、ドルーさんっ!」
ミレディからのお出迎え。
「ああ、ただいま、ミレディ」
「えーっと、報酬はウィリアムさんと山分けかにゃ?」
「いや、俺は解体を手伝っただけだから、受け取らない。ただ、肉を貰って……あ、厨房借りていいか?」
「良いですにゃ!……使用料は五千リドですにゃあ」
「あー、それならおじさんの報酬から出してもらって良いよぉ」
「はーい!」
ウィリアムに厨房使用料を奢ってもらう。
お?
あれは……、シオとマーゴットか。カエデもいるな。
りんごが入った籠を運んでいる。
「あ、ドルーじゃん。どしたのー?」
「シオ、そのリンゴ、いくつかもらって良いか?代わりに、今から料理をするんだが……」
「えっ!ドルーの料理が食べられるんなら、全然良いよー!マーゴットもいいよね?」
「ん、おやつ……」
しゅんとするマーゴット。シナシナエルフだ。
「まあまあ、森リンゴはまだ別の機会で良いじゃん?」
「あー、リンゴを全部くれるなら、アップルパイをついでに……」
「全部あげる」
音速手のひら返し。
流石はマーゴット、甘いものに目がないねえ。
「オ料理ですかア?」
「うん。熊肉だけど、ヒレ肉だから美味いぞ〜」
「ワァ、お金払イますから、ご一緒してモ……?」
「もちろんだ。金もいらんよ」
「アリガとうございマス〜!」
で、料理。
えー、では、リンゴをすりおろして、醤油と酒とニンニクと……、後ごま油で……。焼肉のタレだ。
これを肉に絡めてしばらく漬けておく。
約束通りにアップルパイも焼き……当然、持ち込んだ砂糖とシナモンを入れてやる。
そして肉を焼き、付け合わせの野菜も千切りにして……。
ここで持ち込み素材発動。サンチュを持ってくる。
これに包み、辛味噌もつけて食べれば、俺の勝ちは揺るがないな……!
そんな訳で、ギルド内の酒場に大皿を持って帰還。
素材提供者であるウィリアムと、シオとマーゴット、カエデにはタダで食わせる。
ミレディにもだ。小麦粉とか貰っているので……。
「えっと、これは?」
「この葉っぱに肉と野菜を包んで、お好みで辛味ペーストをつけて食べると良いよ」
「はえ〜……、ん、この葉っぱ美味しいねえ?!ドルーの家の前にある菜園で育てたやつ?」
「そうだよ」
「ドルーの菜園、薬草だけじゃなくて野菜も作ってたんだねえ」
本当は『庭園』産だが。
「そうだよ」
と、適当な顔をして誤魔化す。
「……『庭園』のもの?」
こっそりとマーゴットが聞いてくるので、それは肯定した。
「……大丈夫?貴重なものでは?」
「いつも余るくらいに生産しているからな。肥料にするのも勿体無いし、こう言う時こそお前らに食わせなきゃな!」
「それなら、まあ……」
さて、納得していただいたところで、食事を始める。
えー、サンチュに千切りの玉葱と人参、そして焼いた熊肉を乗せて、くるっと巻いて口に運ぶ……。
んー!美味い!
熊肉って言っても、一番美味いところを使っているからな!
油の甘さと、熊肉の滋養が身体に満ちて、暑くなってきた!
「くぁ〜!うんまいねえ、これ!ミレディちゃーん、エールくれる?」
「あ、僕も〜!」
これでエールもキメれば、もうバッチリですよこれ。
「ア……!こ、これ、『味噌たまり』?」
あ、そうか。
カエデは東洋人だからな。
味に覚えがあるってことか。
味噌たまり……、ニアイコール醤油だし、この世界の東方には味噌も醤油もあるんだな。
「そうだぞ〜、最近作っててなあ」
「アノ……、良かったラ、少し……」
俺は醤油の小瓶を渡す。
「ありがとウゴざいますゥ!あ、オカネ……」
「いいよ、カエデにはいつも世話になってるもん」
「わ、悪いデすよぉ……」
「いいって!」
こういうところでちょいちょい好感度を上げておくのがモテるコツだぞ。
「んー、美味いねえこれは!良いよなあ、ドルーちゃんはなんでもできてさ」
おっと、酒の入ったウィリアムはネガティブになるぞ。
「ウィリアムは結婚とかしないのか?」
「いっや〜……、おじさんはモテないからさあ……」
「でも甲斐性はあるでしょ?」
「アノ、良かったら、ウチの子を紹介しマス……?」
とカエデ。
『青のほうき星』は女だけのクランだし、結婚して引退ってのは悪くない終わり方だろう。
「で、でもさあ、おじさんは……」
「あ、ウィリアム、結婚するの?良いんじゃない?ウィリアムは優しいし」
「ん、長続き、する」
シオとマーゴットも賛成。
まー正直、ならず者に近い扱いを受けるストライダーは、中々結婚なんてできんからなあ……。
地元民で、城壁の外とは言え家を持つウィリアムは、実はそこそこに優良物件だ。
なんでこいつ結婚できないんだ……?
「い、いや、その……、女の人、苦手で……」
「「「「……えぇ」」」」
単なる童貞だったか……。
こんな感じで、ストライダー仲間とも仲良くしている。
うーん、いい生活だあ。
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